私が母をクルーズ旅に誘った理由
●私と母の「飛鳥Ⅱ」体験記 01
私と母は、一度も一緒に旅行したことがない。
そもそも、幼い頃から家族旅行をしたことがない。母は鹿児島で手作りの蜂蜜を売る小さな店を切り盛りしていて、土日も休みがなかった。私は、物心ついたときから部活にいそしむ日々で、ほとんど家におらず、家族でお出かけ、とは無縁の親子だった。
そんな私が、8月初めに、母と飛鳥Ⅱで船旅に出かけた。2泊3日の国内クルーズだ。親孝行しようかな、とふと思い立ったのだ。
大学入学を機に上京して早や十数年。仕事や結婚、趣味、子育てを理由に、帰省すらさぼりがちだった。子ども時代に旅行したことがなかった反動で、国内外問わずしょっちゅう旅行に出かけ、親孝行どころではなかった。
私が家を出た後、母は何年も前に店を閉めたけれど、旅行に行ったという話も聞かない。
外に出るのが大好きな私と正反対の性格の母は、得意な裁縫を生かしてパートに出たり、祖母の介護をしたりと、家族のために長年働いてきた。私の仕事が忙しいときには上京して、私の息子たちの世話を引き受けてくれる人だった。
あ、私、お母さんの還暦お祝いもちゃんとしてないな。
ある日、自宅に届いた母からの荷物を開けているときに思った。田舎の野菜や私の好きな缶チューハイや、私の息子たちへのお菓子がたくさん入っている。たまには母を喜ばせよう、と思った。
そして、私は母を船旅に誘った。これまで、客船に乗ったことはない。もちろん、母もない。船を選んだのは、3つの理由がある。
1 母は、海外旅行が怖い(飛行機で長時間座席に座ると腰が痛そう&治安が悪そう&言葉が不安)
2 母は、京都や奈良などの寺社仏閣が好き(でも、真夏は暑そう)
3 娘(私)は、親孝行とは言え、やっぱり未体験の旅をしたい
しかも、2泊3日の国内クルーズ。ちょうどよい長さだ。せっかくだから、最高の船旅にしようと思った。これまでクルーズ船に乗ったことはないが、日本を代表する豪華客船「飛鳥Ⅱ」は私でも知っている。
船は、横浜港を出て三重県の鳥羽に寄港。乗船前にあらかじめ予約して、鳥羽から「伊勢神宮ツアー」にも参加することにした。「寺社が好き」という母だが、伊勢神宮には行ったことがないそうだ。「“飛鳥Ⅱ”って、お母さんでも聞いたことあるがね!」と、母。
初母娘旅、初クルーズ、初お伊勢さん。行く前から、母娘ともにテンションがあがる。
はたして、2人旅の顚末は――。
(次回に続く)
- 続編は、9月21日に公開予定です。