語学学校職員・内山登緒子さん(32歳)

フィジーで海外別居婚。「ありのまま」を受け入れる島で貫く「カジュアル夫婦別姓」

南の島で暮らしたい。そんなことを夢見たことはないでしょうか。そんな環境で実際に生活しているのが、南太平洋にある人口90万人ほどの島国、フィジー共和国で語学学校の職員をしている内山登緒子さん(32)。今はフィジー人向けの日本語学校の設立という一大プロジェクトを任され、奔走中です。 「世界で一番幸せな国」とも呼ばれるフィジーでリーガルウエディングをして、海外別居婚という形で「カジュアルな夫婦別姓生活」をしている内山さんに、「緩いけれど自分らしさを貫ける」生き方について聞きました。

フィジーでは「ケレケレ」されたら断れない

フィジーはかつてイギリス領だったので、英語が公用語です。私の所属するフリーバードインスティチュートは英語の語学学校を運営していて、日本人を中心に中学・高校生や社会人、シニアの方々の語学留学を受け入れています。

私は発展途上国で1カ月、ボランティアをしたこともありましたが、それと比べるとフィジーでの生活はそんなにハードではありません。確かに医療は日本の方が進んでいるし、停電や断水も1カ月に1回くらいあります。でも、道路はちゃんと舗装されていてきれいです。

日本と比べると、人の温かさがやはり違います。たまに1、2週間、日本出張があるのですが、「行ってくるよ」と言うと、フィジー人のスタッフたちは「寂しい。行かないで」と言ってくれて、帰ってきたらハグしてくれます。仕事ではもちろんハードなこともあるのですが、そういうフィジー人の人懐こさや温かさに助けられてなんとかやれているのかな、と思います。「あなたはあなたのままで良い」とよく言われるのですが、頑張りを認めてくれて、「あなたは頑張っているよ。間違ったことはしていないよ」と、物事を否定せずに受け入れてくれる言葉がすごく嬉しいですね。

内山登緒子さん(左)と、所属する会社が運営する語学学校の副校長

フィジー人からは男女ともに生きづらさ、というものは感じたことがありませんが、見せないようにしているところはあるのかもしれません。

DVされた経験のある女性もいるようです。実力主義というよりは、親戚や家族の繋がりをすごく重視して、「目上の人が言うことは絶対」というところもあるようです。ただ、逆にそういう繋がりや優しさで助けられているところもあるようなので、一長一短なのかな、とも思います。

例えば、フィジー人にはシングルマザーが結構いて、中には子供が6、7人いるような人もいます。でも、家族や親戚で子供を見るのは当たり前。そしてフィジー人には「ケレケレ」という、ものを共有する文化があります。ケレケレは英語でいう「プリーズ」という意味なのですが、「子供を預かって」とケレケレされたら断れない。絶対に預からないといけない。そういうので何かしらかの繋がりがあるから社会が成り立っていて、日本みたいに孤立しないのでしょうね。

予定外だった「海外別居婚」

私が30歳になるタイミングで、結婚前の今の夫が現在の仕事に転職する、という話が出ました。日本とフィジーとを半々で行き来する生活になる、と。「だから、登緒子は登緒子で自分の好きに生きて良いよ」と言われたのですが、私は「私が自由にするのは元々当たり前です。ただ、2人の生活をどうするのかを考えるのがカップルなんじゃないの?」と怒りがこみ上げてきて、付き合って8年で一、二を争うくらいの激しいけんかをしました。

でも今思えば、私も海外で働きたい気持ちがあったので、ちょっとうらやましい気持ちもあったのだと思います。そこで、「どうせ半々になるなら私もフィジーに行く」と決めました。

ただ、夫と同じ会社に入社してみたら、夫の方は9割方日本で仕事をしていて、私はフィジーの現地採用。図らずも別居婚となり、一時期は「結婚した意味があったのかな」と悩みました。

所属する会社が運営する語学学校で作業をする内山さん

でも、慣れましたね。確かに、しんどい時に話を聞いて欲しい、という気持ちはありますが、こちらの多くの方々に助けていただきながらも結局、最後に何とかするのは自分。だから、自分で何とかできる、という自信を持っておきつつ、夫に「これだけやったからすごいでしょ」と自慢できる方が良いのかな。

何でこういうことをしてくれないの、と思う方がメンタル的に不健康。そういうのから脱却できたのは良いことかな、と思います。あとフィジーに来て、日本と同じようにいかなくても仕方ないとあきらめる「あきらめ力」がついたところもありますね。

フィジーで法律婚も、日本では「事実婚」

私の母親は強い人で、女性の支援活動や夫婦別姓運動をしていました。戸籍を変えて旧姓使用をしていますが、そのためにいろいろと大変なこともあるのは身近で見ていました。私自身も、「内山登緒子」全体で自分の名前、という意識があり、変えたくないな、と思いました。

そうしたらたまたま、海外で現地の法律に則って結婚する「リーガルウェディング」というかたちがあると知りました。海外で結婚した証明書を日本の役所に持って行くと、婚姻届の代わりとなります。でも私たちは、フィジーでは結婚の届けをしましたが、日本では手続きをしていません。母親がやっていなかったことをトライしてみよう、事実婚をやってみよう、と考えて、日本では戸籍上の名前を変えずに事実婚をしています。

昨年12月、フィジーで結婚式を挙げた。右は夫の川上晃史さん(本人提供)

日本では、どちらかの姓を変えないといけないことに対して違和感を持つ人は少なからずいるし、仕事や生活、人生に関わるくらい悩んでいる人もいるかもしれません。私はそこまでの悩みには至っていないのですが、「こういうやり方だったらできるかもよ」という一つの事例として示せれば良いな、と考えています。子供ができた時に何かに直面するかもしれませんが、トライしてみて、うまく行くかを見てみたいと思っています。

夫と結婚しようと思った決め手は、緩く言うなら、「この人といれば楽しそうだな。新たな世界を見せてくれそうだな」というのがありました。フィジーのことも、彼がいなかったら知ることがなかった。海外婚、別居婚といった突拍子がないことも面白がってくれて、認めてくれるのがありがたいです。とてもポジティブ。今回の結婚のやり方についても、日本で役所の各係を回るのに一緒に付き合ってくれて、とても面白がってくれました。

欲張りかもしれませんが、将来は子どもを持つことも考えつつ、仕事も引き続きやっていきたいです。海外で働くと、多くの方々に助けられつつも、一個人としてできることも増やせないといけません。自分の価値を発揮しないといけない、というプレッシャーがあり、まだまだできないな、と思うこともいろいろあります。もっとこれはできる、というのを増やしていきたいな、と思いますね。