私と母の「飛鳥Ⅱ」体験記

私が母をクルーズ旅に誘った理由

いつまでも元気だと思っていた親も、段々年を重ねて、心配なことが少しずつ増えてくる。ゆっくり話をしたり、親孝行したりするために、親子で旅行に行ってみたいと思っている方は多いのではないでしょうか。親孝行とはほど遠い生活を送ってきたtelling,編集部員(37)が、60代の母と、大型客船「飛鳥Ⅱ」で母娘二人旅に出かけてきました。

●私と母の「飛鳥Ⅱ」体験記 01

 私と母は、一度も一緒に旅行したことがない。

 そもそも、幼い頃から家族旅行をしたことがない。母は鹿児島で手作りの蜂蜜を売る小さな店を切り盛りしていて、土日も休みがなかった。私は、物心ついたときから部活にいそしむ日々で、ほとんど家におらず、家族でお出かけ、とは無縁の親子だった。

 そんな私が、8月初めに、母と飛鳥Ⅱで船旅に出かけた。23日の国内クルーズだ。親孝行しようかな、とふと思い立ったのだ。

イメージ写真

 大学入学を機に上京して早や十数年。仕事や結婚、趣味、子育てを理由に、帰省すらさぼりがちだった。子ども時代に旅行したことがなかった反動で、国内外問わずしょっちゅう旅行に出かけ、親孝行どころではなかった。

 私が家を出た後、母は何年も前に店を閉めたけれど、旅行に行ったという話も聞かない。

 外に出るのが大好きな私と正反対の性格の母は、得意な裁縫を生かしてパートに出たり、祖母の介護をしたりと、家族のために長年働いてきた。私の仕事が忙しいときには上京して、私の息子たちの世話を引き受けてくれる人だった。

 あ、私、お母さんの還暦お祝いもちゃんとしてないな。

 ある日、自宅に届いた母からの荷物を開けているときに思った。田舎の野菜や私の好きな缶チューハイや、私の息子たちへのお菓子がたくさん入っている。たまには母を喜ばせよう、と思った。

 そして、私は母を旅に誘った。これまで、船に乗ったことはない。もちろん、母もない。船を選んだのは、3つの理由がある。

1 母は、海外旅行が怖い(飛行機で長時間座席に座ると腰が痛そう&治安が悪そう&言葉が不安)
2 母は、京都や奈良などの寺社仏閣が好き(でも、真夏は暑そう)
3 娘(私)は、親孝行とは言え、やっぱり未体験の旅をしたい

 しかも、23日の国内クルーズ。ちょうどよい長さだ。せっかくだから、最高の船旅にしようと思った。これまでクルーズ船に乗ったことはないが、日本を代表する豪華客船「飛鳥Ⅱ」は私でも知っている。

パンフレット「飛鳥Ⅱ 夏の鳥羽クルーズ3日間」

 船は、横浜港を出て三重県の鳥羽に寄港。乗船前にあらかじめ予約して、鳥羽から「伊勢神宮ツアー」にも参加することにした。「寺社が好き」という母だが、伊勢神宮には行ったことがないそうだ。「“飛鳥Ⅱ”って、お母さんでも聞いたことあるがね!」と、母。

 初母娘旅、初クルーズ、初お伊勢さん。行く前から、母娘ともにテンションがあがる。

 はたして、2人旅の顚末は――。

(次回に続く)

  • 続編は、9月21日に公開予定です。

取材協力: 郵船クルーズ株式会社

telling,創刊編集長。鹿児島県出身、2005年朝日新聞社入社。週刊朝日記者/編集者を経て、デジタル本部、新規事業部門「メディアラボ」など。外部Webメディアでの執筆多数。