高尾美穂“ことばの処方箋 ”

【高尾美穂医師に聞く#6】産後太りが元に戻らない。尿漏れもあり憂鬱……。対処法は?

女性の人生は、体調のリズムやその変化と密接な関係があります。生理、PMS、妊娠、出産、不妊治療、更年期……。そうした女性の心と体に長年寄り添ってきた産婦人科医・高尾美穂さんによる連載コラム。お悩み相談から生き方のヒントまで、明快かつ温かな言葉で語りかけます。今回のテーマは「産後太りによる気持ちの落ち込みと尿漏れ」。体の変化に気持ちが追いつかなくなる状況は、産後、多くの女性が経験しています。
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Q. 出産後、10kg増えた体重がなかなか元に戻らず、落ち込んでいます。体形もすっかり変わってしまいました。ヨガインストラクターでもある高尾先生は、産後女性のダイエットにどのような方法をおすすめしますか。また、尿漏れにも悩んでおり、こちらの解決策も聞きたいです。(35歳、会社員)

高尾美穂医師(以下、高尾): 妊娠中に太って、産まれたら自然に戻っていくだろうと思っていたけど体重が戻らない──。これは多くの方が経験します。

おなかの中から赤ちゃんが出たら減ると思われるかもしれませんが、赤ちゃんの体重で約3kg、胎盤が約500gで羊水も約500gと計算すると、産後すぐに減っていくのは4kgほど。

しかし、出産によって出血すると体内を循環している血液量が減るので、体はとにかくあらゆるものを手放さないようにと働きます。そうすると、とても浮腫(むく)むんですね。体としては、摂った水分でさえ簡単には手放せないような状況なので、体重も落ちていきません。この状態はしばらく続きます。

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産後に気分の落ち込みがあるのは当然のこと

──産後、見た目の変化に気持ちが落ち込む女性は少なくないと聞きます。自分との向き合い方や考え方についてアドバイスはありますか?

高尾: 体重という数字にとらわれてしまうよりも、産後4〜5か月くらいまではご自身の体と心の具合が少しずつ戻ってきているか、ということに目を向けて欲しいと思っています。

なぜなら、妊娠中は女性ホルモンが人生で一番多く出ている時期ですが、この女性ホルモンをつくっているのは胎盤なんですね。胎盤は出産と同時に体の外に出てしまうので、産後しばらくは女性ホルモンが体内でつくれず、だから生理が来ない期間があるわけです。

女性ホルモンのエストロゲンとプロゲステロンには、抗うつ作用と抗不安作用があるので、この2つがほとんどない産後半年くらいの間は、非常にメンタルに不調をきたしやすいと言えます。

さらに、産後半年くらいまでは赤ちゃんが3~4時間ごとに起きることが多く、お世話をしなきゃならない。通常、成人はまとまって7時間以上の睡眠を取らないと、うつになりやすいことが報告されていて、ダブルの要因があるので本当に気をつけたい時期なんです。これが産後うつ病を引き起こす大きな理由と考えられています。

この状況がずっと続くわけではないのは確かですが、心や体が大変な状況下にあるときに、体重を戻すことや産後のトレーニングについて、まだ一生懸命にならなくていいのではないかというのが医師としての見解です。

GettyImages(1枚目も)

そして、妊娠中に増えた体重を戻すには、最低でも体重が増えた期間=妊娠期間と同じくらいはかかると考えたらどうでしょうか。とりあえず、産後一年くらいはダイエットは脇に置いて、夜眠れているか、メンタルをまあまあ維持できているか、まわりに子育てのサポートをしてもらえているかなどに目を向けて欲しいと思っています。

また、子どもが成長して活動的になってくれば、自然と母親の活動量も増えるでしょうし、それにともなって筋肉が戻っていき代謝が上がることも考えられます。

ダイエットは産後一年を過ぎたらで大丈夫

──体重にとらわれず、まずは心身の健康チェックが何よりも大切ということですね。ダイエットは長期で考える必要があることもわかりました。

高尾: 産後一年を過ぎても妊娠中に増えた10kgが落ちていないということであれば、その原因を探してみましょう。基本的な話になりますが、理想的な体をつくるために必要なのは、栄養バランスのいい食事と、適度な運動、そして睡眠。これは産後女性に関わらず、誰でも当てはまることですね。

