漫画家の鳥飼茜さん

「寂しい」は「恥ずかしい」じゃない

鳥飼茜さん「寂しさは結婚しても埋まらない。孤独と向き合う方法は今も模索中です」

小学館『週刊ビックコミックスピリッツ』にて「サターンリターン 」を連載中の漫画家・鳥飼茜さん。社会問題や女性の抱える鬱屈とした感情を作品にし、話題を呼んでいます。プライベートでは2018年に同じく漫画家の浅野いにおさんと再婚するも、浅野さんの希望で別居婚をしています。今回は『「寂しい」は「恥ずかしい」じゃない』をテーマに、「パートナーの有無と寂しさ」について話を伺いました。

●「寂しい」は「恥ずかしい」じゃない

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結婚したら孤独じゃなくなるの?

――「寂しさ」については色んな語られ方があると思いますが、今回は「パートナーの有無」にスポットを当ててお話を伺いたいと思います。
寂しい時にそれを口に出して伝え、支えてくれる相手がいないことを孤独で寂しいと思う人、とても多いように感じます。

鳥飼茜(以下、鳥飼): 以前、「婚活をしないで結婚する方法」というテーマで女性誌で取材を受けたことがありました。発売後に何となくエゴサーチをしていた時に、その時のインタビューに触れている人をみつけて。
「婚活をしたこともない人につらさがわかるわけがない」と書いてあったんです。「それはそうだろ」という反撥(はんぱつ)心と、救いになれずごめん、という罪悪感から、彼女のツイートを読みふけってしまいました。
「死んだ方がましだ、と思った時に『生きてていいよ』と言われたいから結婚したい」というようなこともつぶやいていて、もしかしたら世間における「結婚」は寂しさにつける薬のようにとらえられてる側面があるのかもと感じました。

――鳥飼さんは2018年に再婚されましたが、実感としていかがでしょう。

鳥飼: 結論からいうと、結婚では寂しさは解消されないと思います。私の場合はさらに特殊で、毎日一緒に暮らしているわけではなく、週末以外、夫は共に購入した家には帰ってこず、週6日私は一人で寝ています。余談ですが、私は他人と寝れないので寝るのも別々なんです。でもじゃあ、「毎日会っているから寂しくない」とか「円満」ということでもない。結婚や夫婦の形は本当にたくさんあって、どの形であれば孤独が取り除ける、ということはないと思うんです。

「寂しくて死にそうだ」とつぶやいていた彼女に、思わず「死ななくていいよ、生きてていいよ」って、返信しそうになったのをぐっとこらえたんですよ(笑)。私からのそんなセリフも求めていないだろう、と思い直して。

漫画家の鳥飼茜さん

「一人で生きるのも楽しい」けど「誰か一人の人に存在を認めてもらい続けたい」

――結婚相手や恋人が欲しい人にとっては、それを「持っている人」と自分の間には大きな隔たりがあるように感じてしまうんですよね。

鳥飼: 自分のまわりでも、婚活をしている人は少なからずいます。ただ、その中のどれだけの人が恋愛が本当に好きでやっているんだろう?って思うことはあります。既婚者をはたから見ていると、「とりあえずのインフラが整っている」ように見えてしまうから、(自分も「整える」ために)やらざるを得ないんじゃないかと。一つのお作法としての婚活、に見える人もいるんですよね。

「頑張っても結婚できない」みたいな話題も相変わらず友人同士の話題にあがることがあります。
でも同時に、シェアハウスでもよくない?とか「お一人様」、みたいな価値観も定着している時代ではありますよね。「そういう生き方も楽しい」という思いを嘘偽りなく持っている人は大勢います。
その一方で「誰か一人の人に自分の存在を認められ続けていないと不安である」という感情も芽生えてしまう。
同じ人間が「お一人様レストラン特集」を見ながら、婚活アプリで「今週はアポ2回」というのをやっているという現実があると思います。

でもじゃあ、その不安を根本から救えるのが果たして結婚なのか?という疑問は感じます。人間が根源的にもっている「生きていることは孤独」「夜中に寂しさで発狂しそう」みたいなものは、ずっとあり続けると私は思います。

漫画家の鳥飼茜さん

「生きてていいよ」と言ってもらえるためには努力が必要

――結婚しさえすれば、何かが劇的に変わるのではないかと思い、結婚したいと思っている人もいるかもしれません。

鳥飼: 既婚の友人とも話すのですが、一般的には、結婚というものが極端にしか語られていないんですよね。
「結婚できた!これでもう孤独じゃない!!」というように幻想的で良いものとしてか、もしくは「ドロドロ不倫にセックスレス。結婚なんて良いもんじゃない。離婚だ!」みたいなマイナスなものとしてか。その中間の部分が語られることってすごく少ないように感じます。
でも、その中間が「本当の日常」なんです。自分も相手も、結婚をしても孤独なのだという事実。そこが語られることがとても少ない。

例えば、寂しくて寂しくて死にそうな夜に「生きていてもいいんだよ」と言ってくれる絶対的な相手が欲しい、だから結婚したい。という人がいる。
でも、その「生きてていいんだよ」という言葉を自分が欲しいタイミングで相手からもらうためには、当たり前だけれど、日々の積み重ねや努力がないといけないんです。「結婚」という契約をしさえすれば、あとはいつでも、相手が自分の欲しいものをくれるわけじゃない。
救いの言葉を言い合えるベストな空気が直前まであったのか? 今日、相手の機嫌は良いのか、悪いのか? それこそが「生活」というものじゃないですか。
逆もしかりで、向こうが欲しがっている時に欲しい言葉をあげ続けるなんて、相当の努力と、そして覚悟が必要なんですよね。

