21世紀をつくるニッポン人たちが語るファッションの未来

時代とともに変化してきたファッションの世界。次の時代をどうつくっていくのだろうか。ファッションブランド「writtenafterwards(リトゥンアフターワーズ)」代表でファッションデザイン教室「coconogacco(ここのがっこう)」を主宰する山縣良和さん、セレクトショップ「THE FOUR-EYED(ザ フォーアイド)」のオーナー兼バイヤーでフォトグラファーの藤田佳祐さん、ファッションやアートに関する法務を得意とするリーガルディレクター、弁護士の小松隼也さん、10代女子に人気のブランド「RRR(アール)」ディレクターの相羽瑠奈さん。注目される4人がファッションの未来とその可能性を語った。 

セレクトショップ「ザ フォーアイド」オーナー・藤田佳祐さん(以下、藤田): 僕はこの店を、モノを売る場所というより、人が集まって何かが生まれる場所ととらえているんです。いつかお店がコミュニティとして潤うようになり、金銭のやり取りをしなくてもみんなが生きていけるようになったらいいなと。

藤田さん。新宿・歌舞伎町につくったセレクトショップが人気に

弁護士・小松隼也さん(以下、小松): 実現可能かもしれないですよ。会員制の服のレンタルサービスが日本でも定着しつつあるように、新しいビジネスモデルはある。みんなが服を持参して物々交換するようなコミュニティってあり得ると思うし、契約で成立させられる。うまくいかなければ、コミュニティ内で話し合ってどんどん変えていければいい。

ファッションブランド「リトゥンアフターワーズ」代表・山縣良和さん(以下、山縣): 面白いですね。いまの時代は変化のスピードが加速しているけど、ファッションって変わっていくのが当たり前の世界。変化に順応していくファッション的な価値観は、ほかの業界に反映できるかもしれない。

ファッションとITの融合が可能性を生みだす

小松: 最近、ファッションとITを組み合わせ、新しいビジネスモデルをつくりたいという相談が増えています。IT業界や金融業界から相談が来る。既存の事例だとファッションコンサルサービスもテクノロジーを利用したものですよね。その人の購入履歴から、おすすめのアイテムをネット上で提案するっていう。

小松さん。法律家であると同時にアートのコレクターでもある

藤田: 人間がテクノロジーとどうつき合うかは、ファッションにおいても大きなテーマですよね。

RRR(アール)」ディレクター・相羽瑠奈さん(以下、相羽): 私の世代で、テクノロジーというとSNSかな。うちのお客さんのほとんどは高校生から20代前半なので、店頭だけでなくSNSを使った接客もできるというメリットがあります。「あのお客さんが好きそうだな」と思うアイテムの画像を、店頭に出す前にダイレクトメッセージでお知らせしたら、翌日に店舗に買いにきてくださったり。

山縣: 地方のセレクトショップは顧客との距離が近いから、バイヤーが買い付けのときお客さんにライブ配信して、アイテムを選んでもらうこともあると聞いています。

藤田: 既製品の販売方法として、現状で最も進んだ形ですね。お客さんが現物を目にしてから納品されるまでがすごく早い。一方で、パリコレで発表されたものが届くまで半年かかるという変わらない現実もあって、これまでの小売りのメソッドが通用しなくなってきている。

山縣: 難しい問題ですよね。ひとつ思うのは、時代がコロコロ変わって複雑化するなかで、半年後に価値が出る仕掛けだけじゃなくて、5年後や10年後、100年後に別の価値になり得る仕掛けをつくることも大事なのかなと。まったく違う業界や場所、時代に置かれたときに別の観点から価値が見えてくる、タイムカプセルのような。ルイ・ヴィトン初の黒人デザイナーで、高級ファッションに変革をもたらしたヴァージル・アブロー(メンズ・アーティスティック・ディレクター)のように、ひとつのレールにしばられず、変幻自在に活動していくあり方もそうかもしれない。

