女性に人気のヌードモデル「母の涙を見て、仕事へのスタンスが変わりました」
「死に向かっていく人生」という意識が強かった
幼い頃から、人が死ぬことについて考えていました。大家族で6人きょうだいの末っ子だったので、誰かがいなくなることに対する恐怖心が強かったのかもしれません。
大切な人を失う悲しみに直面するくらいなら自分なんかどうなってもいい、そんなことを思うようになってからは「生きるための人生」じゃなくて「死に向かっていく人生」という意識が強くなりました。今思えば、10代らしい感覚だったのかもしれないんですけど。
「遺影」といっても、きっと本当に死にたかったわけではないはずで、過去の自分とさよならしたい、そんな気持ちだったように思います。若さ特有の、「嘘をついてしまう自分」への後ろめたさとか。そういうことと、お別れしたいという気持ち。
その時、SNSで知り合ったアマチュアのカメラマンの方と連絡をとり、ヌードの撮影をしたんです。
自分に自信を持ちたくて、仕事の数をとにかく重ねた
数年後、実際に仕事としてヌードモデルの活動をはじめました。当時は本当にその仕事を選択したことが正しかったのか、わからなかったです。特殊な仕事だということは理解していたし、両親の理解も得られていなかったので。
周りの友人たちが就職していく年齢で、自分はカメラの前で身も心も裸になるヌードモデルという仕事を選んだ。その道に進んですぐに売れっ子になっていれば、きっと社会人としての居場所があるって自信も持てていたと思いますが、そう上手くもいかなかった。だから、とにかくたくさんの現場をこなして、早く仕事として確立しなくてはという焦りがありました。自分に自信がつくように仕事の数を重ねたいと必死でした。
「あんたが泣くからよ」
そんな状態のまま2年ほど仕事を続けていた頃、舞台のお仕事を頂いて、両親を招待したんです。きちんと私の仕事を見てくれたのはその時がはじめてかもしれません。
公演が終わって母のところに駆け寄った時、思わず涙が出てしまって、そうしたら母も泣き始めてしまって。「どうして泣くの?」って聞いたら、「あんたが泣くからよ」って。その一言を聞いた時に、すごく心にしみて、氷が溶けたような気持ちになったんです。
それまで両親は私の仕事についてずっと「やめろ」の一点張りだったので。はじめて受け入れてもらえたような、母親の愛に触れたような気がしました。その時から、これまでの自分本位な生き方や仕事に対するスタンスが変わっていったんです。
私はわたしであることには変わりない
それからはお仕事の依頼を頂いたときに、「この仕事は両親が悲しまないか」と考えるようになりました。もちろん、そもそも裸でいること自体、悲しませているかもしれないけれど、なるべく自分が胸を張って「こういうお仕事したよ」って言える仕事ができるようにと考えるようになりました。
ヌードの仕事や「遺影」という過去に発言したセンセーショナルな言葉によって、心ない意見が飛んでくることもやっぱりあります。もちろん落ち込んだり傷ついたりすることもあるのですが、根本的には、私はわたしであることに変わりはないと思えるようにもなりました。
映画のタイトルになっている「シスターフッド」という言葉について。元々は女性解放運動などで使われた「女性同士の連帯」を示す言葉で、政治的な意味合いも強かったりします。でも、もう少し広い意味で、自己をとりまく、自分と他人との連帯感みたいなものという捉え方をしてみると、私にとっては「両親」がシスターフッドのような存在なのかもしれません。
生きづらさを抱える世の中で、自分の先に枝分かれして大切な人がいてくれるというだけでも十分救われると思うんです。
●兎丸愛美(うさまる・まなみ)さんプロフィール
1992年生まれ。19歳のときに裸の遺影を撮られたことをきっかけに2014年、21歳でヌードモデルとしてデビュー。2017年4月には写真集『きっとぜんぶ大丈夫になる』(玄光社)が発売された。2016年の舞台「幽霊」以降、女優としても活動している。
- ●映画「シスターフッド」
出演:兎丸愛美 BOMI 遠藤新菜 秋月三佳 戸塚純貴 栗林藍希 SUMIRE 岩瀬亮
監督・脚本・編集:西原孝至
製作・配給:sky-key factory
公式サイト:https://sisterhood.tokyo
3月1日(金)アップリンク渋谷にて公開ほか全国順次公開