『星降る夜に』8話 苦しみを癒す“星”の存在。一星(北村匠海)は伴(ムロツヨシ)を感情ごと抱きしめた

ドラマ『星降る夜に』(テレ朝系)は、とある理由から大学病院を辞めた産婦人科医・雪宮鈴(吉高由里子)と、ろう者の遺品整理士・柊一星(北村匠海)の、運命的な出会いから始まるラブストーリーです。第8話は、佐々木深夜(ディーン・フジオカ)と伴宗一郎(ムロツヨシ)の苦しみの対比が印象的でした。
『星降る夜に』7話 現れた真犯人(ムロツヨシ)の苦しみと、鈴(吉高由里子)の温かな涙の意味

初めて見せた一星の“弱さ”

これまで、一星(北村)は周囲の人物の“支え”になってきた。鈴(吉高)が困っているときは、最初こそ嫉妬をぶつけてしまったものの自宅に駆けつけ、同僚の佐藤春(千葉雄大)が悩んでいるときは話を聞く。彼はその名のとおり、苦しみを癒す“星”のような存在だ。

そんな一星が、めずらしく弱さを見せた。祖母・柊カネ(五十嵐由美子)が、急性心筋梗塞で倒れてしまったのだ。たまたま深夜(ディーン)が居合わせ、病院で適切な処置を受けられたおかげで最悪の事態には至らなかった。しかし、一星が見せた動揺は並大抵のものではなかった。

一星にとって、祖母は唯一の身内であり、替えの効かない存在である。普段は“一言多い”祖母を邪険に扱うような一面もあるけれど、それもお互いを信頼しあっているからこそ。カネが目を覚ます前、病室に駆けつけた鈴にすがりつく一星は、おそらく初めて見る彼の“弱い姿”だった。

どんなに明るく、強く見える人にとっても、立ち上がるための“支え”が必要だ。ときにはそれにすがり、掴まっていないと立てないこともある。一星にとっては、祖母や鈴、そして「遺品整理のポラリス」の仲間たちが、その“支え”なのだろう。彼らに感謝を伝えたい、人一倍思いやりの気持ちが強い一星だからこそ、彼は分け隔てなく全員を“抱きしめよう”とするのだ。

「あの人は、僕」深夜が語る真意

自身の妻を鈴の医療ミスで“殺した”と言い張る伴(ムロツヨシ)は、彼女の自宅へ中傷ビラを貼り付けたり、窓に向かってブロック石を投げ込んだりなどの嫌がらせ以降、執拗に追い回すようになる。その行動はみるみるエスカレート。鈴が北斗千明(水野美紀)と通う手話教室にまでやってきたり、深夜に「あなた二股かけられてますよ」とイチャモンをつけたりと、自分でも歯止めが効かなくなっている。

深夜と伴が二人で話すシーンで、深夜は「僕の妻は死にました。出産の時、子どもと一緒に」と伴に打ち明けた。だから、あなたの気持ちがわかる気がする、と。確かに深夜と伴の境遇は似ている。しかし、妻と子をともに亡くした深夜と比べると、伴の状況はいくらか救いが残っているようにも感じられる。

それにも関わらず、伴は深夜の言葉をはねつけた。他人から向けられる優しい言葉なんて、もう届かない場所に彼はいるのかもしれない。深夜は伴のことを「あの人は、僕だなと思って」と語るが、伴にとってはそうは思えないのだろう。

伴には、支えが必要だ。道に迷ったとき、どうすればいいか困ったとき、ゴールとなるような北極星が必要だ。

伴を照らし出してくれる“星”とは?

鈴と伴の関係性について、一星は手話で「因縁を絶つのが無理なら、いっそ深められたらいいのかな」と口にした。この一言で、一星の心の広さや器の大きさは規格外だと痛感せざるを得ない。鈴の行く先々に現れ、「この女は人殺しですよ」と周囲に吹聴する危険人物に対し、「ずっと一人ぼっちで戦うのは、あの人もつらい」と優しい眼差しを向けられるのは、彼くらいしかいないだろう。

鈴も鈴で、あの人は自分に危害を加えようとしているわけではないように見える、と言っていた。伴自身も、終わりの見えない苦しみや悲しみに苛まれ、ゴールのない“恨みの感情”に辟易しているのかもしれない。残された娘の存在は、彼にとって十分に“支え”となるはずなのに、自身を繋ぎ止められなかった。鈴や深夜、一星が引き留めていなかったら、彼は娘を置いて海に身を投げていたかもしれない。

「歩み寄られたら、耐えられない」

「悪い人でいてください」

「じゃないと、ゴールがもうないんです」

伴が鈴に向けて放った言葉は、もはや恨み節でも呪詛でもなく、懇願だった。彼が血のにじむ思いで向かおうとしたゴールが“死”なのだとしたら。それが、無理矢理にでも決着をつけようとした結果なのだとしたら。やるせない、行き場のないドロドロとした感情を、彼ごとまとめて“抱きしめた”のは、一星だった。

一星に抱きしめられながら、声を限りに泣き叫ぶ伴の姿は、今後も長く語り継がれる名シーンのひとつとなるだろう。彷徨っていた魂が、ようやく受容された喜びと安寧。それを余すところなく表現できたのは、ムロツヨシの手腕によるところが大きい。SNS上でも「涙が止まらない」「グッときた」などの感想が多く見受けられた。

一星は、鈴に苦しみを与えた伴さえも、分け隔てなく受け入れた。次は最終章に向け、残された問題のひとつである、深夜の“心の遺品整理”に向き合っていくのだろう。過去の苦しみ、大切な人との別れによる悲哀に、別れを告げるときがやってくる。

『星降る夜に』7話 現れた真犯人(ムロツヨシ)の苦しみと、鈴(吉高由里子)の温かな涙の意味

『星降る夜に』

テレ朝系火曜21時〜
出演:吉高由里子、北村匠海、千葉雄大、水野美紀、光石研、ディーン・フジオカほか
脚本:大石静
音楽:得田真裕
主題歌:由薫『星月夜』
挿入歌:NCT ドヨン『Cry』
ゼネラルプロデューサー:服部宣之(テレビ朝日)
プロデューサー:貴島彩理(テレビ朝日)、本郷達也(MMJ)
監督:深川栄洋、山本大輔

ライター。映画、ドラマのレビュー記事を中心に、役者や監督インタビューなども手がける。休日は映画館かお笑いライブ鑑賞に費やす。
福岡県出身。現在は大阪在住のイラストレーター&クリエイター。"変化を起こすトキメキ"をテーマにPOPなイラストを描いています。WEBサイト、ノベルティーグッズ、イベントロゴ、動画などでイラストを提供中。趣味は映画、ドラマ、アニメ、ミュージカルなど鑑賞に偏りがち。
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