キレイの定義

河北裕介さん「“河北メイク”はその人らしさを活かすもの」

ヘア&メイクアップアーティスト、河北裕介さんがつくる質感をあやつるメイクは「河北メイク」と呼ばれ、著名人のみならず多くの女性から広く支持されています。今回、書籍『読む河北メイク』(講談社)を出版した河北さん。テクニックではない「読むメイク」ってどういうこと?メイクに対する考え方について、じっくりと聞いてきました。

「その人らしさが透けて見える」をメイクで実現

――もともと、河北さんがヘアメイクになろうと思ったきっかけは何だったんでしょう?

高校生の時に映画「ローマの休日」を見たときにオードリー・ヘップバーンが髪を切るシーンで「女の人って、髪型でこんなに変わるんだ!」とびっくりして、それがずっと頭にこびりついていたんです。それで、友達の髪の毛をアレンジしてあげたりしたら喜ばれて。17歳ぐらいから美容師のバイトもはじめて、ヘアメイクの面白さに目覚めました。

最初は本当にメイクもヘアアレンジも下手過ぎて、仕事がなさすぎて干されたかな?と思うぐらいのときもありました。今思うと、その時は「どういう女性にしたい」というイメージがなかったんです。漠然と女性をきれいにしたい、ではダメなんですよね。

転機は、モデルの長谷川潤ちゃんに出会ったことです。15~6年前かな。彼女らしさを出すにはどうしたらいいか、二人三脚で一緒に試行錯誤しました。その時に、ファンデを厚く塗らない、その人らしさが透けて見えるメイクがいいんじゃないか、とだんだんわかってきたんです。

――今でこそ「ファンデはなくてもいい」という雰囲気もありますが、当時はびっくりされたのでは?

それはもう。「肌はアラを隠すのが普通」、厚塗りで美しく、みたいなのが主流だったので、挑戦でした。美容雑誌で提案したらすごくびっくりされて。「ファンデをもっと重ねないんですか?」「これでメイク終わりですか?」って何度も言われましたよ(笑)。でも、僕はこれが間違ってないと思っていたので、どんどん説明しました。「このほうが人間らしい美しさでしょ?」って。そしたら「ツヤ肌」という言葉もできて、だんだん浸透していきました。

それまでは、メイクをするにもベースを塗ってコンシーラーを塗ってファンデーション……と複雑なステップがあるようにとらえられていたものが、「メイクは難しくないんだよ」という提案ができたんじゃないかと思っています。アイテムありきじゃなくて、あなたの顔ありきなんだよ、と。

――なるほど。そのナチュラルな感じが「河北メイク」と呼ばれるようになっていった…。

そう呼ばれるようになって、もう10年ぐらいかなあ。ありがたいことにどんどんたくさんの方に支持されるようになってきているなと感じます。

メイクの前にある「考え方」を伝えたい

――今回、なぜ「メイク本」らしくない本を出そうと思ったのでしょうか?

河北: 最初は本当に、文章オンリーにしようかとすら思っていたんですよ(笑)。格言集みたいな。How toは雑誌とかでも山ほど出ているから、メイクする前にある「考え方」みたいなものをもっと伝えたくて。でも僕はヘアメイクなんで、やっぱりビジュアルで見せつつ、言葉をのせていったほうが説得力があるんじゃないかなと思ったんです。

実は今回は、ほぼ自然光で撮っています。レフ板もなし、本当に人間の目で見えている状態を見せられていると思います。リアルな姿、シチュエーションによってメイクで遊ぶ……いわば「原点」のようなものを見せたかったんです。

――女性のメイクを見続けてきた河北さんですが、「今」の時代メイクについて思うことはありますか?

今は本当にビジネスとしても美容のジャンルは熱くて、あらゆるものが世の中にあふれていると思います。だから今は、本当に自分に合うものはなんなのか、と探せる時代なんじゃないかと思います。今こそ、本物を見る目を養ってほしいですね。

とはいえ、なかなか「何が本物か」というのもわからないと思うので、僕みたいなメイクの現場にいる立場の者がしっかりいいものを紹介していかなきゃいけないな、と思っています。みんなに胸を張って「これはいいよ」と言えるものを紹介したり、作っていきたいですね。

こだわったスキンケア、みんなにハッピーになってほしい

――作る、というお話が出ましたが、昨年スキンケアのブランドもデビューさせたんですよね。

「&be」っていうブランドです。これは本当に、本当にこだわって作っていて、正直しんどいぐらいなんですよ(笑)。嘘のない化粧品を作りたいと思ったら、成分にもかなりこだわるし、正直言うと原価率もめちゃくちゃ高いんです。化粧水&美容液の小さいサイズで1,800円なんですが、本来4〜5倍の価格だなって……(苦笑)。

――そんなに!

そうなんですよ!品質には本当に自信があるんで。化粧品を使って、ハッピーになってほしい!という気持ちで作っています。

  • ●河北裕介(かわきた・ゆうすけ)さん プロフィール
    1975年京都府生まれ。1994年よりヘアスタイリストとして活動開始。女優&モデル指名はNo.1、数多くの女性誌や広告を手がける、今圧倒的な支持を集めるヘア&メイクアップアーティスト。常にトレンドを牽引し、女性の色気や個性を生み出す普遍的なメイクを得意とする。ヘアメイクから作り出されるビジュアルや簡単で時短なワザだけでなく、女性の生き方、美しさに関する考え方や哲学に、多くのファンを持つ。

『読む河北メイク』

河北裕介:著 

(講談社)

朝日新聞バーティカルメディアの編集者。撮影、分析などにも携わるなんでも屋。横浜DeNAベイスターズファン。旅行が大好物で、日本縦断2回、世界一周2回経験あり。特に好きな場所は横浜、沖縄、ハワイ、軽井沢。
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