telling, Diary ―私たちの心の中。

ポールダンサーが考える「#KuToo」運動について

なまめかしく妖艶な表現力で性別問わず見る者の目を釘づけにするポールダンスのダンサーであり、注目のブロガー、ライターでもある“まなつ”さん。彼女が問いかけるのは、「フツー」って、「アタリマエ」って、なに? ってこと。 telling,世代のライター、クリエイター、アーティストが綴る「telling, Diary」としてお届けします。

●telling, Diary ―私たちの心の中。

ポールダンサー御用達のシューズブランドって?

ポールダンス、見たことありますか?
おそらく大半の方は生で見たことはないのかと思います。昨今は、テレビで有名タレントさんがポールダンスに挑戦するという企画がいくつかあったので、テレビで見たことのある人なら多いかもしれませんね。

私の仕事であるポールダンサーは、とにかくたくさんの練習が必要です。ショーのお仕事をもらうためにはある程度の技術が必要なので、ここで手抜きはできません。スタジオに通い詰め、痣だらけ、汗まみれになって人様に胸を張ってお見せできるよう日々努力しています。
そして華やかな衣装。自作したり既製品を改造して安く済ませることもできますが、オーダーメイドの素敵な衣装を買おうと思えば数万円は飛んでいきます。

衣装の中でことさら、それぞれがこだわるのは靴ではないかと思います。
ポールダンサーが履く靴、それは15~20センチもの高さのあるヒール。
業界で有名なのは海外ブランド「Pleaser」で、ポールダンサー御用達のメーカー。私も愛用しています。
普通の靴でポールをしていると、着地やクラック(足を勢いよく閉じ、ヒールのつま先同士を打ち付け音を鳴らすテクニック)の衝撃であっという間に壊れてしまいます。その点Pleaserは、ポールダンスの本場アメリカで作られているため、かかと部分に金属パーツが入っていてそう簡単には壊れません。

ヒールを履いて踊ると足が長く美しく見えるし、佇んでいるだけでもカッコよく見えるものです。
そしてその「佇んでいるだけでカッコよく見える」境地に至るには、やはり一に練習、二に練習。
ヒールを履くとその重さの分、体に負荷がかかるので、裸足で踊るのとは感覚が違います。
遠心力をかけるスピン系の技は重さで回転数が上がりますが、体を空中でキープする力技はより過酷に。
その過酷さと天秤にかけたとき、ポールダンサーは美しさの方をとるのだと思います。

素足で踊るポールダンス

ここまで書いといてなんですが、私は踊るときあんまりヒールを履きません。
いや、かっこいいんですよヒール。足長く見えるし、ザ・ポールダンサー!って感じだし。
何足も持ってるんです、20センチのヒールを。
酔っ払いのこぼしたドリンクで床がベットベトのクラブで踊る時は絶対に履きますし、宣材写真を撮る時も、もちろん履いてます。
でも、普段のショーの時は裸足で踊ることが多いです。
ヒールを履いて踊ることを美学にする人もいるし、裸足にそれを見出す私のような人もいる。ただそれだけの話なんです。

何も履いてないつま先ってすごくセクシーじゃないですか?生足魅惑のマーメイドとはよく言ったものだなあと。
裸足でショーをするという美学。それは、ポイントでまっすぐ揃えた足の爪に赤いネイルが塗ってあったりするとすごくそそるな~という私の性癖が、ショースタイルにそのまま現れた結果です。

ヒールを履いていてもかっこいい。裸足もセクシーで素敵。
どちらもいいと思うし、行き来していいし、好きにやるのが一番だと思っています。

男性も女性も、履きたい靴を履くことができる時代へ

女性が仕事をする上で、当たり前のようにヒールの靴を履くという暗黙のルールについて、# KuTooというハッシュタグで議論されています。職場でパンプスやヒールのある靴を履くことへの強制を辞めてもらうための署名活動、そしてそれに対する意見をつぶやくときなどに用いられています。これに対しても、同じことが言えると思うんですよね。

長時間立ちっぱなしの人がヒールを履いているのは非合理的だし、本人たちがやめたければそれでいい。その反面、私はヒールを履いて、足を長く美しく見せたい。こだわりがあるし、美学がある。そういう人だっていると思います。
大事なのは、ヒールを履く人自身に選択権があること。
ヒールを履いている本人が、どうするか決められる方がいい。
なんなら、男性だって履きたい人は履けばいい。ヒールは女性だけのものじゃない。そういう自由、寛容さが、これからの社会には必要だと思う。
前時代の遺物みたいなルールに縛られるのは平成の時代で終わり。元号も変わるし、誰かが勝手に決めた窮屈な決まりごとは古い時代に置いていく。

新しい時代に生きる私たちに必要なのは暗黙の了解ではなく、どんな靴を履いてたっていいじゃんという緩さ。靴を履いてるだけ偉いという風潮。
人は裸足でも歩けるのに、わざわざ靴を履いてるだけでもすごいんですから。

ポールダンサー・文筆家。水商売をするレズビアンで機能不全家庭に生まれ育つ、 という数え役満みたいな人生を送りながらもどうにか生き延びて毎日飯を食っているアラサー。 この世はノールール・バーリトゥードで他人を気にせず楽しく生きるがモットー。
まなつ