ソムリエが教える 家飲み×コンビニ ワイン術 03

【連載】渋みが大事です。チリ産カベルネ×バター付きぶどうパン

前回、ワインの味わいには果実味と酸味があり、赤ならそれに渋味が加わるとお話ししました。食事と合わせるときにはワインの果実味と酸味を生かすことがポイントであることを理解していただけたでしょうか。では今回は、赤ワインの重要な味わいである「渋味」をみていきましょう。

バターのあとには渋~いカベルネ・ソーヴィニヨン

渋味は、それだけでは心地好いものではないですね。日本人は日常で煎茶を飲みますが、湯温に気づかい、渋味をやわらげるようにするくらいですから、日本人にとって渋味は慣れていない味わいと言えるでしょう。

食パンにレーズンが入った「ぶどうパン」を買ってきてください。それからバター(有塩)、ワインはチリ産の赤、カベルネ・ソーヴィニヨン(Cabernet Sauvignon)とラベルに刷られたもので、今回はちょっと高めの1400円くらいのものを用意して下さい。カベルネ・ソーヴィニヨンとは第1回のシャルドネと同様、ぶどう品種の名前でもあります。

チリ産カベルネ・ソーヴィニヨンはこの半値で買うことも出来ますが、実は渋味のしっかりした赤ワインというのは1000円以内ではなかなか得られないのです。カベルネ・ソーヴィニヨンはもともと渋味の強い品種ですが、高いワインになるほどその本領を発揮します。今回は渋味をより感じてもらうためにこの価格帯のものを選びましたが、渋味と価格の関係も覚えておくとよいでしょう。

まずはぶどうパンを食べましょう。よく噛んでパンとレーズンが混ざり合って一様な味わいとなったところで、カベルネを含みます。同じぶどう同士なので実に合う。一体感があります。レーズンの甘味は果糖ですから、第1回の冷凍マンゴーと同じですね。レーズンには甘さだけでなく酸味もあり、ワインとの相性をさらによくしています。パンを噛んで口中は乾いていますから、水分がやって来た嬉しさもある。しかし一方で、ワインの渋味はしっかり主張し続けています。飲みこんだあとにも、舌がぴりぴりするような渋味が残りますね。

では次に、ぶどうパンにバターをたっぷりつけて食べて下さい。そしてカベルネを含みましょう。その瞬間、渋味がやわらいで軽くなったように感じられませんか? バターの脂っこさも拭われて口の中がすっきりとしているはずです。

渋味には脂を中和するような作用があります。鶏のササミなどは別として、肉には脂がつきものですから、渋味のある赤は肉料理のお供によいわけです。ワインを含むと口中がリフレッシュされると同時に味覚もリセットされるので、また肉に向かいたくなります。先ほど日本の食生活での渋味として煎茶を挙げましたが、例えばマグロのトロのお寿司など、脂ののったネタを食べた後にお茶をすすると口が洗われますし、中華料理ではウーロン茶などを飲むのも同じでしょう。アルコールを飲むという感覚でなく、箸休めや口直しとして、日本の食卓にもっと赤ワインが登場してもよいのではないかと思っています。

バター付きパンを一緒に食べると赤ワインの渋味が緩和されましたが、逆に、渋味のある赤をより楽しむために、料理に油を取り入れるという発想もあります。イタリア人が、食べ物なら何にでもオリーブ油をかけるのは、赤ワインを飲むためかもしれません。イタリア産やスペイン産赤ワインとオリーブ油はとても合うので、ぜひ試してみて下さい。チリ産赤でもイケます。

今回は動物性油脂のバターと赤ワインを合わせて、油分の強い食材や料理にはワインの渋味が口直しになることを知ってもらいました。油を使った様々な料理がスーパーやコンビニに並んでいますし、油のなかには健康によいとされる種類の油もあります。賢くおいしく油を摂るために、それらにどんなワインが合うのかを、今後提案していきたいと思います。

芝浦工業大学工業化学科卒。人工サファイア製造メーカーに勤務時のフランス出張でワインに目覚め、29歳で転身。2000年に銀座に「わいん厨房たるたる」を開業。オーナーソムリエ兼シェフ。趣味はワインのブラインドテイスティング(利き酒)。 共著本に「男と女のワイン術」(日経プレミアシリーズ新書)
出版社に勤務中、定時に帰宅できる部署に異動になったのを機にワインスクールに通い始め、ワインにハマる。2019年3月、出版社を退社。現在はライター業の傍ら、ワインバーを開く夢に向かって飲食店で修業中。
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