行こうぜ!性別の向こうへ

ライムスター宇多丸「人の頭の中の妄想まで統制することはできない」

日本語ラップの先駆けライムスターのメンバーで、ラジオDJや文筆家としても活躍し様々な文化に造詣の深い宇多丸さんに、ジェンダーについてお話を聞くインタビューの第3弾。今回は、女性蔑視的な要素を含むコンテンツとどう付き合っていくべきかを語ってくださりました。

●行こうぜ!性別の向こうへ

人の頭の中は統制できない。だからゾーニングが大事

――最近、Twitterなどで過激なアダルトビデオに対して、女性たちが抗議をしている様子を見かけます。誰かが傷つく可能性がある表現を含む作品が生み出され続ける現状、どうお考えですか?

宇多丸: ただ、そうしたポルノを制作したり売ったりしている人たちも、別に「現実にこういうことが起こってほしい」と考えているわけではないと思うんですよね。あくまで物陰でこっそり消費されることを想定した、後ろ暗いファンタジー……っていうかポルノって、そもそもそういうものでしょ?

――でも、見て傷つく人がいるのは事実です。

宇多丸: だから、誤って望まない人の目に触れないよう、徹底したゾーニングが大事ですよね。それ以前に言うまでもなく、出演者などが「現実に」望まない行為を強いられたりすることがないようにする、というのは大大大前提ですが。

――ニーズのある人にだけ届くように配慮が大事ということですね。でも、映像を見て真に受けて、女性に対してひどい扱いをしてもいいと思ってしまう人がいる可能性もあります。

宇多丸: うーん……。これは前回話したことにも通じますが、表現の自由と社会的な「安全」のバランス、これは明快な答えが出しにくい問題でもあります。例えば、映像作品の中の暴力的表現というのはすべて、仰るようにそれを見た人に悪影響を及ぼす可能性がゼロとは決して言いきれないものではあるのですが、だからと言って、それらが全部禁止された世の中というのが果たして良いものかというと……僕には、それは完全なディストピアとしか思えない。

――確かにそうなんですが、でも、やっぱり過激な表現は人を不快にする可能性があるかと……。

宇多丸: これも前回言ったことと重なりますが、そもそも表現というのはすべて「不快にする可能性がある」し、そうでないと存在する意味がない、というのが僕の考えです。
仮に「誰も傷つかない表現」しか存在しない世の中というのが実現したとして、そこはきっと、おそろしく虚ろで活気のない社会ですよ。

それに、さっきも言ったようにポルノの本質とはファンタジーでしょう。人の頭の中の妄想まで「正しさ」で規制をかけることはできないし、するべきでもない。そんなことを本気でしたら、間違いなく女性の皆さんにとっても、ただごとでなく息苦しい世界になってしまいますよ。

もちろんその良からぬ妄想を、人を傷つけかねないことがわかりきっているのに公の場で撒き散らしたとしたら、それは当然問題にされてしかるべきですよね。だからやはり、ゾーニングの徹底はされるべき、そこでなんとかすべき、というのが僕の意見です。

――本来の対象者以外の方の目にたまたま目に入ってしまったら、どうしたらいいでしょう?

宇多丸: うーん、さすがにこれは腹に据えかねる、ファンタジーとしても許されない域だろ、と思うような代物なら、それこそ批判の声を上げて全然いいんじゃないですか。それだって言論の自由ですし、男性側にとっても、「確かに、こんなもので欲情するなんて恥ずかしいことだよな」とか、根本の考え方を変えてゆく契機になるかもしれない。

――それがきっかけで、うまいゾーニングの方法を一緒に考えられたりしたら良い社会になりそうですね。

宇多丸: 結局、ポルノ、すなわち性的ファンタジーの在り方というのも、その社会に流れる価値観の反映でしかない、とも言えるわけで。世の中全体が本質として女性蔑視的だったり女性嫌悪的だったりするうちは、男どもの妄想も当然その色にある程度は染まり続けるでしょう。その傾向もだいぶ変わってきたと思いますけどね……。

真に有害な差別はどこにあるか

宇多丸: ポルノや、初回に話題になったヒップホップの世界でのマッチョな振る舞いというのは、「正しさ」に反しているとわかった上であえてやる露悪のようなもので、自覚的なぶんまだ罪は浅いくらいなんじゃないかと思うんです。
真に有害なのは、旧態依然とした性差別的意識をいまだに疑いもせず正義もしくは真理と思い込み、周囲にも当然のような顔でそれを押しつけて回るような手合いで、おそろしいことに日本の政治家は、このタイプが明らかに多い。
公の場でありえないようなセクシスト発言を連発して、何が悪いのかもホントにはわかってない風だったり……それで少子化対策のポストに就いてたりしますからね、マジで。悪い冗談かよと。
彼らの方が、どう考えてもそのへんのポルノより、5億倍有害だと思いますよ!

――その状況で、私たちにできることはあるでしょうか?

宇多丸: SNSで問題意識を喚起してゆくとかもあるけど、最終的にやっぱり、参政権をどう使うか、ということでしょうね。

だって、国民の半数は女性のはずなのに、あそこまではっきり女性差別的な発言をしてきた人たちがあんな位置に居続けているのは、おかしいでしょう。あとは例の医科大の試験の件とか、みんなもっと大暴れしていい話だろうと思いますし。
そういう社会の根本のところからひっくり返していかないと、末端もなかなか変わらないと思います。

【取材後記】
お互いの思想の自由を認め、違和感があれば議論し、しっかりとゾーニングしていくことが大事。そして、差別的な表現よりも、無自覚に差別をしている権力者の方が問題という意見にまで発展しました。次回は、差別する方にもされる方にもある「無自覚さ」について話を伺います。

●宇多丸(うたまる)さん プロフィール
1969年東京都生まれ。ラッパー、ラジオ・パーソナリティ。89年の大学在学中にヒップホップ・グループ「ライムスター」を結成、日本ヒップホップの黎明期よりシーンを牽引し第一線で活動中。ラジオ・パ一ソナリティとしても人気を博し、09年には第46回ギャラクシー賞「DJパーソナリティ賞」を受賞。18年4月よりTBSラジオで月曜日から金曜日の18時から21時に生放送されるワイド番組「アフター6ジャンクション」でメインパーソナリティを務める。テレビ、雑誌、ウェブなどでも活躍中。
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写真家。1982年東京生まれ。東京造形大学卒業後、新聞社などでのアシスタントを経て2009年よりフリーランス。 コマーシャルフォトグラファーとしての仕事のかたわら、都市を主題とした写真作品の制作を続けている。
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