TBS古谷有美「女子アナの立ち位置」

【古谷有美】報道が、命を救ったそのあとに残るもの -北海道地震をうけて

TBSの朝の顔、古谷有美アナ。またの名を「みんみん画伯」。インスタグラムに投稿される、繊細でスタイリッシュなイラストが人気です。テレビとはひと味違う、本音トークが聞けるかも。

●女子アナの立ち位置。

 今年はずいぶん自然災害が続くことに心を痛めていたら、北海道でとても大きな地震が起きました。私の地元も、震源地から近いエリアです。被害に遭われた方々に、深くお見舞いを申し上げます。
 でも、アナウンサーは、こんなときにこそ役立つ職業です。災害報道とどう向き合っているか、どう向き合ってもらいたいか、考えました。

どの災害も、どの報道も、同じように大切

 9月6日の午前3時、実家の父親から「みんな大丈夫だよ」とLINEがありました。てっきり前日の台風のことかと思っていたら、なんと震度7の大地震です。詳しい状況がわからないので声が聞きたかったけれど、両親にとっていま大切なのは、いざというときに連絡がとれるようスマホの電池を温存すること。無事はわかっているのだから、無駄に電話をかけるのはよくないと思い直して、仕事に出かけました。

 番組の放送中は、いつものスタジオではなく、報道フロアのカメラ前に待機。次々に入ってくる情報を、粛々と伝えていくポジションです。地元のニュースを読み上げ続けるのは、すこし不思議な感じがしました。

 周りの方は「地元が大変なのに、落ち着いて読んでいたね」と声をかけてくださったけれど、それが私の仕事なんですよね。大切な土地がそんな状況だからこそ、冷静に、いまできることをする。というか、それしかできません。それに、人の命を左右する放送に関わっているという事実は、どの災害でも同じ。地元だから優先度が高いということもなく、どの報道も大切に感じていることを、自分でも今回はじめて知りました。

人の命を救うために、報道の在り方は変わってきた

 東日本大震災のあと、災害時の報道はずいぶん変わりました。いまは、情報の伝え方がとても具体的です。
 たとえば津波が起きて、避難を促すとき。これまでは海から離れるように指示するだけでしたが、いまは「木造ではなく鉄筋コンクリートで、できるだけ丈夫な建物の、できるだけ高い階に逃げてください」などと伝えます。高い階というのも、人によって感覚が違うから「5階以上」などと数字を出す。地方では、2階や3階で充分高いと感じる方もいらっしゃるので、わかりやすく伝える必要があるんです。

 私たちのように生放送に関わるアナウンサーとスタッフは、定期的に、地震を想定した報道訓練も受けています。訓練があることは事前に知らされているけれど、実際に始まってみないと、どんな内容で練習するのかはわかりません。スタジオで番組を放送しているなか、画面に緊急地震速報が流れて、その訓練の震度や震源地を知る。まさに、本番と同じ状況を再現するんです。きっと各局で、同じような訓練がされていると思います。

報道をまっすぐ受け取って、希望を忘れずに

 このあいだの台風では、決壊しそうな川の近くに住んでいた親子に、こんなやりとりが見られました。30代くらいの息子さんはいますぐ逃げようと言っているのに、年配のお父様は「これまで何十年と生きてきて、川が氾濫したことはないから大丈夫だ」と言い張る。いよいよ危なくなってきたときにお父様も気づいて、避難をされたので、大事には至りませんでした。でも、誰もそのお父様のことを責められないと思うんです。

 人はどんなに悪い状況でも「なんとかなるはず。きっといいことが起きるはず」と、希望を抱いてしまう生き物なんですよね。それは、よくもわるくも。
 私の家族も地震で停電しているとき「ろうそくのやわらかい光でごはんを食べるのも悪くない」とか「周りが真っ暗だから北斗七星まで見えた」とか、のんきな連絡をくれました。

 ギリシャ神話「パンドラの壺」でも、絶対に開けてはいけない壺の中には、憎しみや悲しみが詰まっています。壺を開けたとたん、すぐさま人間界に、その悪い感情が広まってしまいました。でも、壺のいちばん底には、美しい希望が残っていた……。

 もちろん災害の渦中には、心配しすぎなくらいのほうが、命の危険を避けられるでしょう。けれどすこし事態が落ち着いたあとは、どんなときもかすかな希望を見いだしていけたらいいな、と思うんです。

1988年3月23日生まれ。北海道出身。上智大学卒業後、2011年にTBSテレビ入社。報道や情報など多岐にわたる番組に出演中。特技は絵を描くことと、子どもと仲良くなること。両親の遺伝子からかビールとファッションをこよなく愛す。みんみん画伯として、イラストレーターとしての活動も行う。
ライター・編集者 1987年の早生まれ。雑誌『走るひと』副編集長など。パーソナルなインタビューが得意。紙やWeb、媒体やクライアントワークを問わず、取材記事やコピーを執筆しています。趣味はバカンス。好きなバンドはBUMP OF CHICKENです。
フォトグラファー。北海道中標津出身。自身の作品を制作しながら映画スチール、雑誌、書籍、ブランドルックブック、オウンドメディア、広告など幅広く活動中。