高尾美穂医師
高尾美穂“ことばの処方箋 ”

【高尾美穂医師に聞く#10】どうする?子どもへの性教育。何をどう伝えればよいでしょうか。

女性の人生は、体調のリズムやその変化と密接な関係があります。生理、PMS、妊娠、出産、不妊治療、更年期……。そうした女性の心と体に長年寄り添ってきた産婦人科医・高尾美穂さんによる連載コラム。お悩み相談から生き方のヒントまで、明快かつ温かな言葉で語りかけます。今回のテーマは「子どもへの性教育」。いつ頃から、どんな言葉で伝えたらいいのかについて考えます。
【高尾美穂医師に聞く#9】「自分らしさ」がわからないあなたへ。天職を見つけるには 【高尾美穂医師に聞く#1】「出産か、仕事か。私はどちらを選ぶべき?」

Q. 子どもにどのように性教育をすればよいか考えています。男女の体の仕組みについてどこまで教えるか、いつ教えるかというタイミング、気をつけるべきことなど、先生のアドバイスを教えてください。(41歳、女性)

高尾美穂医師(以下、高尾): 性教育を始める時期や内容にルールはありませんが、体の変化が起き始める時期に、家庭でも少しずつ性の話をスタートしていくと、子ども側の受け入れがスムーズ、というのはひとつあると思います。

子どもの体の変化として最もわかりやすいのは、男の子の場合なら精通、女の子の場合は初潮ではないかと思います。多くの子どもが小学校高学年から精通や初潮を迎えますが、この1年以上前から体つきは変化します。例えば、男の子であれば体格がよくなったり背が伸びたり、女の子であれば体が丸みを帯びたり胸が膨らんだりといったことですね。こうした体つきの変化は第二次性徴のサイン。その後は身長や体重、運動能力に男女差がでてきます。

Larisa Rudenko/iStock /Getty Images Plus
Larisa Rudenko/iStock /Getty Images Plus

ちょっとした体つきの変化に気付くことができるのは、家庭ならでは。この頃からいろんな機会を見つけて少しずつ話すことを繰り返していけるといいのではないかと思います。学校と比べて家庭における性教育のメリットは、話し始めても途中でやめることができたり、子どもがどの程度まで知識を持っているか、リアクションを確認しながら話を進められたりできることだと思います。今日は子どもがあまり乗り気ではなさそうだなと思ったら、途中で切り上げてもいいわけです。

性教育は、何から始めればいい?

──具体的にどんな事柄から伝えていくのがいいのでしょうか。

高尾: 子どもに何を伝えるかについては、まずは「プライベートゾーンの理解」から始めるのがいいのではないでしょうか。プールの水着で隠されているところはプライベートゾーンであって、他人に触らせてはいけない場所である、ということですね。また、水着で隠れていなくても触られて嫌だと思う場所は、自分にとってのプライベートゾーンであることも一緒に伝えるといいのではないかと思います。

その次に、自分と同じように他者にもプライベートゾーンがあるということ。「自分の体は自分のもの、相手の体は相手のもの」であることを知ってもらい、男の子でも女の子でも「自分の体は自分で守る」ということを伝えることも大切です。男の子の場合は、徐々に筋肉量が増えるため、特に女の子が相手だと力に差が出てくることも添えるとよいでしょう。

この時期の体の変化については、女の子なら「お母さんみたいな体になっていく」と説明するとわかりやすいと思います。そして、それは「母親になる(=子どもを持つ)」ための準備でもあると伝えてみるのはいかがでしょうか。家庭の中の役割分担として、特に体の仕組みの変化については、可能であれば似た経験をしてきたお父さんから息子に話す方が、よりスムーズだとは思います。母親と息子、父親と娘などの組み合わせによってわからないところがある場合などは、性教育の講座などに一緒に参加するという方法もあるでしょう。

Chris Ryan/OJO Images

Chris Ryan/OJO Images/Getty Images

性交渉や避妊の伝え方

──もっと段階が進んで、性交渉や避妊などの話になると、家庭では伝え方が難しいという声も……。

高尾: サイエンスとしてとらえれば、体の仕組みって本当にうまくできているわけです。まずは親自身が、性教育を恥ずかしいものであるとか、いかがわしいことだという気持ちを持たず、そんな雰囲気を醸し出さないことは大きなポイントだと思います。

子どもが生まれるには男性と女性が必要で、男性の精子と女性の卵子が出会うことで妊娠が成立する。精子と卵子がどこにあるかを考えると、卵子は女性のお腹の中、精子は男性の体から外に出ていけるものであること。卵子は体の外に出ていけないので、精子を卵子まで運んでいかないと妊娠は成立しないこと。

男性と女性の体はパズルのように組み合わさるようにできていて、男性の体から女性の体の中に運ぶことができる。この組み合わせるための行動が性交渉であり、妊娠を成立させるための行為であること。

高尾美穂医師

そうすると、性交渉を持つことは妊娠する可能性があることを知っておかなくてはいけない、と伝えられると思うんですね。ここで、もし、お父さんになったらどのようなことが起きるのかを説明するのもよいと思います。まだお父さんになる準備ができていないと思うのであれば、性交渉自体を持たないという選択肢があること。そして、避妊法があることも伝えられるかと思います。こうした話を、子どもの興味や成長に合わせて、していけるといいですよね。

家庭における性教育に正解はありません。きょうだいがいるかなど家族構成によっても子どもの知識や感じ方は違いますし、今の子どもたちはインターネットでいろいろな情報も得ていきますよね。親が何も教えなくても、子どもたちは自分で知識を身に付けていくわけですが、子どもの将来を思うと、親がしっかり伝えておかねばという思いもあるのだと思います。子どもとコミュニケーションをもちながら、親自身も試行錯誤して一緒に学ぶ機会にしていくのがよいのではないでしょうか。

【高尾美穂医師に聞く#9】「自分らしさ」がわからないあなたへ。天職を見つけるには 【高尾美穂医師に聞く#1】「出産か、仕事か。私はどちらを選ぶべき?」

『娘と話す、からだ、こころ、性のこと』

著者:高尾美穂
発行:朝日新聞出版
価格:1,760円(税込)
高尾美穂さん初の「性教育本」。母と娘が性のことや心身の悩みについて話ができるように、知識から話し方までフルサポート。女性が人生の中で経験する心身の揺らぎについて俯瞰して知ることができるので、母に限らず、パートナーや娘、職場の同僚への理解のために、男性にも手に取ってほしい一冊です。

医学博士・産婦人科専門医。日本スポーツ協会公認スポーツドクター。イーク表参道副院長。ヨガ指導者。医師としてライフステージ・ライフスタイルに合った治療法を提示し、女性の選択をサポート。テレビ出演やWEBマガジンでの連載、SNSでの発信の他、stand.fmで毎日配信している番組『高尾美穂からのリアルボイス』では、体と心にまつわるリスナーの多様な悩みに回答し、910万回再生を超える人気番組に。著書に『大丈夫だよ 女性ホルモンと人生のお話111』(講談社)など。
編集・ライター。ウェルネス&ビューティー、ライフスタイル、キャリア系などの複数媒体で副編集長職をつとめて独立。ウェブ編集者歴は12年以上。パーソナルカラー診断と顔診断を東京でおこなうイメージコンサルタントでもある。
カメラマン。1981年新潟生まれ。大学で社会学を学んだのち、写真の道へ。出版社の写真部勤務を経て2009年からフリーランス活動開始。