私らしい“結婚”

『生涯未婚時代』著者が語る、生きづらい世の中を少しでも身軽に渡り歩く方法

結婚も仕事も生き方が多様化している分だけ自由と迷いが伴う私たち。多様化していく世の中をどのように生きていけばいいのか、前回に続き、『生涯未婚時代』の著書がある家族社会学者の永田夏来先生にお話を聞きました。

●私らしい“結婚”

「ドラクエ人生」から「ポケモン人生」へ

――生き方の選択肢が広がった分、自分で決断しなくてはいけないという大変さを感じます。

永田:私は「ドラクエ人生」から「ポケモン人生」に変化した、と言っています。「攻略本の通りに進んで、ボスを倒せばクリア!」という人生から、「自分で育てるポケモンを選び戦っていく」人生に変化が起きています。

ポケモン人生の場合、自分が選んだ道はどういう展開があるか手探りで、当然迷いも生じます。それぞれの場で自分を知り、何が心地良いか迷いながら決めていく。変化しながら試行錯誤することが求められている時代になってきていると思います。

人は考えが変わる生き物。その時の自分によってキャラを変えてもいい

――生き方が多様化していく世の中で、自分がどの生き方を選べばいいかわからなくなってしまうことがあります。

永田:人って変わる生き物です。たとえば年齢によって、好きな食べ物って変化しますよね。結婚や生き方に対する考え方も、その時その時に合わせて、今の自分はこれだ、と選べる状態が一番良いでしょうね。

――仕事をバリバリするのも、結婚して専業主婦になるのも、どっちも捨てがたいし決めきれないという時はどうしたらいいでしょうか。

永田:気持ちが揺れ動いて、コロコロ気が変わっても全然いいんですよ。

迷いがある時は、どっちの自分も試してみればいいと思います。たとえば月の前半は”仕事をバリバリやりたい”気分でいたら、Aチームの仕事頑張るコミュニティにいき、月の後半は、”やっぱり結婚したい”と思えばBチームの婚活コミュニティにいってみる。

Bチームで「仕事も頑張りたい」と、コミュニティの内容と違うことまで全部自分のことをさらけ出す必要はないんですよ。すべてを話せる友達がいればいいですが、AとBで、キャラクターを使い分けることは悪いことではありません。

今はSNSを通じていろんなコミュニティに気軽に参加ができますよね、それを最大限活用したらいいと思います。Twitterの裏アカウントなんかもいいんじゃないでしょうか。自分が楽になるなら、どんどん使っていけばいいんです。

一つのところにとどまっているよりも、前に進むために行動して、自分を知ることができるというのが大事ですね。

生きづらい世の中に私たちができること

――制度が硬直していたり社会の変化が遅かったりと、生きづらさを感じやすい世の中。変えていくために、私たちができることはありますか。

永田:今、自分たちが感じていることを、少しずつでも発信していくことが大事だと思います。例えば、一昨年話題になったテレビドラマ「逃げるは恥だが役に立つ」。このドラマの感想がSNS上にたくさん集まり、結果ドラマが盛り上がって、「契約結婚」という考え方が世に広がるきっかけになりました。

以前から逃げ恥のようなカップルはいたと思いますが、表に出てこなかったのは、自分たちは多数派ではないから「おとなしくしていよう」といったことだったのではないでしょうか。法律婚以外だと、皆から責められたり、けなされたり、誤解されるのでは……こんなふうに不安になるような世の中では、わざわざ「私たち契約結婚です!」と人には言わないですよね。

ところが実際には、契約結婚や事実婚など、法律婚以外の選択をしている人たちはたくさんいて、そこを顕在化させたのがSNSでの発信だったと思うのです。個人個人が自分たちの声を発信して新しい考え方を盛り上げることで、人生の多様性が認められ、誰にとっても生きやすい世の中にしていくことになりますね。

【取材後記】
気持ちは日々変化します。今日は赤が良くても明日は青を選びたくなるかもしれない。人間だもの、気持ちが揺れ動いても全然いい。むしろ、前向きな揺れ動きウェルカムです。色々なコミュニティに入りながら自分と向き合っていくこと。そうして自分が進む方向に道が出来ると思います。

  • ●永田夏来(ながた・なつき)先生 プロフィール
  • 長崎県出身。2004年に早稲田大学にて博士(人間科学)を取得後、関東・関西の各大学で非常勤講師を務める。現職は兵庫教育大学大学院学校教育研究科講師。専門は家族社会学。
東京生まれ。千葉育ち。理学療法士として医療現場で10数年以上働いたのち、フリーライターとして活動。WEBメディアを中心に、医療、ライフスタイル、恋愛婚活、エンタメ記事を執筆。
写真家。1982年東京生まれ。東京造形大学卒業後、新聞社などでのアシスタントを経て2009年よりフリーランス。 コマーシャルフォトグラファーとしての仕事のかたわら、都市を主題とした写真作品の制作を続けている。