私と母の「飛鳥Ⅱ」体験記 02

初めてだらけのクルーズ旅 ー私と母の「飛鳥Ⅱ」体験記

いつまでも元気だと思っていた親も、年を重ねて、心配なことが少しずつ増えてくる。ゆっくり話をしたり、親孝行したりするために、親子で旅行に行ってみたいと思っている方は多いのではないでしょうか。親孝行とはほど遠い生活を送ってきたtelling,編集部員(37)が、60代の母と、大型客船「飛鳥Ⅱ」で母娘二人旅に出かけてきました。

●私と母の「飛鳥Ⅱ」体験記 02

 旅慣れない母は、旅行が決まってから、「何か必要なものあるかな? 寝る部屋あるのかな」と聞いてきた。持ち物は、いわゆる一般的な温泉旅行程度でいいらしい。小さなスーツケースとリュックで前日に鹿児島から上京してきた母と、集合場所の横浜港大さん橋へ向かった。

 船内に入ると、ホテルと見まがうようなロビーとフロントが出現した。

 チェックインして、荷物を置きに部屋に向かう。

「あらー、大きなベッド! お風呂もある。ホテルみたいだね」。

 物静かな母が珍しく、興奮している。今回泊まったのは、上から4番目のランクである「D.バルコニー」。部屋にはバルコニーもあり、陸上での旅行ではなかなかお目にかかれない壮大なオーシャンビューが、輝くばかりに広がっていた。

 船内は、とてつもなく広そうだ。船は12階建て……! 日本船籍で最大の客船は、想像以上に大きい。出港は17時。15時頃に早めにチェックインした私たちは、船内外を散策することにした。

 まずは、お客さんの多くが最初に訪れるというラウンジへ。広い。

 イタリアから直送されるというオリジナルブランドのスパークリングワインやソフトドリンク、日替わりのスイ-ツが食べ放題。外にはまぶしい海が広がっている。

プレミアムダイニングプレゴ

 ひと息ついたら、別のフロアに移動してみた。もう、迷子になりそうだ。

ライブラリー
シーホースプール

 冗談か、というくらい何でもある。海の上にある巨大ホテルという言葉がぴったりだ。手当たり次第にいろいろな施設をのぞいていると、船内アナウンスが告げた。「1645から、出港セレモニーが始まります。7Fデッキへと足をお運びください」。

 母と一緒に、デッキへ出た。

 映画などでしか見たことのない、テープ投げのセレモニーが始まった。陽気なバンドの歌も聞こえ、水兵さんのような制服の乗務員が銅鑼を鳴らしながら出発を告げる。

銅鑼を鳴らす乗組員

 港に集まった人々に手を振りながら、嬉しそうに笑っていた。

 部屋に戻った母は、配られた船内新聞「アスカデイリー」を手に、夜から翌日にかけて行われるイベントを熱心に見ている。

 私が驚いたのは、船内のいたるところでイベントが複数行われていること。大道芸、ディスコ(!)、ダンスショー、カジノ……。飽きるどころか、こんなにたくさん見きれない。

大道芸に見入る人々

 夕食前に、サプライズで母をヘッドスパに連れて行った。母は、ヘッドスパを経験したことがない。ごめん、娘はしょっちゅう行っている。

アスカアヴェダ サロン&スパ

「あらー、まあもう気持ちがいいねえ。手が、同じ人間の手かね」。

 サプライズを仕掛けた甲斐のあるリアクションで喜んでいた。施術後も「極楽極楽」と呪文のように唱える母と、夕食会場に移動した。

フォーシーズン・ダイニングルーム

 本格的なフレンチのフルコース。料理を堪能しながらも、

「見て、この手書きのメッセージ。なんか若い子が頑張っていて、泣けてくるよね」。

メッセージ

 妙なところに興奮している。ボーイさんたちは、若いフィリピン人の男性が多かった。尋ねると、食事とともにもてなしも堪能してもらうため、それぞれが担当するテーブルに手書きのメッセージを毎日、添えるのだそうだ。

「残さず食べてあげんならね(あげないとね)」。

ディナーメイン料理

 そう言っておいしそうに料理を食べる母が、この日最も喜んだのは、テーブルをまわる即興バンド4人組の生演奏だった。

「ほら、ゆきちゃん、リクエストしなさいよ」

「お母さんがすればいいがね」

「いや、お母さんは曲を思いつかないから、言って。ほらほら早く」

 苦し紛れに、母も周りのみんなも知っていそうなサザンオールスターズの「TSUNAMI」をリクエストしてみた。「うーん……ちょっとダケ、弾ケマス」。困り顔で答え、弾き語りをしてくれたバンドのおじさんたちに、母は一生懸命拍手していた。

「あの生演奏、明日もしてくれるのかな」。部屋に帰った母は、まだ言っていた。母と娘では、感動のツボが若干違うが、私はおいしすぎる料理に満足したのでそれでいい。なんでも、飛鳥Ⅱにはシェフが70人以上乗っているらしい。乗務員は400人超。母はその行き届いたサービスを褒めちぎっていたが、実際、そうした乗務員とのコミュニケーションを楽しみに、リピーターになるお客さんも多いらしい。

 食後は、お風呂に向かった。

(次回へ続く)

取材協力: 郵船クルーズ株式会社

telling,創刊編集長。鹿児島県出身、2005年朝日新聞社入社。週刊朝日記者/編集者を経て、デジタル本部、新規事業部門「メディアラボ」など。外部Webメディアでの執筆多数。