ソムリエ店主に聞く 家飲み×コンビニ ワイン術 01

【新連載】 ワインとの相性を決めるのは? チリ産シャルドネ×冷凍マンゴー

最近は近くのコンビニやスーパーで、安くてそこそこ美味しいワインも手に入るようになりました。でも、ワインのお供の“フード”までは、満足のいく出会いはなかなかないですよね。『男と女のワイン術』の共著もある銀座のワインビストロのオーナーソムリエ兼シェフが、身近に手に入る食材とリーズナブルなワインとで、ミレニアル世代も納得の“マリアージュ”をちょっぴり科学的に提案します。

毎日の食卓にお手頃ワインを

みなさん、ワインはお好きですか? 好きだけどビストロやレストランは敷居が高いから立ち飲みで一杯とか、もっぱら家飲み専門です、という方も多いと思います。

ワインとフードの基本的な合わせ方には、魚には白、肉なら赤、一番簡単なフードはパンとチーズ…といったところが定番ですね。今日開けるワインに合いそうな食べ物がすぐに手に入れば、ワインはもっと楽しくなります。最近はコンビニの棚にも20種類は優に並んでいます。ちょっと規模があるスーパーなら200種類くらい並んでいます。フードが先に決まっていて、そこからワインを選べたらいいですよね。ワインとフードの相性について、基本的なお話から始めてみます。

ワインを普段から沢山飲んでいる人たちをみてみましょう。全土でワインを造っている欧州、中でも地中海に面している国々では、朝食はともかく、それなりの料理を食べるときにはほぼ必ずワインを飲みます。昼食でもちょっとした御馳走なら少し飲みます。ワインはアルコール飲料でなく、食事をより盛り上げる為のツールだという人もいます。元々アルコールが強いこと、これらの地の水事情――ワインより飲料水が高いとか――もあるのでしょう。
「ワインを飲むことで食事が完結する」
「ワインは料理の最後のソースである」
といった言われ方があります。

日本の食事は、白米・味噌汁に主菜・副菜が基本。主菜・副菜には醤油、出汁(だし)、みりん、砂糖などが入った、いわゆる「甘辛」な味付けが多く、それらはビールや日本酒には合うのですが、ワインはというと……。ちなみに、ワインを毎食のように飲む欧州の料理には、ほとんど「砂糖」は使いません。私の店の料理もそうです。ウチの店には砂糖は一粒も置いていません。

ワインはブドウからできているので果物や花のニュアンス(=果実味)があります。料理の味付けが砂糖で甘いと、ワインを飲んだときに、その果実味が殺されるようです。だから日常的にワインを飲む地域では、基本、料理に砂糖は使わないのでしょう。食事もワインも終わったあと、デザートとして甘いものを食べるわけです。日本と違い、いまだに欧州産のお菓子って、しっかり甘いですよね。砂糖をたっぷり使ったデザートに合わせる為の、特別に造った極甘口ワインもあります。
さて、身近なコンビニでもワインの選択肢は広がりましたが、フードはといえば、並んでいるのはお弁当類、パックされた惣菜や食肉加工品、惣菜パンなど。包装に記されている原材料名をみると、砂糖の入っていないものを探す方が難しいくらいです。一見、ワイン向けの味付けの「BBQ味」「チーズ味」といったスナック菓子にさえ、実は砂糖が結構使われています。(そうしたフードの多くはビールやハイボール、酎ハイやサワーなどのアルコール飲料には合うと思います)
一方で、同じ甘味でもワインと合わせていけるもの、逆にピタリとマッチするものもあります。コンビニで買えるもので、以下のフードを確かめてみてはいかがでしょう?

・冷凍マンゴーとドライマンゴー 
この組み合わせは、お店のななめ向かいにあるコンビニで買いました。ワインは税込700円でお釣りがくるチリ産白シャルドネ(Chardonnay)です。シャルドネとは原料であるぶどうの種類(品種)の名前でもあります。このワインにフードを足しても1000円でお釣りがきます。ドライマンゴーの原材料名にはしっかりと砂糖が表記されています。
白シャルドネを含んでみましょう。蜜のような感じと、トロピカルフルーツのような華やかさと甘さが感じられるでしょうか。フルーティーな味わいです。ドライマンゴーを口の中で噛んで味わいを出したところでシャルドネを含むと、蜜やフルーツの感覚が失せ、酸味だけが際立って感じられるでしょう。この感覚が、砂糖の影響だと思われます。

今度はマンゴーを食べてみましょう。ガチガチに凍った状態だと味がわかりにくいので、少し溶けかかって柔らかくなったものか、口の中で溶かしてから噛んで味わうと分かりやすいです。完熟ものなので甘味はしっかりしています。ここでシャルドネを含んでください。するとマンゴーの味と絡み合うというか、マンゴーの味とワインの味を足し合わせた以上の、相乗効果的な楽しさがあるようです。これがいわゆる「マリアージュ」です。

砂糖の甘さは「ショ糖」、今回のマンゴーをはじめ果物の甘さは「果糖」で、成分も質も違うものです。同じ甘味でも果物(果糖)由来ならワインとの相性もまずまずというわけです。マンゴー以外にも、コンビニで買えるカットフルーツで面白いワインとの組み合わせが考えられます。

ここで、今日の結論。ワインを飲むときは「砂糖を控えた味付けのもの」を。どうしても甘いフードを合わせたいなら、砂糖の代わりにハチミツを使うという手も。これからも意外で面白いワイン×フードの新提案をお送りします。お楽しみに。

芝浦工業大学工業化学科卒。人工サファイア製造メーカーに勤務時のフランス出張でワインに目覚め、29歳で転身。2000年に銀座に「わいん厨房たるたる」を開業。オーナーソムリエ兼シェフ。趣味はワインのブラインドテイスティング(利き酒)。 共著本に「男と女のワイン術」(日経プレミアシリーズ新書)
出版社に勤務中、定時に帰宅できる部署に異動になったのを機にワインスクールに通い始め、ワインにハマる。2019年3月、出版社を退社。現在はライター業の傍ら、ワインバーを開く夢に向かって飲食店で修業中。
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