"爆速レシピ"クリエイターおよねさん「これでいい」を届けたい 夫の無職きっかけに動画発信

「悲しみのコロッケ」に「執念のエビフライ」――。人気の歌に乗せてエンタテイメント風に料理レシピを紹介する「爆速レシピクリエイター」およねさん。料理動画の発信を始めてからわずか1年半足らずで、インスタグラムのフォロワー数は16.7万人、今年1月にはレシピ本を出版しました。発信を始めたきっかけは夫が無職になったこと。過去には否定的なコメントに傷つくこともあった中、料理動画を発信し続けてきたことで、ある「気づき」があったといいます。レシピ開発やSNS投稿の裏話を、およねさんに聞きました。
爆速レシピクリエイターおよねさん、縛られていた「正しいワーママ像」からの脱却

1分以内の料理動画に散りばめられている“工夫”。それらは、下ごしらえから加熱までをフライパンの上でして調理器具を減らす、ラップやクッキングシートを用いて洗い物を減らす、などの料理をラクにする技です。8歳と5歳の子どもの子育てや家事と仕事を両立するおよねさんは、『禁断の爆速ごはん ここまでやっちゃう100レシピ』(主婦の友社)を出版しました。

曲に合わせてレシピを考える

――2021年末からインスタグラムに料理動画を投稿し始め、これまで約100個のレシピをアップされています。どのようにしてレシピを開発しているのでしょうか。

およねさん(以下、およね): 2パターンあります。一つはスーパーに行き、旬な食材を使ったレシピを考えること、もう一つは「曲」を決めてから、その曲に合わせて料理を考えること。私は動画を投稿する際、BGM的に音楽を入れて編集します。インスタグラムの中に使用可能な音源があるので、リズムや歌詞から「これだ」と思う曲が見つかるまで延々と聴き、その曲に合うレシピを考えています。何百曲と聴くので、「こういうレシピで使えそう」という音楽は逐一メモをして、ストックとして持っています。曲さえ決まってしまえば、撮影と編集を含めて4時間ほどで作成します。今は週1度のペースであげることを目標にしています。

――改めて、料理が好きになったきっかけを教えてください。

およね: 祖母が料理上手で、おせち料理を一から丁寧に作るような人でした。両親は共働きだったので、平日は学校帰りに二つ上の姉と祖母の家に行き、夕飯を食べてから帰宅するのが日課だったんです。当時、私が魚派で姉が肉派だったので、祖母はそれぞれに料理を作り分けてくれました。そんな祖母の姿を見て、料理に興味を持ち始めました。小学生の頃から、さやいんげんの筋の取り方から、魚の三枚おろしの仕方に至るまで、一つずつ祖母に教えてもらいました。その時に教わったことは、現在のベースとなっています。ただ、時代も変わって、いざ自分が子育てしながら働く身になると、とてもじゃないけど面倒くさいところもある。レシピを考える時は祖母から教わったことを思い返しながら、押さえておくべきところは押さえつつ省けるものの見極めをしてます。

まな板と包丁を手放してみると

――料理初心者におすすめの調理道具と調味料はありますか?

およね: 調理道具は「キッチンバサミ」ですね。固い食材でなければ、基本何でも切れるので、大活躍しています。シーンによっては思い切ってまな板と包丁を手放すと、洗い物が減りますよ。調味料に関しては、「オイスターソース」と「焼肉のタレ」です。この二つさえあれば、何とかなります(笑)。

――小学生の娘さんも料理を手伝うこともあるのでしょうか。

およね: よく「やりたい!」と言います。ハンバーグをこねたり、ぎょうざの餡(あん)をしぼり出したりする作業をいっしょにしたりするのですが、それが親子のコミュニケーションの時間にもなっています。娘は、最近SNSで人気のライスペーパーに興味を持ち、この前は生春巻き風に野菜をいっしょに巻きました。自分で作ったものは愛着がわくようで、野菜も完食。「ママは料理が好きで、得意」ということは理解しているみたいです。

否定コメントに耐えかねて動画削除

――料理動画の発信を始めたきっかけは、何だったのでしょうか?