山縣さん。自由なファッション教育にも力を入れている

藤田: 変幻自在ということでは、相羽さんのマルチプレーヤーぶりもすごい。自分自身もファッションアイコンで、なおかつクリエイターで、リテーラーで、経営にも携わっている。

相羽: ファッション業界にいるからってしばられる必要はないし、転身してもいいと思ってます。ただ、いまは個人よりブランドが大事。「相羽瑠奈のブランド」として見られるよりは、ブランドそのものを前に出したい。

藤田: ブランドや媒体は年を取らないけど、人間は年を取る。自分と同じだけファンも年を取っていくことを覚悟したうえでのコンテンツ作りは必要ですよね。 

最終的には人。「場」や「コミュニティ」は大切

小松: 僕のクライアントは3040代のデザイナーや経営者など、自分と近い世代が多いので、彼らが目指すものも肌感覚で理解できる。一方で、たまに相羽さんの世代から相談を受けると、視点や問題意識の違いにギャップを感じることも。だからこれからは、彼らの世代と同じマインドで問題を共有できる後輩を育てていかなきゃいけないなと。

山縣: 僕もそれはすごく感じています。いまの自分だからこそできることをきちんとやっていかなくてはという気持ちがある。そのためには、先人に学ぶことも必要。川久保玲さん(コム デ ギャルソン)やヨウジヤマモトさんなど、何歳になってもチャレンジし続ける人たちに学びたい。

小松: 相羽さんは40歳になったらどうなっているのかな?

相羽: おばあちゃんになってもカラフルなものを好きでいる自信はあります(笑)。「大人になったらカラフルなものは着れない」って思い込んでる人が多いので、そこを変えていきたいですね。

相羽さん。インスタグラマーとして活躍し、フォロワーは8万8千人超

小松: 自分も昔は個性的なファッションが好きだったけど、30歳を過ぎてから落ち着いた色を選ぶようになった。でも先日、藤田さんのお店に行ったら、ちょうどいいものを売っているんです。若いころの好みといまの感覚の間をいくもの。そういうのってネットではなかなかたどり着けない。

藤田: 小松さんからファッションコンサルのサービスの話が出たけど、いわゆる最適化された提案が不快に感じるときってあって(笑)。いま小松さんが言ってくれたようなことこそが、本当に求める偶然性の出合いに近いのかなと思う。そこも、AIでどうにかしてほしいですけどね。この人は何パーセントの確率でコンピューターの予想を裏切ってくる、みたいな。 

小松: 乱数を入れるとか(笑)。

山縣: 最終的には人だなっていうのは感じます。こういう時代だからこそ、場やコミュニティで誰かに提案してもらったり、何かを感じたりすることが大事で、それがモチベーションにつながるんだろうなって。

東京・新宿「ザ フォーアイド」にて

※この記事は株式会社ルミネと週刊誌「AERA」のタイアップ連載「21世紀をつくるニッポン人名鑑」の100回記念座談会の記事を再編集したものです。

  • ●プロフィール
  • 山縣良和(やまがた・よしかず)「writtenafterwards」デザイナー
    1980年生まれ。英国のファッション名門校を卒業。ファッションブランド「writtenafterwards」、ファッションの学び場「coconogacco」を立ち上げる。

  • 藤田佳祐(ふじた・けいすけ)「THE FOUR-EYED」代表
    1984年生まれ。新宿・歌舞伎町にセレクトショップ「THE FOUR-EYED」を開き、オーナー兼バイヤーに。フォトグラファーとしても活動している。  

  • 小松隼也(こまつ・じゅんや)リーガルディレクター/弁護士
    1986年生まれ。同志社大学卒業。米国のロースクールに学ぶ。ファッション、アート、デザインに関する法務を得意とする。

  • 相羽瑠奈(あいば・るな)「RRR」ディレクター 
    1996年生まれ。雑誌モデルとしてデビュー。原宿のファッションアイコンとして人気を誇る。オリジナルブランド「RRR」を立ち上げる。

Text: Kaori Shimura Photograph: Ittetsu Matsuoka Edit: Sayuri Kobayashi