おかざき真里さん、親の反対が起爆剤になった漫画家への道。好きを見つけるヒントとは

不妊治療を描く最新作『胚培養士ミズイロ』を青年誌で連載中の漫画家・おかざき真里さん。これまでに、広告代理店を舞台にした漫画『サプリ』など数多くの作品を生み出してきました。自身も美大を卒業後、大手広告代理店に勤務。働きながら漫画家デビューをしたおかざきさんに、キャリアの重ね方や子育て、人生との向き合い方について聞きました。
漫画家・おかざき真里さんが、青年誌で描く不妊治療の物語『胚培養士ミズイロ』 

広告代理店勤務と漫画家の二足のわらじ

──美大を卒業後、広告代理店に入社し、在職中に漫画家としてデビューされています。そこまでの道のりについて、うかがえますか。

おかざき真里さん(以下、おかざき): 高校生の頃から漫画を描き始めて、いろんなところで開催されていたイラストコンテストに応募していました。今となってはびっくりしますが、当時はバブルだったのでイラスト1個で賞金100万円がもらえるような時代だったんです。学生ながらお金を稼いでいました。

高校を卒業したら、その貯金を使って勝手に東京に出てきて美大に入りました。コンテストに応募して、入賞したら漫画の仕事をいただいて、それをきっかけにしてありがたいことにいろんなところから声をかけてもらいましたね。

でも、就職せず、漫画家として独立してやっていくことは考えていませんでした。私、さみしがり屋なんですよ。まわりに人がいないとダメなので、絶対会社に入ったほうがいいと思って。

美大で就職先を探すときも、最初に受けるのは広告代理店、次に大手企業の宣伝部、そしてデザイン事務所と、なんとなく就活のセオリーがあったんです。なので、そのとおりに受けた一番最初の会社が、のちに入社することになる博報堂でした。一次試験は本当にダメだったけど、当時描いた漫画を持っていったらおもしろいやつだと思われたみたいで、二次試験にすべり込み。

二次試験は、キーワードをひとつ出されて、1週間かけてスケッチブックにイラストを500〜600案描いて提出するものでした。イラストを描くのが好きだったこともあり、1位で試験を通過して内定し、そのまま入社しました。

『サプリ』©おかざき真里/祥伝社フィールコミックス

デザイナーとして入社したのですが、ある日上司から「お前はデザインが下手だし、発想力で入社したんだからCMプランナーをやれ」って言われて。そんなに下手だったんだと思いながら転向したときに、「漫画は辞めるな」とも言われたんですね。その言葉のとおり、CMプランナーをやりながら漫画を描き続けていたらデビューをして、現在に至っています。

──今でいう複業を実現され、結婚を機に会社を退職しています。人生のターニングポイントはいつだったと思いますか。

おかざき: 会社を辞めたときでしょうか。それまでは流されるままに漫画も会社も、ってやっていたんですよ。でも、結婚をして子どもが欲しいと思ったときに、漫画・会社・子育ての3つはさすがに両立できないと思いました。

だから、人生で初めてモノを考えて決断したのが退職だったんです。そういう意味でターニングポイントですね。

「子どもは大好きだけど、子育ては大嫌い(笑)」

──漫画家という好きで始めた仕事と、プランナーという与えられた仕事の2軸でキャリアを重ねていますね。

おかざき: 私はやりたいことしかやりたくないタイプなんです。でも、CMって関わる人が多いし、やりたいアイデアを出しても予算やタレントさんの関係などいろいろな条件でできないケースがとても多いんですね。

会社と漫画と育児を並べたときに、自分のやりたいことを最後まで貫くために手放したのが会社でした。だから、私に関していえば、もうずっとやりたいことしかやっていません。

でも、それを打ち砕くのが子育てだったんですよ。私のやりたいことなんて、子どもは全然聞いちゃくれない。ごはんは今もつくりたくないし、掃除も嫌いです。子どもは大好きだけど、子育ては大嫌い(笑)。好きな人たちが喜んでくれるからしょうがない、やる、といった具合でなんとかこなしています。

母になって、私は絶対仕事をしていたほうがいいと思いましたね。漫画家ってすごくコントロールフリークなところがあるんですよ。だって、漫画の中では季節も着ている洋服も、背景にある木の高さまで自分で決められますから。

私自身が親のコントロールが嫌で勝手に上京して逃げた人間なので、自分の子どもをコントロールしないためにも漫画を描いていこうと。仕事があってよかったと思っています。

『サプリ』©おかざき真里/祥伝社フィールコミックス

まだ踏み出せないなら進まなくていい

──telling,の読者からは「やりたいことはあるけど、一歩踏み出せない」「好きなことが見つからない」という声を聞きます。やりたいことをやってきたおかざきさんから、何かアドバイスはありますか。

おかざき: 私は、絵や漫画を描くと熱を出すから辞めなさいと、親からずっと反対されていました。親とはソリが合わなかったので、その反対が起爆剤になって「これで一生食べてやる!」「いつか家を出てやる」と思って、自分に唯一あるものでお金を稼ぐ方法を考えながら大きくなったんです。

あまりに生きづらかったから踏み出すしかない人生だったけど、まだ踏み出せないと思うなら進まなくていいんですよ。それは本当にやりたいことじゃないかもしれないし。

私ね、会社員時代に「好きなことがないけどご機嫌な人」が最強だなと思っていたの。世の中はやりたいことをどうのこうのと言うけど、毎日生活をしているご機嫌な人が一番徳が高いんですよ。だから、焦ることはないと思います。

『サプリ』©おかざき真里/祥伝社フィールコミックス

でも、それだと達成感がないのかな。そういうときは、どうぞ漫画を読んでいただけたら。自分にとってちょっと背伸びだと思う漫画や、難しい小説を読むとか、ゲームをクリアするとか、意識的に達成感を感じられるものをやってみるといいのかもしれませんね。

あとは、一番時間を注いでいることで稼ぐ方法を考える、というのもひとつの手だと思います。1日24時間を円グラフにして、一番多く占めている部分が何かを考えるんです。普段からたくさんの時間を費やしていることで食べていけると効率がいいじゃないですか。もしそれが睡眠だったら、寝ている自分でお金を稼ぐ方法はないかなとかね。何で生きていけるかって、わからないものだと思いますよ。

(トップ画像:©おかざき真里/祥伝社フィールコミックス)

漫画家・おかざき真里さんが、青年誌で描く不妊治療の物語『胚培養士ミズイロ』 

●おかざき真里(おかざき・まり)さんのプロフィール

漫画家。高校在学中からイラストや漫画を描き始め、多摩美術大学卒業後は広告代理店に入社。デザイナーやCMプランナーとして働きながら、1994年に漫画家としてデビューする。以来、『サプリ』『阿・吽』『渋谷区円山町』など数多くの作品を発表し、幅広い世代の女性から支持を受けている。3人の子の母親でもある。

■『胚培養士ミズイロ』

著者:おかざき真里
出版社:小学館
定価:770円(税込)
©おかざき真里/小学館

編集・ライター。ヘルスケア、ライフスタイル、キャリア系媒体などを経て、ウェブ編集者歴は10数年。現在は、ビューティや女性の健康にまつわるテーマを中心に取材・執筆。「心も体もすこやかに」をモットーに、日々アンテナを張っています。