『1122 いいふうふ』6〜7話

夫婦の形式にとらわれず、心が喜ぶ方へ。2人が見直す“幸せ”のカタチ 『1122 いいふうふ』6~7話

渡辺ペコによる同名漫画が原作のドラマ『1122 いいふうふ』の配信が、Prime Videoでスタートした。主人公は、セックスレスで子どもがいない結婚7年目の仲良し夫婦・相原一子(高畑充希)と二也(岡田将生)。2人は円満な夫婦関係を継続するために不倫を公認する“婚外恋愛許可制”を選択する。第6話、7話では、そんな2人が様々な試練を乗り越えた先に選ぶ幸せのカタチが描かれる。
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自動的に夫婦、親子になるわけではない

我々は「結婚」「結婚相手」というものに様々な役割を求め、詰め込みすぎているのかもしれない。

二也(岡田)が家を出て行き、相原夫婦の間で突然始まった別居婚スタイル。一子(高畑)は、いかに自分の快適な生活や精神衛生が二也によってもたらされ守られていたかに気づく。「気の合うパートナーとの暮らしってそれだけで尊い」とは友達の恵(中田クルミ)から飛び出した、やけに実感のこもった言葉だが、そんな“優良パートナー”との生活にも度々暗雲が立ち込める。

仲良くなる過程で、お互いの譲れないところや大事にしているものを共有し選択していく“相手を知る手間と手順”を経て夫婦になるのに、夫婦になった途端に“信頼”という名の下におざなりになってしまうこともあるのだろう。一度すり合わせた互いの価値観は揺らぐことなく固定され、一切変化しないかのように思えてしまうのかもしれない。あるいは“夫婦”という形にあぐらをかき、相手や自分の中にある違和感に目を瞑(つぶ)りながら、生活を続けてしまうのだろうか。

一子が話していた通り、元々思考が似ている夫婦の場合には居心地の良さは抜群かもしれないが、“俺がお前で、お前が俺”と思えてしまう“おま俺現象”によって、相手に触れたい、近づきたいという本能的な衝動に近い性欲と両立させることは難しくなるのかもしれない。

さらにそこに子どもがいたら、子育てパートナーの側面も互いに担い合うことになる。成長の遅れがみられる息子の子育てに追われる柏木美月(西野七瀬)が妊娠したことで、初めて息子の子育てと向き合うことになった柏木志朗(高良健吾)。子どもに行っている日常ケアについて、あまりに何にも知らない父親の姿にはおののいてしまった。これまではそんな状態でも「これが家族だ」と言い張っていた志朗は、何を根拠にどこを見て、何を指してそう思えていたのか不思議に思える。

夫婦になった瞬間、親になった瞬間、自動的にベルトコンベアに乗せられ一緒に人生を進んでいくわけではない。夫婦、親子になったその後、どちらも“その時々の自分たち”にしっくりくる形を模索し関係性を築いていくその過程をもって、家族になれるのだろう。これは最期の最期までなかなかわかり合えなかった一子とその母親・山根奈々(風吹ジュン)の窮屈そうな母娘関係についても言えることかもしれない。彼女らには“母親なんだから/娘なんだからわかってくれて当然”というような、少し横柄にも思える気持ちが垣間見えていた気もする。

「夫婦」の関係がタスク化する苦しさ

別居婚が解消された相原家では、一緒に暮らしたい意向を互いに確認し合うも、解消しきれないセックスレスの問題について「次に進むために」と妊活に移行していくのもまたリアルだ。

打破できない現状がある際に、ライフステージを変えてみようとするのは一般的な試みだとは思うが、妊活、中でも不妊治療というのは特に夫婦の価値観や見通しの合致が相当に試されるものだろう。不妊治療の前から一子が二也について「夫はたぶん大丈夫」、「私が大丈夫だったら大丈夫」と見切り発車している節も描かれた。

そして治療が難航する中、「子どもができたらうれしいけど、できなくても一子ちゃんと一緒にいられたら幸せ」と言う二也に対して、一子は「夫婦でいるのがキツい」と本音を漏らす。

