「寂しい」は「恥ずかしい」じゃない

チェコ好き/和田真里奈さん「人間は『寂しい』という感情をなくせない」

『寂しくもないし、孤独でもないけれど、じゃあこの心のモヤモヤは何だと言うのか』(大和出版)を上梓したコラムニスト・ブロガーの和田真里奈さん。出会ってきた書籍やご自身の経験から「寂しさ」についての処方箋を示してくれている本著について、そして寂しさを抱えながらも向き合わなくてはいけない「社会」についてのお話を伺いました。

「寂しさ」の源は、自分だけがみんなと違うんじゃないか?という気持ち

――本のタイトルに「寂しくもないし、」とありますが、和田さんには「寂しい」という感情はないですか?

チェコ好き / 和田真里奈(以下、和田): 私自身は、あまり寂しさを感じないタイプなんです。でもまわりの友達とか同年代の女性の話を聞いていると「寂しい」と言っている人がたくさんいて。ふと、なぜ彼女たちは寂しいのに私は寂しくないんだろう?と疑問に思ったときに、これは気質だなと。身も蓋もない結論にたどり着いてしまったんですけど(笑)。

――それでもこの本には、必ずどこかのページにそれぞれの寂しさへの対処法が記されています。人々が感じる「寂しい」という感情の源はどんなものだと思いますか?

和田: この本の中でも紹介しているのですが、『殺人出産』(村田沙耶香著/講談社文庫)という小説があって。主人公とその旦那さんは、住人全員が一人暮らしをしている実験都市のようなところに住んでいるんです。もちろん、夫婦だけど別々で。

「寂しい」と思ってしまいやすい人たちがもしその都市で暮らしていたら、今と同じように寂しくなるかな? と物語を読んで思ったんですよね。もしかしたら、思わないんじゃないかなと。

要するに、そういう感情って「自分はみんなと違うんじゃないか? 自分だけがひとりなんじゃないか?」という不安から来るものなのかなと思うんです。この実験都市に住む人たちみたいに、みんなが大前提として一人でいるならあまり寂しくならないのかもしれない、ということをちょっと考えました。

自分じゃなくて、社会のほうに変わってもらう。そういうアプローチもできると思っている

――本の中で「付き合う前にセックスはOKか?否か?」問題にもふれています。このテーマを入れた理由は?

和田: みんな、人から言われたことを真正面からとらえすぎて苦しくなってしまうのかなと思うことがあります。たとえば「3回目のデートまでは身体の関係を持ってはダメ」という暗黙のルールみたいなものに対して「そうなのか」と真に受けて、でもある人からは「そんなの関係ないよ」と言われて、またそれを真に受けて。

人がどう言っているかなんて、私はあんまり関係ないと思うんです。「自分はどう思うのか?」と、自分の気持ちに注目しているとあまり気に病まないようになるのかなと。それは「寂しい」と感じてしまうことに対しても言えることじゃないかなと思ったので、この本でふれています。

――「“あたりまえ”は、誰かがつくっているもの」と本に書かれていますが、和田さんが窮屈だなと感じている“あたりまえ”ってありますか?

和田: 「自分をこう変えよう」とか「こういう考え方をしてみよう」と、自分が変わることだけが前向きなこととされやすいように思います。それが無意味だとは言わないですけど、変わるべきなのは自分じゃなくて社会のほうだ、という考え方もあるんじゃないかなと思っていて。

もちろん明日すぐに社会を変えられるわけではないし、自分が変わるほうがたぶん簡単なのですが「結婚しなくても女性が寂しくならないように、社会のほうに変わってもらう」というアプローチもできるはずだなぁと。

――「社会を変えていく」の第一歩はどんなことをすればいいでしょうか

和田: この社会がどういうふうに成り立っているのかを知っていくことかなと思います。最近は男女間の不平等の問題などに関心を持つ人が増えてきていますが、こちらの感じ方がおかしいのではなく、じつは社会のほうがおかしい、ということってまだまだたくさんありますよね。

自分自身がひねくれた性格だったというのもあるんですけど、歴史の本や社会学の本をたくさん読んでいく中で、当たり前だと思われていることが、全然当たり前なんかじゃなかったと気付く機会がたくさんありました。言われたことを鵜呑みにするのではなくて、それを見極める視点をすこし持ってみることから始めてみるのがいいかもしれません。

嫉妬心を抱くことや人と比べて落ち込むことは、受け入れていくしかない

――書籍や今回のお話でもそうですが、和田さんとの会話にはたくさんの書籍からの引用や考察があり、とにかく「寂しい人は本を読め!」というメッセージも感じます。

和田: 「寂しい」と思ったら、本を読んでいれば時間は過ぎるからいいんじゃない? というのは確かに思いますね。本ではないですが、最近珍しく海外ドラマにハマっていて。それを何十時間と続けて観ていたら、寂しいなんて思う隙がなかったんです。

『ダウントン・アビー』というイギリスの貴族の話を描いたドラマなのですが、そういう自分にまったく関係のない話を観てやり過ごすほうがいいのかなと。自分に重なる、アラサー女子がどうのみたいな作品だと負のループにはまってしまうので(笑)。

――本の中に書かれている「私たちは、一人一人プレイしているゲームが違う」という言葉は、人と比べちゃダメだよとたくさん言われるよりも、ずっと心に効くパワーワードでした。

和田: そんなふうに書いていますが、私自身も誰かと自分を比べて落ち込むという感情と無縁なわけではないんです。私より売れているライターの方を見たりすると、嫉妬してしまうこともありますし。でもやっぱり私たちは生き物なので、ある程度の嫉妬心を抱くことや、人と比べて落ち込むことも完全になくすことはたぶんできなくて。それすらも受け入れるしかないのかなと思っているんです。

●チェコ好き / 和田真里奈 さんプロフィール
コラムニスト、ブロガー。1987年生まれ。
ブログ「チェコ好きの日記」で旅・読書・アートについて書く。様々なメディアで執筆をしつつ、都内のIT企業に勤務。いちばん好きな作家は村上春樹、人生でもっとも影響を受けた本は『グレート・ギャツビー』。

『寂しくもないし、孤独でもないけれど、じゃあこの心のモヤモヤは何だと言うのか 女の人生をナナメ上から見つめるブックガイド』(大和出版)

チェコ好き(和田真里奈)

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