乳がんを知る②

乳がんになったら誰に話せばいいですか? 仕事や出産、対策はどうする?

もし自分に乳がんが見つかったら、仕事も出産もどうしよう。そもそも、私のセルフチェックの仕方は間違っていないだろうか……そんな不安を感じる方も多いのではないでしょうか。まずは、乳がんについて知ることから初めてみませんか。前回に引き続き、順天堂大学医学部附属順天堂医院(東京都文京区)の齊藤光江教授(乳腺科)に、乳がんについてお話を聞きました。

●乳がんを知る②

乳がんのセルフチェックって実際どうやるの?

――タレントの北斗晶さんのように、毎年検診を受けていたのに、乳がんを患ってしまったという例も聞きます。なぜなのでしょうか。

齊藤光江教授(以下、齊藤): 大きな理由は二つです。一つは中間期乳がんと言って、検診が1年に1回くらいだとしたら、その間に見つかってしまう進行の早いがんです。もう一つはデンスブレスト(高濃度乳房)と呼ばれる乳腺組織の密度が濃い方です。この場合、マンモグラフィーだけでは発見しにくいんです。だから、検診を受けたから安心ではなく、セルフチェックも大切です。

――そもそも、自分のセルフチェックのやり方が合っているか自信がないです。どのようにすればいいのでしょう。

齊藤: イメージとして、クッションの下に丸まった消しゴムを入れた状態を想像してください。それを指のハラで押しなでるようなタッチで、がんを探ります。つまんでしまうと、クッションの厚みで分からないですよね。がんは表面にあるものと、一番底にあるものでは感触が違うので、どの部分を探しているかイメージしながらタッチします。また、ボリューミーな人や下に垂れている人は、厚さで感触が分かりにくい。手を挙げて胸を薄くするか、横になって胸を薄くした状態で触ると死角が少なくなります。

また、セルフチェックで何か発見したら、と不安になってしまう人もいるようです。一番怖くないのは検診を受けて結果が通知された日。そこで問題がなければ安心でしょうから、その日からセルフチェックを始めてみてはいかがでしょうか。それから毎月1回セルフチェックを行うようにすると、何かあった時に変化が分かりやすいです。また、指だけでは分かりきらないので検診があるということも忘れないで下さい。

乳がんになったことを人に話す? メンタルケアは?

――乳がんであることがわかった場合、気持ちの落ち込みともつき合っていかないといけませんよね。

齊藤: 一般的に、がんを告知された方のメンタルの経過は、まず、拒絶反応から始まると言われています。次いで悲しみ→落ち込みと気持ちが変化し、その後、次第に回復します。もちろんすべての方に当てはまるわけではありませんが、気持ちが回復していく経過がスムーズでない場合は、専門家によるメンタルケアを受けた方がいいかもしれません。

ただ、私たち医療従事者の側にも問題があって、患者さんをとがめるような言い方や、相手の気持ちを考えないでズバズバ言ってしまう人も中にはいるんです。こうした点は、医療従事者側も改善していかないといけないと思います。運悪く傷つけられてしまった場合は、看護士や心理療法士に相談するか、場合によっては病院を変えるなどして、相性の良い医師をみつける方法もあります。メンタル面の落ち込みが、治療の経過にも影響する恐れがありますから。

――病気を告白して、他人からの心無い言葉に傷ついてしまうこともあると聞きます。

齊藤: 個人的には、ご自分の身を守るために、家族や親しい方以外の周囲へのカミングアウトするのは3年ほど過ぎてからが良いのではないかと感じています。周囲に知られることで助力を得られる場合もありますが、逆に傷つけられてしまうこともあるんです。

少しダイエットしたら「痩せてきたけど大丈夫?」と言われたり、元気そうにしていたら「病人に見えないわね」と言われたりと、不用意な言葉をかけられて傷ついたという話をたくさん聞きます。達観して余裕を持って対処できる方は大丈夫だと思いますが、言うならば覚悟はしておくことです。心ない言葉や噂は広まるんです。

順天堂大学医学部附属順天堂医院の齊藤光江教授

仕事は継続できる? 子供が欲しい場合はどうすれば

――乳がんになってしまった後でも、仕事は続けていけますか?

齊藤: パートの方は治療と被らないようにシフトを調整したり、“バリキャリ”と呼ばれるようなバイタリティーのある人の中は、有休休暇をとって旅行に行くと伝えたり、周囲にがんだとわからないような工夫をしながら続けている人もいますね。

ただ、ご自分の状態とよく向き合いながら、無理をしないことが大切です。一般的に抗がん剤を投与する期間は半年間で、3週間に1回投与しますが、その間、吐き気や痛み、抵抗力低下、脱毛など、ほぼ全員に何かしらの副作用が出ますから。

――患者さんが結婚や出産を望んでいる場合はどうでしょうか。患者さんにはどのように伝えていますか。

齊藤: パートナーの方と一緒に病院に来てもらって、家族計画の話をします。子供をもうけたい場合、薬の期間を10年から5年に変更するなど、治療プランを考え直すこともあります。その場合の想定されるリスクがあることや、本人が途中で亡くなってしまう可能性も伝え、パートナーが育児をする覚悟があるか話し合います。二人で話し合った結果、子供をもうけようとなったら、最大限のサポートをするようにしています。

●取材後記
もしも自分が乳がんになったら……。身内や友人、仕事関係者にはどう伝えるだろう。2次的に苦しむリスクがあるのなら、齊藤教授が話すように3年間は黙っている選択をするかもしれない。うまく休みを取りながら何事もなかった顔で仕事を続けるだろう。

ただ、本当はカミングアウトの時期や周りへの影響を心配するよりも、乳がんの知識がもっと一般に知られている世の中になってほしいと思う。どのような状態でも堂々と生きていたいし、生きて欲しい。誤解や偏見を無くすこと。そのために発信を続けていこうと思う。

東京生まれ。千葉育ち。理学療法士として医療現場で10数年以上働いたのち、フリーライターとして活動。WEBメディアを中心に、医療、ライフスタイル、恋愛婚活、エンタメ記事を執筆。