太田彩子「キャリアプランは、いらない。」

私たちに必要な強さは、困難や苦労と格闘するのではなく、受け入れること

「かつては“バリキャリ”だったキャリアの専門家・太田彩子さん。自身の会社の経営、日本最大級の営業女子コミュニティの主宰など広く活躍しながらも、「かつての“頑張る自分”は卒業した」と言います。その太田さんが今、私たちに伝えたいこととは? 「もっと頑張らなきゃ」と力んでしまうとき、心理学の専門家でもある太田さんの言葉は、胸に響くはずです。 今回は10月28日に行われた「あなただけに言うね、本当の私のキャリアの話 ~telling,×営業部女子課コラボイベント~」での太田さんの講演の一部を紹介します。

●キャリアプランは、いらない。太田彩子講義編

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太田彩子さん

21歳で出産、子育てをしながら仕事に取り組み、リクルートの営業職として活躍したのち、2006年に人材育成・キャリア支援の株式会社ベレフェクト設立。2009年より日本最大級の営業女性コミュニティ「営業部女子課」を主宰。ほかにも上場企業の社外取締役など多岐にわたる活動で知られる。ここ数年は海外遠征をするほど本格的に登山に取り組み、筑波大学大学院にて心理学の研究も進めている。

私たちは悩みながら、階段を登ったり降りたりして、一生発達する

私は今、大学院で「人の心」について研究しています。これまで働いてきた中で失敗したことやモヤモヤと悩んでいたことをフレームワークや理論に当てはめてみると、腑に落ちることが多いんです。

今日は、私もまだ研究初心者でありますが、日々学んでいる3つのことを皆さんに共有したいと思います。

まず1つめは、「人は生涯発達し続ける」ということ。私たちは「今起きていること」に重きを置きがちですが、実は人は死ぬまでの一生、成長するということを学びました。ただ、人は一直線に発達するのではありません。さまざまな「危機」といわれる「人生の転機」を経て、成長し続けるのです。

悩んでもいいんだ、とほっとした

例えば「30歳の危機」。この時期には、仕事上ではリーダーになったり、プライベートでは結婚や出産をしたりと、様々なステージの変化がある時期です。また、私自身もとても悩んだ、「40歳の危機」。突っ走ってばかりだったこれまでを、少し立ち止まって考え、人生の後半を迎えるようというタイミングです。つまり、人は環境や役割などが変わるときに悩むのです。

私自身、このようなことを学術的に学んで、ほっとしました。悩んでもいいんだなって。仕事のこと、家庭と仕事の両立のこと、将来のこと。多くの発達理論でも残されているように、私たちは人生に悩みながら、節目ごとに主体的な選択と意思決定を繰り返すことによって、一生発達し続けるのです。

過去の点と点が結ばれて線になった時、何か意味が生まれる

そして2つめが「今の現実を再評価する」ということです。心理学には「意味付け」という概念があるのですが、意味付けによって過去の出来事が持つ意味は全く変わることに気付きました

事実をどうとらえるか、つまり認知次第で、その後の感情や行動はガラリと変わります。例えば上司にあいさつをしたのに無視された時。パッと「この間の会議でも冷たい反応をされたな」と悪い方に考えてしまうかもしれないけれど、「スマホを見ていたから気付かなかったのかな?」など、客観的な情報を集めれば違う考え方もできますよね。現実に対しての認知を変える、つまり現実を再評価すれば、悩んでいる物事への捉え方が変わります。

この考え方をスティーブ・ジョブズは、「Connecting The Dots(点と点をつなげ)」という言葉で表現しました。事実が点だけの時は意味が分からなくても、過去を振り返って点と点が結ばれて線になった時に、何か意味が生まれる。大失敗したり失恋したり、悲しい出来事があっても私たちが前を向いて生きていけるのは、そのつらい過去に何らかの意味付けをしているからなのかなと思います。

「成功」の定義は自分で決める

そして3つ目は、「主観的成功を見出す」ということ。これは心理学研究を通じて、私自身とても感動した概念の一つです。

一般的に「成功」という言葉からイメージされるのは、地位や名声、お金などでしょう。これらは「客観的成功」といわれるもので、自分で決めた成功ではありません。

一方の「主観的成功」は、自分で決める成功です。晴れの日に心が満たされたり、新しく出会った人と楽しくお話ができたり、自分自身が意味を見出して、ポジティブに捉えていく。これが主観的成功で、これを持っていればいるほど、どんどん良いスパイラルが回って、幸せになれるというエビデンスも出ています。

どうしても客観的成功に目が行ってしまいがちですが、主観的成功を持つと自分そのものが変わるんです。物事の捉え方が変わって、目標も変わっていく。『青い鳥』という有名な小説にもある通り、幸せは遠いところにあるのではなく、自分の認知を少しだけ変えてみることで身近に見つかるのだと思います。

ショックな出来事の先には、成長が待っているかもしれない

最近、精神科医師の帚木 蓬生さんが書いた、『ネガティブ・ケイパビリティ 答えの出ない事態に耐える力』という本を読みました。現実は甘くないし、何が起きるか分からない不明瞭な時代です。だからこそ、我慢をして耐え抜く力が一番強い力なのではないか。これを読んで、困難や苦労と格闘するのではなく、受け入れることが、今の私たちに必要な強さなんじゃないかと思いました。

最後に「心理的外傷後の成長」についてお話させてください。

私、実は20代で大親友を亡くしているんです。もう、本当に悲しくて、亡くなる数日前に連絡をもらっていたこともあって、1年間ぐらいずっと気を落としていました。でも人間って不思議なもので、時間が解決してくれたんです。誰も読むことがない彼女への手紙を書いたりしているうちに、たとえ亡くなってしまった人であっても、この上なく自分の支えになるということに気付きました。

悲しい出来事のあとって、なんだか温かい気持ちになるんです。思いやりの心が強くなった、新たな関心事が生まれた、自分自身を信頼する気持ちが強くなった、命の大切さに気付けるようになった……。悲嘆や大きなショックな出来事のあとには、時間はかかりますがさまざまな成長を生み出すこともあり、これは「心理的外傷後の成長」とも表現されています。

だから、皆さんに伝えたいのです。私たちは悩みながら、生きていくけれどそれでいい。ショックな出来事や変えられない事実があったとしても、時間が解決することもある。そしてその先には、ちょっとした成長が待っているのかもしれない、と。私もこんな偉そうなこと言える立場でもなく、まだ成長過程の身ですが、皆さんが、自分なりの“成功”を見いだして、日々幸せに生きていけることを、心から願っています。

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2009年に株式会社キャリアデザインセンターに入社。求人広告営業、派遣コーディネーターを経て、働く女性向けウェブマガジンの編集として勤務。約7年同社に勤めたのち、会社を辞めてセブ島、オーストラリアへ。帰国後はフリーランスの編集・ライターとして活動中。主なテーマは、「働く」と「女性」。
朝日新聞バーティカルメディアの編集者。撮影、分析などにも携わるなんでも屋。横浜DeNAベイスターズファン。旅行が大好物で、日本縦断2回、世界一周2回経験あり。特に好きな場所は横浜、沖縄、ハワイ、軽井沢。