ダイバーシティって「いいね!」 Facebook 働き方改革の挑戦
「人と人をつなぐ」Facebookで社会問題を解決する
telling,編集長中釜由起子(以下、中釜): 下村さんはフェイスブック ジャパンに入られて丸2年とのことですが、30代半ばでの転職は何かきっかけがあったんですか。
フェイスブック ジャパン 下村祐貴子さん(以下、下村): 新卒でP&Gに入って14年間、働きました。後半の5年間は社内結婚した夫とシンガポールに赴任して、グローバル広報を担当していました。ひととおり経験を積んで、3年前に帰国して改めて日本を見たとき、「人と人をつなぐ仕事をしたい」「社会問題を解決する仕事がしたい」という気持ちが強くなったんです。
実は1年くらい転職を迷っていました。その間に、Facebookが自殺やいじめ防止に向けた取り組みをしていたり、例えば発達障がいのあるお子さんを持つ保護者のコミュニティのサポートをしたりしていることや日本文化を伝えるグループのサポートをしていることを知ったんです。人と人がつながり助け合う仕組みづくりに関わりたい、と転職に踏み切りました。
中釜: 今は広報の他に、多様性を認めて一人ひとりが活躍できるように、という取り組みをする「ダイバーシティ&インクルージョン」のチームリーダーもなさっているんですよね。
下村: はい、女性の活躍やLGBTQなどのマイノリティを応援する活動をしています。彼らをサポートするためには、まず人が無意識のうちに抱えている「バイアス」に気づいてもらうことが大事なんです。
実はみんな持っているかも?「無意識バイアス」を取り除く
中釜: 「無意識バイアス」ですか。聞き慣れない言葉です。
下村: たとえば履歴書の場合、男性の名前だと採用される確率が高いとか、男女で同じ仕事をしても女性に対する評価のほうが厳しいとか。障がいのある社員に対し、本人に確認せず気を遣ってあえて出張に行かせない、といったことも「無意識バイアス」にあたります。フェイスブックでは、毎年この「無意識バイアス」に特化した研修を行っています。無意識バイアスを再現した動画を見たり、グループでディスカッションしたりすることで、参加者自身が抱えている「無意識バイアス」に気づいてもらいます。
中釜: 個人の意識を変える、ということですね。「ダイバーシティ」という言葉は普及していますが、実は私、どうやって多様な社会をつくるのか具体的な方法がよくわからなかったんです。そうした「ダイバーシティ」へのモヤモヤは日本の企業なども感じているのではないかと思っています。メッセージを大上段に振りかざすだけでなく、個人の意識を変えていくのが、結局、社会を変えるいちばんの近道だということなんですね。
下村: はい。そうやって一人ひとり、そして会社では特に中間管理職の意識を変えるのが、とても大切ですし、事業の拡大にも不可欠だと思っています。
中釜: その点、御社は一歩先を進んでいるように見えます。
男性社員も積極的に産休を取得。男女の理解が深まった
下村: 少し前まではそうでもなかったんですよ。私は子どもが2人いるんですが、2年前に入社した時は、私ともう1人しか子どものいる女性社員がいませんでした。
中釜: それはかなり意外ですね。
下村: でもその後、執行役員の男性にお子さんが生まれたので育休をとっていただきました。まずはトップが変わらないと、下は取りにくいですよね。彼が1カ月半ほど育休を取って、それが自分や家族や仕事にどれほど良かったか社内で話してもらったら、男性社員が立て続けに育休を取ったんです。育休中に男性が家事や育児を経験すると、女性に対する共感も高まるので相乗効果も生まれています。女性の社員数自体も増えています。
中釜: 良いこと尽くしですね。グローバル企業で全部完璧にできていそうなイメージがあるので、そういうプロセスを聞くと、親近感がわきます。一方で、「ダイバーシティ&インクルージョン」の取り組みは売上げには直結しないと思われそうですが、その点はいかがですか。
下村: 取り組みを会社の目標に結びつけて説明すると、みなさん、納得してくれます。フェイスブックの場合、人と人がより身近になる世界を実現することがミッション。
個人だけではなく地域ごとのダイバーシティを創業者兼CEOのマーク・ザッカーバーグが重視し、グローバルで取り組んでいます。より多くの人を製品、機能、利便性でサポートするためには多様な人の意見が必要ですから。
中釜: どんなふうにサービスに多様な意見を取り入れているんですか?
下村: 数年前から、地域に応じた機能を積極的に増やしています。たとえば、震災が多い日本では、東日本大震災のときに安否確認の手段としてFacebookが利用されました。これをみて日本人のエンジニアが安否確認機能の前身を作り、2014年からセーフティチェックとし、災害時に安否確認機能が運用されました。今は災害支援ハブという機能に進化し、安否確認のみならず、災害の被害状況が分かったり、オンライン上で被災地に寄付ができるなどの統合的な支援機能となりました。アメリカの企業で、日本の使われ方を見て日本人がアイデアを作って全世界にロールアウト(展開)された、まさに多様性が活きた事例かと思います。’
すぐには売上につながらなくても、取り組みを続ける
下村: ダイバーシティ&インクルージョンの考え方は、リクルーティングにも結びついています。本社も日本オフィスも、1人の人材を採用するのに5人は面接せねばならず、候補にはヒスパニックなどのマイノリティを必ず入れなければなりません。男性の人材が多いエンジニアチームにも、必ず女性の候補者を採用面接に入れています。
中釜: たった数年ですごい変化……。社内でもそういうルールや仕組みをつくることによって、折々に考えさせていくわけですね。仮にそういう取り組みに反対の声があったら、どう対応したらいいのでしょう。
下村: 前職の経験にはなりますが、ダイバーシティチームの男性メンバーが本職が忙しくなり、「ダイバーシティの活動は彼のコアの業務ではなく割いている時間はないから」というメールを送ってきた上司の方がいたんです。本職で忙しいのはとてもわかるのですが、上司がその言い方をするのはよくないなと思い「優先順位付けは必要だけど、そういう言い方はしないほうがいいのでは」と伝えたら、ちゃんと理解してもらい、そこからその方も変わったんです。おかしいと思ったら「その考え方は間違っていますよ」と言い続けることが大事だと思います。
中釜: それ、すごくわかります。意見が合わないときこそ、しっかりコミュニケーションする。そうすると、上司も自分の考え方を見直してくれるわけですね。やはり黙っていても何も変わらないので、言い続けていくことが大事なんですね。
後編では、仕事でのモヤモヤやプライベートとの両立について2人が語りあいます。
続きの記事<Facebook広報の女性が語る「私、スーパーウーマンじゃないんです」>はこちら
●プロフィール
下村祐貴子(しもむら・ゆきこ)
フェイスブック ジャパン執行役員 広報部長
1980年兵庫県生まれ。2002年、P&G(株)に入社。入社4年目から、広報・渉外担当に。2010年にシンガポールに赴任し、アジア地域広報などをPR戦略をリード。2016年にフェイスブック ジャパンに転職。広報統括ほか、「ダイバーシティ&インクルージョン」のチームリーダーも務める。プライベートの楽しみは週に一度のウェイトトレーニング。2児の母。
中釜由起子(なかがま・ゆきこ)
telling,編集長
1981年鹿児島県生まれ。2005年、朝日新聞社入社。週刊朝日記者/編集者を経て、デジタル系部署の企画営業、新規事業部門「メディアラボ」へ。著書に『これからの論理国語』(水王舎)がある。現在、熊本大学大学院(教授システム専攻/博士課程前期)に在学中。2児の母。