地域おこし協力隊 立川あゆさん(26歳)

人と自然に魅せられIターン。「おもしろいことやろう!」にワクワク

長野県塩尻市 立川あゆさん(26歳) 大学院で建築デザインを専攻し、卒業後、長野県塩尻市に移住し、昨年から地域おこし協力隊として活動する立川さん。子どもの頃から人混みが苦手で、「都会での進学や就職は考えられなかった」といいます。漆器で有名な木曽平沢の古民家に住み、念願の「ものづくり」や「まちづくり」に関わる立川さんにお話を聞きました。

高校生の時からものづくりに関わりたくて、建築に興味があったので筑波大学芸術専門学群・建築デザイン領域に入学しました。一年生の授業で「茅葺き屋根」の研究家の話を聴いて日本古来の茅葺き屋根や農家・集落のデザインに興味を持ち、大学院では福島県のタバコ農家に通い、茅葺き屋根の貯蔵小屋の温熱環境について研究しました。

同級生が就活にいそしむなか、リノベーション建築を手がける会社やハウスメーカーを見学したのですが、東京で働くイメージが湧かなかった。大学院2年の時、就職サイトで地域おこし協力隊の募集を見つけました。

上司の笑顔が最後の決め手に

仕事の内容は、空き家の情報を集めてネットで発信したり、物件と借りたい人をつなげたり、地域を盛り上げるイベントや空き家の活用法を考えること。古民家の改修に興味があったし、自分が勉強してきたことが多少活かせるかもしれないと思いました。長野県は、過去に茅葺き職人を訪ねた時、自然環境が美しく、食べ物もおいしくて、人も親切でいい印象しかなかった。「こんなところに住みたいな」と思っていたのと、サイトで現在の上司が事業の責任者として紹介されていて、笑顔がとてもやさしそうだったことも後押しして、応募しようと決めました。

無事採用が決まり、2018年2月から地域おこし協力隊の活動を始め、3カ月後に木曽平沢地区の元漆工房だった古民家に引っ越すことに。

木曽平沢は400年以上もの歴史のある「木曽漆器」の生産地で、町の中には木工漆器工芸の店がたくさんあります。漆のことは何も知らなかったのですが、上司の勧めもあり、漆器産業振興と職業訓練のための施設「木曽漆芸高等学院」で週2回、漆工について学んでいます。塗料として、接着剤として、補強材として、大昔から日本人の暮らしを支えてきた漆。生の漆はその日によって状態が変わるので、塗るのがとても難しい。いまお盆を塗っているのですが、上手に塗れるとうれしいですね。

空き家改修から古道具店をオープン

空き家を改修する時は、その家にあった古道具や食器類を廃棄するのですが、昔ながらの器、糸巻き機や魚とり器、カゴなど、生活の道具がたくさん出ます。私自身、そういったものが大好き。欲しがる方も多いんじゃないかと思い、改修時に集めた古道具を格安で売ることを上司に提案したら採用されて。長年、借り手のいなかったボロボロの古民家を改修して古道具店を始めました。きれいにしたら使えそうなものを洗ったり磨いたり。まだ素人ですが、漆器は塗り直しなど修復もして、月に数回、「木曽平沢ふるもの市」を開催しています。

季節を感じながら自然の中で暮らす贅沢

木曽平沢に住むようになって1年を過ぎましたが、地域に溶け込むためには、最初にその土地をよく知る人に、私の場合は上司だったんですが、地域のいろんな方を紹介してもらって、挨拶に伺ったのが良かったと感じます。みなさん、「何か困ったことがないか」と気にかけてくださって。私自身も町内の祭や定期的な草刈りなど、地域で行う行事に必ず参加するようにしています。

なによりも、山や川などの自然に囲まれているのがうれしい。すぐそばにある河川敷を散歩するのは気持ち良いですし、夏は東京の暑さと比べると涼しくて快適です。反対に冬はめちゃくちゃ寒いのですが、雪の木曽平沢や近くの奈良井宿の風景は叙情的で美しいです。季節を感じながら自然の中で生活できるのはとても贅沢なことだなぁと日々、感じています。時間があるときは農家さんのお手伝いをさせてもらい、自分でも畑で野菜を作っているので、冬以外は食べるものには困りません(笑)。

「やりたい!」の気持ちがあればどうにかなる
周囲から刺激される環境で、自分のスキルもアップさせていきたい。

塩尻市で仕事をしていて感じるのは、行政職員やその周りの地域の活性化に携わる人々、職人、クリエーターなど、「おもしろいことを一緒にやりましょう!」と、新しいことに意欲的な人が多いこと。「ふるもの市」もそうですが、「やりたい!」という思いを受け止めてくれる土壌がある。木曽平沢地区に「麻太の家」という、漆作家などのクリエーターが運営する、ものづくりのベースキャンプがあるのですが、そこのメンバーのほとんどは平日は東京、週末は塩尻市で作業しています。彼らのように、二拠点居住しながら、ものづくりのワークショップや勉強会、塩尻を楽しむツアーなどイベントを立ち上げている人たちもいます。いろんな人が集まり、いい化学反応が起こっている。人とのつながりができていくのが楽しいですし、これからどんなことが起こるのかワクワクします。

大学の同級生だった彼と遠距離恋愛しているのですが、年内に籍を入れる予定です。彼の勤務先は名古屋なので、お休みの時に木曽平沢に帰ってくるようになります。そういう結婚のスタイルがあってもいいのかな、と。私自身、今の生活が気に入っていて、やりたいこともある。その点、彼は一番の理解者ですね。

将来的に空き家対策や改修事業などにも役立てられたらと、建築士2級をとるための勉強もはじめました。漆文化についてももっと知りたいし、古民家のさまざまな可能性も考えたい。地域おこし協力隊は3年が満期なのですが、所属や肩書きがなんであれ、「やりたい!」という気持ちがあればどうにかなるかな、と思っています。

大阪府生まれ。出版社在籍時代は女性ファッション誌、映画誌などでカルチャー全般、食、旅、環境問題などを担当。2010年からフリーランスエディター、ライターとして活動を開始。編集の仕事以外に、博報堂issue+designやstudio-Lといった、地域の課題をコミュニティデザインで解決する組織と一緒に全国の地域活性事業にも参加。
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