2人だけでいるイメージが持てなくなってしまった」、「子どもができて親になったら、夫婦の苦しさから逃れて、家族を続けていけるんじゃないか」、「夫婦っていう関係が重荷」という、一子自身でも手に負えないどうしようもない窮屈さ、行き止まり感が溢れ出す。形式による苦しみを、新たな形式に移行することで紛らせようとしても、根本的な問題は何も解決しない。もはや不妊治療も妊娠も、一子の中では“タスク”の側面が強くなりすぎてしまっていたのだろう。

全く形式にとらわれていないように見える2人でも、特に一子は相手のことを大切に想う気持ちに変わりはないのに、それを「夫婦」という関係性に閉じ込めてしまうと途端に苦しくなってしまう。「夫婦」という2文字に付き纏(まと)うイメージや役割、責任感に堪(たま)らず、押し潰されそうになるのだろう。言葉で定義された途端に救われる場面もあれば、途端に居どころが悪くなることもある。

二也が美月に恋い焦がれていた頃、一子は、夫も妻も婚外恋愛するようになったら「私たちが夫婦でいるのは何のため?」と自問するシーンがあった。自身の気持ちに嘘をつけない一子からすれば、夫婦でい続けるためにもまた何かしらの“理由”が必要だったのかもしれない。

息のしやすい形を模索し続け、強い絆へ

しかしながら、離婚後、母親の孤独死に1人対処しようとする一子に、「俺、行くよ。待ってて」と居ても立っても居られず電話越しに声を掛けた二也の自然な姿に、2人の絆は「家族」や「夫婦」という記号的な名称では収まらないことを思い知らされる。そんな固定された名前のある関係でなくとも、相手を思いやれる二也には胸を打たれる。

「今までもこれまでも同じところをグルグル回ってるだけなのかもしれないけど、真剣だったよねお互い。あと諦めなかったよね」とは別居婚を解消する際の一子の言葉だが、そんな2人ならば日々自分たちの関係性を見直し、修復しながら最適解を見つけていけるだろう。はなから希望通りの間取りで建てた家なんてなかなかないように、互いに譲れないポイントをすり合わせて見つけた箱を、どんどん自分たちの希望に近い形にリノベーションしていくように。最初からぴったりフィットする幸せなんてなかなかないけれど、そこに向かってトライアンドエラーを重ねていける、そんな相手を見つけられたことこそがすでに幸運だと言える。

結婚、妊娠、出産、子育て……それら全てがイコール幸せに直結するというわけではない。世間から規定されたわかりやすい枠組み内にのみ閉じず、自分たちの心が喜ぶ方へ。息のしやすい形を諦めずに模索し続けることこそが、形式的な夫婦や家族になること以上に2人の絆を強固なものにしてくれるのかもしれない。そんなメッセージを、最後に登場したクチナシの花束と共に贈ってもらった。

“夫婦の問題”と“私の問題”の線引きは? 『1122 いいふうふ』4〜5話 夫婦生活のリアルとタブー。ごまかしきれなくなった“公認不倫”のほころび 『1122 いいふうふ』1~3話

『1122 いいふうふ』

2024年6月14日(金)からPrime Videoで独占配信
出演:高畑充希、岡田将生、西野七瀬、高良健吾、吉野北人、中田クルミ、宇垣美里、土村芳、成田凌ほか
原作:渡辺ペコ
監督:今泉力哉
脚本:今泉かおり
主題歌:『i-O(修理のうた)』スピッツ
企画・プロデュース:佐藤順子
製作:murmur 制作プロダクション:Lat-Lon

出版社勤務を経て、パラレルキャリアで兼業ライターに。映画・ドラマを中心に様々な媒体でエンタメ関連のコラム・インタビューを執筆中。 ビジネスメディアやフェムテック関連媒体でのインタビュー&執筆実績もあり。
福岡県出身。現在は大阪在住のイラストレーター&クリエイター。"変化を起こすトキメキ"をテーマにPOPなイラストを描いています。WEBサイト、ノベルティーグッズ、イベントロゴ、動画などでイラストを提供中。趣味は映画、ドラマ、アニメ、ミュージカルなど鑑賞に偏りがち。
婚外恋愛を考える