爆速レシピクリエイターおよねさん、縛られていた「正しいワーママ像」からの脱却

仕事と子育ての両立の難しさ、一時期的なキャリアダウン、そして夫が無職に……。2児の母でもある「爆速レシピクリエイター」およねさんは、30代で大きな転換期を迎えました。会社員からクリエイターに転身し、2023年1月『禁断の爆速ごはん ここまでやっちゃう100レシピ』(主婦の友社)を出版したおよねさんは、どのように「最悪の時」を乗り越えたのでしょうか。話を聞きました。
"爆速レシピ"クリエイターおよねさん「これでいい」を届けたい 夫の無職きっかけに動画発信

“凝り固まった価値観”に縛られていた

――会社員時代、1人目のお子さんを出産後に、仕事と育児の両立が可能なポジションへ転職されました。迷いはありませんでしたか?

およねさん(以下、およね): 大学卒業後に就職したベンチャー企業は、1人あたりの仕事量が多く、総合職で育休から復帰して働くという人が当時はほかにいないような状況でした。その上、夫が多忙なためワンオペ状態でした。復職後、早々に立ち行かなくなったため、転職自体に迷いはありませんでした。ただ、転職先には採用アシスタントとして入社したので、ポジションも収入も下がった自分を受け入れるのが難しかったです。主な仕事内容は面接の日程調整だったので、自ら考えて動くことが好きな自分にとっては、物足りなさも感じました。「育児が大変な今はこういう仕事が適している」と思い込もうとする一方、「40歳までこの仕事を続けるの?」と自問自答を繰り返し、モヤモヤした日々を過ごしていました。

そして、2人目を出産し、ペースをつかめてきたのでキャリアをあげていきたいと思ったのですが、新型コロナウイルスの流行もあり、当時の会社でのキャリアアップは見込めなくなり、退職を決断しました。業務委託で、家でできる仕事を始めた矢先、夫が無職に。

「2人ともこんなに頑張っているのに、なぜ不幸な気持ちになっているのか?」と、夫婦で何度も話し合いました。そこで気づいたのは、2人とも“凝り固まった価値観”に縛られていることでした。

――“凝り固まった価値観”とは、どのような価値観だったのでしょうか

およね: 私は、「仕事と家事と育児をちゃんと両立しなきゃいけない」、「子どもがいても、キャリアを捨てないのが今の女性の生き方として正しい」と考えていました。夫は、「仕事で成果を出し、評価され、収入を上げることが自分のアイディンティティ」と思い込んでいました。私は夫との会話を通し、夫はカウンセリングなど外部の力を借りながら、お互い歪んだ価値観を紐解いていきました。その結果、夫は3カ月ほどで復職することができました。

この一件を経て、自分が大切にしたいものを大切にして生きた方が、幸福度は高くなると思うようになりました。それは私にとって、料理や、「お母さんでもいたい」という気持ちなのだと気づきました。例えば、子どもが病気になったら、病児保育に預けて仕事をするのではなく、そばにいてあげたい。その人の価値基準に沿って、無理なく動くことが大切だという考え方に変化しました。

自分の好きなことまで、手放さない

――「自分の価値基準」を知ったきっかけはどこにあるのでしょうか?

およね: 会社員時代に仕事と家庭を両立する余裕がなかった時、「家事をどう簡略化し、どう手放すか?」という思考になりがちでした。そして、レシピとその食材がセットになった「ミールキット」のサービスを利用したのですが、強烈な違和感を覚えたことがありました。料理が苦手な人には最高のサービスだと思いますが、私はレシピを考えるのも料理をするのも好きなのに、なぜ、紙に書いてある決まったレシピ通りに、機械的にフライパンで食材を炒めないといけないのかと思ったんです。その経験を通し、自分にとって好きなことまでを手放さないことが大切だと気づきました。

――今の時点で、仕事と家事、育児の両立をどう工夫していますか。

およね: 力を抜くところは、思い切って抜いています。「できないものはできない」と、開き直ることで楽になることもあると思います。私は整理整頓・掃除が大嫌いなんですが、そこはたまたま夫が得意。その人にとって“得手不得手”はあるはずなので、「母親になったから家事ができるようにならないといけない」わけではないと思います。その一方で、自分の好きなものはちゃんと理解し、把握しておくことも大事だと思います。

――音声メディア「Voicy」のパーソナリティとしても活動する中で、大変だった時期の振り返りをされていますね。

およね: 36年間生きてきて、悩んでいた時期を回想しながら話しています。夫が無職になったことが人生最大のどん底だったのですが、「『あの“最悪の経験”があるから今がある』と思える未来にしなくちゃ」と、強く思ったことを覚えています。今までの負の部分をどうプラスに変えていったか。その思考のプロセスを、Voicyでの発信を通して思い返すことによって、これまでの経験はすべて無駄ではなかったと思えることができています。

“違和感”を掘り下げてみる

――今後のビジョンを教えてください

およね: 先のことはわからないので、今できることを一つずつやっていこうと思っています。あとは、自分の好きなものや価値観は大事にしていきたいですね。

――30代は、仕事や結婚、出産など様々な場面で選択を求められることが多い年代ですが、同世代の読者に伝えたいことはありますか

およね: 自分が置かれている状況に満足できなかったり、モヤモヤしたりするのは、何者にもなれていないという中途半端さや、無力さを感じているからではないでしょうか。でも、間違いなく、皆さんはすでに頑張っているので、自分の頑張りを認めてあげてほしいです。その上で、もし今置かれている状況に“違和感”があるのなら、その違和感は何なのか、それは今すぐ解決できそうかを考えてみるのも一つの方法です。今すぐの解決が無理だったら、その違和感を覚えておいたり、解決したいと思えたら掘り下げてみたりすると、その先に答えがあるかもしれません。

"爆速レシピ"クリエイターおよねさん「これでいい」を届けたい 夫の無職きっかけに動画発信

およねさんのプロフィール

爆速レシピクリエイター。「自炊ハードルを地の果てまで下げにいく」をモットーに、レシピ開発とその発信をしている。大学卒業後、2社での勤務を経て独立。2023年1月、『禁断の爆速ごはん ここまでやっちゃう100レシピ』(主婦の友社)を出版。2児の母。

『禁断の爆速ごはん ここまでやっちゃう100レシピ』

著者:およね
出版社:主婦の友社
定価:1,595円(税込)

同志社大学文学部英文学科卒業。自動車メーカで生産管理、アパレルメーカーで店舗マネジメントを経験後、2015年にライターに転身。現在、週刊誌やウェブメディアなどで取材・執筆中。
写真家。1982年東京生まれ。東京造形大学卒業後、新聞社などでのアシスタントを経て2009年よりフリーランス。 コマーシャルフォトグラファーとしての仕事のかたわら、都市を主題とした写真作品の制作を続けている。