およね: 実は2年前、それまで働きづめだった夫が働けなくなり、無職になったんです。これがきっかけとなりました。それまでの私は、周囲の動きに流されて自分の人生の選択をしてきたんですよね。大学に進むとか就職活動をするとか、周りがするから自分もする、といった感じで自分がどう生きていきたいかはすっかり抜け落ちていました。それで何とかなってきた。でも、夫が無職になってみて、さすがに何かを変えないといけないという危機感を覚え、夫婦で自分たちの人生についてよく話し合いました。

夫はその後、ご縁があった会社でもう一度働き始めたわけですが、本当に好きなものを見つめ直した時に、「仕事とは別に大好きな服の発信をしてみたい。インスタをやってみる」と言い出したんです。それなら私は料理が好きだから、料理の発信をしてみようと思って始めたのが、2021年の12月でした。

――投稿を始めてから今まで、何か変化はありますか?

およね: 最初は、普段作っているレシピを元に料理を作り、写真を撮ってSNSにあげるだけでした。そこから、撮り方や見せ方、そして動画撮影方法などについてトライアンドエラーを繰り返していった結果、今に至ります。最も変化した点は、「何を感じて欲しいか」の意識を持つようになったこと。料理の見栄えから、作る工程のわかりやすさまで、クオリティは断然上がったと感じています。

――SNSでは、否定的なコメントがついたことはありましたか?

およね: スタート時は、たくさんありました。「こんなの子どもに食べさせたらかわいそう」と言われて傷ついたり、攻撃的なコメントに耐えかねて動画を削除したりすることもありました。でも、「一旦このコメントを消さずに待ってみよう」と試してみると、好意的なコメントが増えていくことがわかりました。ネガティブな言葉は直球で胸に刺さりますが、それ以上に支持してくれる人の存在に気づくことができました。今では、否定的なコメントに対して「これがおよねさんだよ」と言い返してくれるフォロワーさんもいます。もし、あの時に発信をあきらめていたら、投稿を見てくれている人と信頼関係を築くことはできなかったかもしれません。今では、否定的なコメント自体に傷つかなくなりました。

料理をわずらわしく感じたことも

――支持をされている理由はどこにあるとご自身では考えていますか?

およね: 動画作りを始めた時から意識していたことは、「誰に届けたいか」ということ。私は大学卒業後、会社員として働きました。仕事と家庭との両立が難しく、毎日バタバタで……。本当は好きなはずの料理を「わずらわしい」と感じてしまったことも。なので、私と同世代の30代くらいで、毎日を忙しく過ごしている方に向けて「これでいいんだ」と思えるレシピを届けたいと思っています。その思いが伝わって、支持をいただけているのかもしれません。

爆速レシピクリエイターおよねさん、縛られていた「正しいワーママ像」からの脱却

およねさんのプロフィール

爆速レシピクリエイター。「自炊ハードルを地の果てまで下げにいく」をモットーに、レシピ開発とその発信をしている。大学卒業後、2社での勤務を経て独立。2023年1月、『禁断の爆速ごはん ここまでやっちゃう100レシピ』(主婦の友社)を出版。2児の母。

『禁断の爆速ごはん ここまでやっちゃう100レシピ』

著者:およね
出版社:主婦の友社
定価:1,595円(税込)

同志社大学文学部英文学科卒業。自動車メーカで生産管理、アパレルメーカーで店舗マネジメントを経験後、2015年にライターに転身。現在、週刊誌やウェブメディアなどで取材・執筆中。
写真家。1982年東京生まれ。東京造形大学卒業後、新聞社などでのアシスタントを経て2009年よりフリーランス。 コマーシャルフォトグラファーとしての仕事のかたわら、都市を主題とした写真作品の制作を続けている。