――たしかにさびしさや孤独は、その想像力を奪っているかもしれませんね。

鳥飼: これはそもそもの話ですが、期待してる人が言って欲しい言葉をくれるわけじゃないんですよね。私も本当は旦那さんがこう言ってくれたら良いのに、と思うことはたくさんあるし、交際相手や結婚相手だからこそ、求めてしまう部分が勝手に大きくなる。
でも当然すべての要求は叶えられないし、期待した分、虚しさはどんどん大きくなります。そんな時は他の「結婚」と比べてしまって、なぜ自分は結婚したのに孤独なんだろう、失敗したのだろうか、と1人でいるのとは違う種類の手強い焦燥感や絶望感みたいなものに襲われて、ひどいとうつ状態みたいにもなります。ならない人もいるだろうけど、既婚者の中にもこれをわかってくれる人はいると思う。

――それが鳥飼さんのおっしゃる「覚悟」ということでしょうか。

鳥飼: たぶん結婚って「他人に期待しない」ということが相当鍛えられていないと続かないんです。「(2人なら楽しいけど)1人でも生きてける」という強い自立が試されるんです。1人がつらい、誰かに寄り添って欲しくて人は結婚するのに、これはとても面白い矛盾だと思いました。
そういう時に本当に言って欲しかったこと、救いのような言葉や親切をくれるのって、実は友人だったりします。
私には素敵な友人がいるよっていう自慢をしたいわけじゃなくて、「自分専用のたった1人の誰か」を求めるとどんどん孤独になってしまうということで、明日も明後日も会ってくれるわけじゃない、今日その場に居合わせた友人がくれる言葉なり態度で私はなんとか生きているっていう実感が強くあります。特に結婚してからは尚強く感じていますね。「自分専用じゃない人」を普段から尊重して大事にすることは、私は大人になってからようやくとても大事なことだと気づきました。

telling,の取材に答えた漫画家の鳥飼茜さん

寂しさを他の何かで埋めても、「欠乏」しか生まれない

――鳥飼さんは「寂しさ」そのものとどのように向き合っていますか?

鳥飼: 住職の小池龍之介さんのコラムで「寂しさ」について解説されていたものがあります。私なりに解釈するとこんな感じ。
「寂しさというものをみんなすぐに別の方法で満たそうとするけれど、それをしても寂しさそのものは解消されない。身代わりにしたものには麻薬のようにすぐに耐性がついて、もっと強いものを欲してしまうようになる。寂しさの解消のための代替行為は、実は「寂しさの部屋」とは別の部屋で行われているもので、根本の解決にはならず、紛らわせれば紛らわせるほど、『欠乏』につながっていく」

――そうすると、「寂しさ」というものを解消することはできないのでしょうか

鳥飼: 小池さんが言うには、「寂しい」は自然に生まれる感情でしかないから、真正面から見ているうちに消えてなくなる。消えるまでそれとただじっと向き合うしかないんだそうです。
私自身、じゃあ「真正面から見守る」って、どうやったらいいの? というところは全く自分のものにできてはいないんですけど(笑)。でも、「代替は欠乏にしかならない」という部分にはすごく共感しました。
でもそれぐらいで。自分ではまだまだ答えは出ていませんね。

結局、人生と孤独はセットで、それは既婚だろうと未婚だろうと、関係ないんですよね。自分の気の持ちようでしかない。
どんな人にも孤独を感じる夜はあるし、「あの人楽しそうに生きてるな」という人だっていなくなってしまいたくなるような夜がある。
私自身も寂しくて不安で張り裂けそう!って昂ぶった時には「今この瞬間、どこか別の家であの人も、あの人も、そう思ってるかもしれない」って、知り合いの顔を思い浮かべて平静を保つようにしています。
気持ちの共有というか、そんな風に他者を感じられると少しは安心できるかもしれないと思います。

(後編へ続く)

続きの記事<“失った若さ”に対して感じるのは“寂しさ”ではなく“侘び寂び”>はこちら

●鳥飼茜(とりかい あかね)さんプロフィール
大阪府出身。2004年に「別冊少女フレンドDXジュリエット」でデビュー。
『おんなのいえ』や『先生の白い噓』など社会における女性の在り方に問題提起した作品で話題を呼ぶ。また、2018年に漫画家の浅野いにおさんと再婚。結婚や子育て、仕事の悩みを赤裸々に綴った日記をおさめた『漫画みたいな恋ください』を発売するなど執筆業でも活躍している。現在は「週刊ビックコミックスピリッツ」にて、様々な喪失を描いた『サターンリターン』を連載中。最新第二巻は2019年11月29日発売。

現在肩書き無し。30歳の夏、港区での彼氏との同棲を解消、同時に8年マネージャーとして勤務した芸能事務所を退社する。ライター業ではお笑いやサブカルチャーに関するコラムをwebサイトに寄稿など。
写真家。1991年、東京都生まれ。お酒とアニメと女の子をこの上なく愛している。 多摩美術大学卒後、作品制作をしながらも、フリーランスフォトグラファーとして、幅広く活動。 被写体の魅力を引き出すポートレートを得意とし、アーティスト写真や、様々なメディアでインタビュー撮影などをしている。
「寂しい」は「恥ずかしい」じゃない