【高尾美穂医師に聞く#11】HPVワクチン、大人の女性への効果は? 子どもへの接種で気をつけることは?
Q. 小学校6年から高校1年相当の女性を対象に再び定期接種になったHPVワクチン。子宮頸がんの予防に効果があるとのことですが、20〜40代の大人が打っても有効でしょうか。また、子どもへの接種で気をつけることはありますか。(telling,編集部)
高尾美穂医師(以下、高尾): 国内のがんの患者数は男女ともに50代半ば頃からぐっと増えます。ですから、がん=若い方にはあまり関係がない、というイメージがあるかもしれません。しかし、子宮頸がんは性交渉によるウイルス感染で発症することがわかっており、20代でも多くの女性がなる病気です。
子宮頸がんを引き起こすウイルスは「ヒトパピローマウイルス(HPV)」といい、このウイルスを防ぐ効果を期待できるのがHPVワクチンです。HPVには150ほどの型があり、性交渉の経験があれば80%程度の女性が生涯で一度は感染するといわれているほど、ありふれたウイルスです。感染しても、多くの場合はウイルスが自然に消えますが、一部ががん化して子宮頸がんに至ります。
──子宮頸がんは予防できる病気ともいえるのですね。
子宮頸がんのような「感染症によるがん」は、がんの原因全体の5%程度で、ほかにはピロリ菌感染による胃がんなどがあります。これらは感染をコントロールすることでがんを発症せずにすむといえるものです。
30〜40代の大人が打ってもいい?
──性交渉を経験したことがある大人でも、ワクチンを接種するメリットはありますか?
高尾: 大前提として、性交渉を持つ前に接種すれば、予防できる可能性は一番高いです。性交経験があるとワクチンの予防効果は下がることがわかっていますが、性交渉をしたことがあっても、まだ感染していないウイルスの型にはHPVワクチンによる予防効果があります。現状では定期接種の対象年齢を過ぎていても、26歳(1997年度生まれ)までは公費接種の対象(キャッチアップ接種)になっています。
30〜40代など大人の場合は、個人の状況によって対応するのが現実的なのでは、というのが正直なところです。例えば、パートナーが変われば、新しいパートナーがまた違う型のHPVを持っているかもしれないと考えると、そのタイミングで接種しておこうという選択もありです。
ウイルスは女性から男性にもうつる
──日本では、2021年に小学6年生から高校1年相当の女性を対象に再び定期接種になったHPVワクチンですが、男児(男性)の接種についてはどのように考えればいいのでしょうか?
高尾: 子宮頸がんの原因となるHPVは、性交渉を持つことで、男性から女性にうつるだけではなく、女性から男性にもうつります。HPVワクチンは「子宮頸がんワクチン」と呼ばれることがありますが、予防できる病気はそれだけではありません。男性における中咽頭がん、陰茎がんや肛門がんなどの予防効果があることがわかっています。なので、男の子にも打ちましょう、という方針が世界的なスタンダードになっています。
このことを踏まえると、HPVワクチンは、男女それぞれが発症し得るがんを予防すると同時に、性交渉によるお互いへのウイルス感染を防ぐことができるわけです。
──HPVワクチンは3種類あると聞きました。その違いについて教えていただきたいです。
高尾: 現在、日本国内で使われているHPVワクチンは、「サーバリックス」「ガーダシル」「シルガード9」の3種類です。
サーバリックスとガーダシルは、子宮頸がん発症のリスクが高いHPV16型と18型の感染を防ぐことができます。ガーダシルは、さらに尖形コンジローマと呼ばれるイボの原因となる二つの型への予防効果を含むワクチンです。この2種類のHPVワクチンは、子宮頸がんの原因の50〜70%を防ぐ効果があります。
シルガード9は、2023年4月から定期接種の対象として公費で受けられるようになったワクチンです。ガーダシルで予防できた4つの型に加えて5種類の型の感染を防ぎます。子宮頸がんの原因の80〜90%を防ぐ効果があり、世界的にメインで使われています。
子どもへの接種。副反応の懸念は?
──子どもへの接種では、副反応が気になるという声も聞きます。
高尾: 副反応が気になる親御さんもいるかと思いますが、医師としては日本産科婦人科学会などの学術的なページを参考にしてほしいというのが願いです。
日本では2013年にHPVワクチンの定期接種が取り入れられましたが、その後、いったん積極的な勧奨は中止になりました。その際の副反応にかんする報道はとてもセンセーショナルだったと思います。しかし、「HPVワクチン接種後に報告された『多様な症状』とワクチンとの因果関係を示す根拠は報告されていない」として、2022年に勧奨が再開されました。世界保健機関(WHO)もHPVワクチンの接種を推奨していて、世界120カ国以上で広く予防接種が行われています。
もちろん、すべてのワクチンには効果とリスクがあります。親だけではなく、接種するご本人も含めて、子宮頸がんやHPVワクチンについて知り、何のためにこのワクチンを打つのか考えてみることはとても大切なことだと思います。
さらに、子宮頸がんは比較的簡単な検査によって、がんになる前の早い段階で見つけることができるという特徴があります。ワクチンで防げないHPV感染もありますから、定期的な子宮頸がん検診を受けることも非常に重要です。
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