加えて、妊娠中は活動量が減るため、相当意識しないかぎり筋肉量も減りますから、代謝も戻りにくいわけです。落ちた筋肉を少しずつ取り戻すために、できる運動に取り組むのもいいでしょう。このときのポイントは、インナーマッスルから鍛えることです。

効率よく筋肉量を戻すには、体の中でも大きな筋肉であるお尻や太ももなどの下半身の筋肉を鍛えることが有効ですが、これらの筋肉を使うときは腹圧を高めることが必要です。ところが、妊娠中はおなかの筋肉をまったくと言っていいほど使っていない状態。ですので、まずは腹圧をかけられるようになるために、地味だけれど「体幹」とも言われる体を支えて姿勢を維持するインナーマッスルを戻していくのが得策と言えます。そのあとに下半身の大きな筋肉を鍛えるのがおすすめです。

また、代謝より摂取量が上回れば太り、摂取量より多く代謝すれば痩せるというのがシンプルな体の構造です。代謝量を運動で増やすのはなかなかハードルが高いので、特に女性の場合は食事で調整するほうが効果が出やすいでしょう。

もしも、次の妊娠を考えているようであれば、筋肉量が戻らず、体重が増えたまま再び妊娠すると、さらに筋肉量は減り、体重も上乗せされる可能性が高いわけで、その点は気をつけてもらいたいですね。

高尾美穂医師(撮影:品田裕美)

──相談者さんは産後の尿漏れにも悩んでいるとのことです。病院にかかった方がいいのでしょうか?

高尾: 産後の尿漏れも大多数の方が経験します。尿漏れで病院に行ってもいいのですが、おそらくお尻の穴を締める運動などをすすめられる程度のアドバイスしか得られないのではないかと思います。

尿漏れ対策としてよく言われているのは、仰向けに寝て足を少し開き、膝を90度に曲げて、お尻の穴を締めながら腟(ちつ)をギューっと腹部に向かって絞り上げるように力を入れていく運動ですね。

これは骨盤底筋を鍛える運動で、前述した妊娠・出産で緩んだインナーマッスルを鍛えることにつながります。寝ながらできて激しい運動でもありませんので、産後すぐにでも取り入れることができます。

経腟分娩は骨盤の大怪我とも言えるほど。大きなダメージを受けているわけです。産後すぐのころは、お腹や肛門に力を入れることはほとんどできないと思います。そのくらい、色々な筋肉を緩ませるのが妊娠出産なんです。

そこから戻そうと思ったときに、ちょっと動くだけで尿が漏れるのが気になって、動くのが嫌だなと思うことがあるかもしれません。でも、使おうとしないと使われないのが人間の体なので、できるならば多少尿漏れをしてしまっても、鍛えることを優先させた方がいいと考えています。今は尿漏れ対策のパッドやショーツもたくさんありますから、そういったアイテムに頼るのもひとつの手です。

ダイエットも尿漏れも、どちらも一気に元通りを目指すのではなく、困っていることをちょっとずつケアしていくイメージでいられるといいのではないかと思います。

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医学博士・産婦人科専門医。日本スポーツ協会公認スポーツドクター。イーク表参道副院長。ヨガ指導者。医師としてライフステージ・ライフスタイルに合った治療法を提示し、女性の選択をサポート。テレビ出演やWEBマガジンでの連載、SNSでの発信の他、stand.fmで毎日配信している番組『高尾美穂からのリアルボイス』では、体と心にまつわるリスナーの多様な悩みに回答し、910万回再生を超える人気番組に。著書に『大丈夫だよ 女性ホルモンと人生のお話111』(講談社)など。
編集・ライター。ウェルネス&ビューティー、ライフスタイル、キャリア系などの複数媒体で副編集長職をつとめて独立。ウェブ編集者歴は12年以上。パーソナルカラー診断と顔診断を東京でおこなうイメージコンサルタントでもある。