漫画家・おかざき真里さんが、青年誌で描く不妊治療の物語『胚培養士ミズイロ』 

日本では14人に1人が体外受精で生まれている──。治療件数が世界最多といわれる日本の不妊治療の現場で、自らの手で精子と卵子を受精させるのが「胚培養士」という専門職です。テーマは不妊治療、主人公は胚培養士。青年誌での連載では異色ともいえる漫画『胚培養士ミズイロ』(小学館)を連載中の漫画家・おかざき真里さんに、作品に込める思いについてうかがいました。
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青年誌で不妊治療を描くということ

──まず、胚培養士を主人公にした漫画を描こうと思ったきっかけについて聞かせてください。

おかざき真里さん(以下、おかざき): 担当編集者から、「胚培養士をテーマにした漫画を描くのはどうか」と提案をもらったのが始まりでした。そんな職業があるのかと驚きましたね。最初に胚培養士という言葉を聞いた瞬間にピンと来るものがあり、もう作品にすることは決めていました。

自分でも調べてみたところ、培養室を子宮の中と同じ状態にしないと卵にストレスがかかるため、少し前まで室内は36度以上に設定する必要があったとか、紫外線に弱いことからかなり暗い環境で仕事をしている、といったことがわかり、過酷な上に神経を使う仕事だというのが最初の印象です。

『胚培養士ミズイロ』©おかざき真里/小学館

「お母さんの漫画で初めておもしろいと思った」

──今回、男性読者の多い青年誌で連載をされています。このことについてどう感じていますか

おかざき: 経産婦は、不妊治療が意外と身近にあることを知っているじゃないですか。子どもを産んでいない女性も、友人や知人から話を聞くことがあると思います。でも、男性はまだまだわかっていないのが現状だと。一方で、不妊の原因の半数は男性側にもあるという現実もある。不妊治療について知らない人が多いであろう青年誌に描くのは、知ってもらうという意味で一番よかったのではないかと思います。

私みたいに専門的なことを知らない漫画家が不妊治療について描くメリットは、自分が感じた驚きをそのまま伝えられること。「これは知らなかった!」とびっくりしたことを全部素直に、絵にして文字にして届けられると思うんです。

『胚培養士ミズイロ』©おかざき真里/小学館

青年誌は読者からの反応がほとんどない媒体といわれていますが、男性から長文のファンレターをもらったことがあります。他にもアンケートで、「物語がすごく読みやすい」「妊娠や不妊を自分ごとにする必要があるとわかった」と書いていただいて、ありがたいですね。

あとは18歳の息子が、「お母さんの漫画で初めておもしろいと思った」と言ってくれたんですよ。息子の友達もおもしろいと言っているらしく、その年頃の男性が興味を持ってくれたことは明るい兆しだと感じています。

『胚培養士ミズイロ』©おかざき真里/小学館

──タイトルである『胚培養士ミズイロ』には、どのような想いが込められていますか。

おかざき: これはですね、ものすごくゲスなことを言うと、色にまつわる言葉をタイトルに入れると売れるといわれているんです(笑)。しかも最近は、ブルーに関するタイトルが多い。ブルーが使えないなら水色で……という気持ちは、なきにしもあらずです(笑)。

真面目に答えると、最先端医療における培養室の中でのストーリーなので、命の源である「海」やみんなを大きく包む「空」など、少しでも自然を感じるイメージにしたかったんですね。主人公の胚培養士の名前が水沢で、別の胚培養士を一色にしたのも、ふたりの名前を合わせると水色になることから名付けました。

『胚培養士ミズイロ』©おかざき真里/小学館

なぜ子どもが欲しいのか、を突き詰めると

──作品では、卵子凍結・男性不妊・パートナーシップのあり方など、さまざまなトピックスに触れています。不妊をテーマに描く難しさがあると想像しますが、これから描きたいことや、逆に描かないと決めていることはありますか。

おかざき: 作品を描くにあたって、不妊治療を経験した方たちにたくさん取材をしました。夫婦別々で時間をつくっていただいて、経験談をはじめ、一番悲しかったことやうれしかったことについて聞いたんですね。聞いたエピソードをそのまま漫画にすることは基本的にないのですが、描いているときに取材をした方たちの顔が浮かびます。

不妊治療っていくらでもスキャンダラスに描けてしまうと思うんです。そして、漫画はスキャンダラスであることと売れることが比例する世界でもあります。でも、その一線は越えずにいたい。取材をした方たちや医療監修をしてくださっている先生に対して恥ずかしくない、悲しませないドラマを描きたいと思っています。

『胚培養士ミズイロ』©おかざき真里/小学館

私の中では「ドラマティック=感情が動くこと」なんです。弱小チームがのし上がったり、不利な状況を覆していく“筋書き”がドラマティックなわけではなく、何かが叶わなくて本当に悲しい気持ちや、大変なこともあったけど成功してうれしいと思う、その心の機微こそがドラマだと。子どもが欲しいという絶対的なゴールがある中で不妊治療に取り組む方たちの、感情を丁寧に描くことを大切にしたいですね。

この作品は、「幸せってなんだろう」というテーマに繋がっていくのではないかと思っています。なぜ子どもが欲しいのか、を突き詰めると、幸せになりたいからじゃないかなと感じましたし、親が子どもに願うことも究極的には「幸せでいてほしい」ですよね。そう考えると、目指しているゴールは、もしかしたら子どもを持つことそのものではなく「幸せ」なんじゃないかと。ゆくゆくは、そんなあり方を描けたらと考えています。

『胚培養士ミズイロ』©おかざき真里/小学館

(トップ画像:©おかざき真里/小学館)

おかざき真里さん、親の反対が起爆剤になった漫画家への道。好きを見つけるヒントとは

●おかざき真里(おかざき・まり)さんのプロフィール

漫画家。高校在学中からイラストや漫画を描き始め、多摩美術大学卒業後は広告代理店に入社。デザイナーやCMプランナーとして働きながら、1994年に漫画家としてデビューする。以来、『サプリ』『阿・吽』『渋谷区円山町』など数多くの作品を発表し、幅広い世代の女性から支持を受けている。3人の子の母親でもある。

■『胚培養士ミズイロ』

著者:おかざき真里
出版社:小学館
定価:770円(税込)
©おかざき真里/小学館

編集・ライター。ウェルネス&ビューティー、ライフスタイル、キャリア系などの複数媒体で副編集長職をつとめて独立。ウェブ編集者歴は12年以上。パーソナルカラー診断と顔診断を東京でおこなうイメージコンサルタントでもある。
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