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「あなたのままで、輝けるビジネスの場がある」 株式会社ポピンズ 代表取締役社長/轟(とどろき)麻衣子

1987年、ベビーシッターという言葉が一般的ではなかった時代に、「働く女性を支援する」と保育事業を立ち上げ、いまや介護や看護、教育にまで事業領域を広げている(株)ポピンズ。創業者の母親から2018年に引き継いだのが、今回お話を伺った轟麻衣子さんです。ワーキングマザーに育てられ、自身もワーキングマザーとして活躍する轟さんを支えているのは、幼少期から母親がずっと言い続けてくれたある言葉でした。

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150%の愛情を受けて育った幼少時代

祖父母と暮らし始めたのは3歳のときでした。当時すでに母は仕事で忙しく、会えるのは週末のみ。でも祖父母は愛情いっぱいに育ててくれましたし、母も金曜日の夜から週末にかけてはずっとそばにいてくれていたので寂しくはありませんでした。週末は母と2人で図書館に行き、いろんな本を借りて、その後は一緒にお子さまランチを食べて、公園へ行って、夜は冷蔵庫にある食材で食事を一緒に作り、母がつくった物語を聞きながら眠りにつく。平日は離れていても、一緒にいるときには150%の愛情を受けていた実感があります。

こういう経験をしているので、子どもにとっては大切なのは、「誰から愛されたか」ではなく、「どれだけ愛されたか」だと考えています。私自身、母親だけでなく、父親や祖父母、イギリスで単身留学したときに私を支えてくれた大人の方々と、たくさんの人から愛情を受けて育った自覚があります。子どもは「社会の子ども」であると言われる通り、誰か一人のものである必要はない。この考え方がポピンズの基盤です。私たちは子どもにとって“もうひとつの家族”という立ち位置で、ご両親と同じ目線で、お子様の成長を支援させていただきたいと考えています。

株式会社ポピンズの創業者である母親と遊ぶ幼少期の轟さん

私を手放してくれた母の勇気に感謝

そもそも「預ける」という概念自体が古いと思っています。そこには自分が面倒見られないから預けるのだというちょっとネガティブな意味合いがありますよね。でも自分の手元にいない時間に、子どもが自分といるときよりも素晴らしい時間を過ごしていたら、それは一つの価値です。その点、私の母は先見性があったのではないでしょうか。そばに置きたいという自分の気持ちよりも、私の将来のためになることを優先し、12歳の私をイギリスに単身留学させてくれました。わが親ながら、さすがは起業家だなと感心します。母は周囲の人のやる気を起こさせたりモチベーションをあげたりするのが上手で、私が留学を決める時にも「日本の中学に進んでもいいけれど、こういう道もあるのよ」と、お城みたいなイギリスの寄宿舎学校の写真を見せてきたのです。そして「あなたの選択肢だからあなたが決めなさい」と言われました。母親になったいま改めて振り返ってみると、彼女が勇気を持って私を手放してくれたことと、選択肢を与えてくれたことには、感謝しかありません。

ただイギリスの生活はなかなか大変でした。英語も話せませんでしたし、1年間くらいはホームシックで泣いていましたね。寄宿舎学校では8人部屋で、私以外はイギリス人。みんなも英語が話せない私とどう付き合っていいのか分からなかったのでしょう。それでも私がめげなかったのは、母から「あなたはあなたでいい。人と違ったあなたでいいんだよ」と何度も言われ、根拠なき自己肯定感を育ててもらったおかげだと思います。

事業承継へと背中を押してくれたのも、母の言葉

大学までロンドンで過ごしていたこともあり、母は母の人生、私は私の人生と、きっぱり分かれていると感じていて、母の事業を継ぐ気はありませんでした。それが変わったのは25歳のときに経験した祖父の介護。日本に帰り、祖父の介護に関わるなかで、母の会社が提供しているサービスは人々を幸せにすることなのだと、当事者として気づいたんです。もう一つのきっかけは、29歳のときに、「0から1をつくりたい」と考えている同級生に経営大学院のINSEAD(インシアード)でたくさん会ったこと。そのときにふと、「母が1にしたものは、この先、どうなるのだろう」と思ったのです。そこからですね、ポピンズに関して真剣に調べ始めたのは。私自身が、働きながら子どもを育てることの大変さを体験しているときで、子育ても、介護も、もっといろいろな選択肢が世の中にあっていいのではないかと考えるようになり、いろいろな人の人生に寄り添えるサービスを提供するポピンズと自分の思いが合致したんです。

とはいえ、継ぐとなったときはかなり迷いました。母と私はまったく違う性格ですし、「私にできるのか」と不安でいっぱいでした。背中を押したのは、ハーバード大学の大学院で母と一緒に聞いた言葉です。リンダ・A・ヒル先生は「今まではスティーブ・ジョブズのようなカリスマ性のあるリーダーが引っ張ってきたが、これからはグーグルやピクサーのように、いろんな才能がある人をオーケストラの指揮者のようにまとめていくことが、リーダーに求められる素質です」と話しました。彼女の話には母も感銘を受けたようで、このとき母は私に「あなたにはあなたのままでできる経営がある」と、小さい頃から何度も聞かせてくれたあのセリフを、もう一度、口にしてくれたのです。

女性の経験そのものにビジネスの価値がある

私は、ソーシャルビジネスは女性が活躍しやすい領域だと考えています。なぜなら女性は“当事者である”という意識を持てばすごく高い解決能力を発揮しますから。母が私という子どもをきっかけに社会における「育児」の課題を解決したように、今度は私が大変さを感じた「介護」や「家事」を、社会のニーズへとつなげていけば、事業を拡大していけるのではないかと思っています。女性の見たもの、聞いたもの、感じたこと、すべてが大きな価値。自分の経験値をビジネスで活かせる点は、女性ならではの強みだと、私は思っています。

●轟麻衣子さんプロフィール
母である中村紀子さんが1987年に設立し「働く女性を支援する」をミッションにしている株式会社ポピンズにて、2012年に取締役就任、2018年4月1日に代表取締役社長に就任。 経済同友会会員、経済産業省産業構造審議会2050経済社会構造部会委員。12歳からイギリスの全寮制私立学校に単身留学し、ロンドン大学King's Collegeに入学。1998年にMerrill Lynch Internationalのロンドン支店に勤務、2002年からCHANEL Corporation(パリ・東京)、2006年からGraff Diamonds Ltd. (ロンドン)、De Beers Diamond Jewellers Ltd. (ロンドン)に勤務。2006年にINSEADにてMBAの学位を取得。25年間の海外生活(英・仏・シンガポール)を経て、2012年に日本に帰国。

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