「生」と「死」の意味も伝えた『星降る夜に』を振り返る 鈴と一星、率直な恋の軌跡

ドラマ『星降る夜に』(テレ朝系)は、とある理由から大学病院を辞めた産婦人科医・雪宮鈴(吉高由里子)と、ろう者の遺品整理士・柊一星(北村匠海)の、運命的な出会いから始まるラブストーリーです。第1話から最終話にかけて、鈴と一星の恋の軌跡を振り返ります。
『星降る夜に』8話 苦しみを癒す“星”の存在。一星(北村匠海)は伴(ムロツヨシ)を感情ごと抱きしめた

“歴代最速キス”から、踏切越しの「愛してる」まで

もはや、あの“歴代最速キス”が懐かしい。恋愛ドラマ史上もっとも早いキスシーンとも騒がれた『星降る夜に』1話が放送されたのは、1月17日のこと。あれから2ケ月も過ぎた。鈴(吉高)と一星(北村)の関係性は、まさに突発的な出会いとキスから始まったけれど、最終的には“踏切越しの「愛してる」”に落ち着いた。

産婦人科医である鈴と、遺品整理士である一星。二人が恋に落ちたこのドラマは、ただの恋愛ドラマではなかった。「命とは何か」「生きるとはどういうことか」……私たちにとって切っても切り離せない「生死」がテーマとなった本作は、二人の恋模様を通して、新たな価値観を提示したように思う。

第2話を振り返ると、匿名の妊婦が、いきなり鈴の勤めるマロニエ産婦人科に来院し、産んだ子を置いて去ってしまう展開があった。「親のいない子はかわいそうなのか?」と問いかける主題は、そのまま、親もおらず耳も聞こえない一星に向けられる。

世間からの身勝手な憐憫を受け入れるべきなのか、否か。立ち止まり、迷う一星に対して、鈴は言った。「(一星は)うらやましいくらい魅力的」「かわいそうなの?」と。このとき、すでに一星は鈴に一目惚れしていたが、色眼鏡なしに自分を見てくれる彼女の存在にさらに惹かれるまでに至ったのは、このやりとりがきっかけだったのではないだろうか。

鈴にとっても、自身の名前である「雪宮鈴」を特別なものにしてくれた相手として、一星は唯一の存在になった。踏切越しの一方的な「好きだ」から、最終話では二人とも「愛してる」へ。彼らの率直な愛情表現は毎週のようにSNS上で話題になり、最終話の終盤、抱き合ってキスをする鈴と一星のシーンに対しても「美しすぎる」の声が絶えなかった。

そっと貼られた半額シールが意味するもの

8話の終盤、一星に抱きしめられ、これまでの苦しみや悲しみがすべて決壊したように慟哭する伴宗一郎(ムロツヨシ)。今後『星降る夜に』を語るうえで、外せない名シーンとなるだろう。

直後、その場に居合わせた全員で銭湯へ行くことに。一星・伴・佐藤春(千葉雄大)・佐々木深夜(ディーン・フジオカ)の4人で湯に浸かる場面は、前回までの切迫した内容からは考えられないほど、“平和”を絵に描いたようだった。

やがて、伴はスーパーで働くようになり、伴の娘も小学校へ入学する。あれほど「この女、人殺しですよ」と言いながら鈴をつけ回していた伴だが、定職に就き、落ち着いた生活を取り戻した。一度は自死まで視野に入れた彼が戻ってこられたのは、「全員抱きしめてやる!」と宣言した一星の包容力があったからこそだろう。

たまたま伴の働くスーパーに来店した鈴と一星。彼らが手にした春菊に、伴はそっと半額シールを貼った。そこに余計な言葉はない。半額シールの意味するところは、鈴と一星、そして伴自身がわかっていればいいのだから。

太陽・月・地球――三人だけの、言葉があてはまらない関係

一星、春、北斗千明(水野美紀)の「遺品整理のポラリス」に頼む形で、亡くなった妻・彩子(安達祐実)の遺品整理を決意した深夜。スタッフ総出で取り組む時間は、品物の整理にとどまらず、長らく見てみぬふりをしていた“心の整理”も進めていく。

深夜と彩子の結婚記念日は、出産予定日の次の日だった。それを見越し、彩子が用意していたプレゼントが見つかる。深夜と彩子、そして、生まれてくるはずだった子ども・一星のためのスニーカー。

「三人でこの靴を履いて、歩きたかった……」

深夜が妻と子を亡くしている事実は、これまでも触れられていた。しかし、それらはあくまで断片的なもの。遺品整理が進むにつれ、深夜の心にしまわれていた過去の思い出が詳らかにされる。必死に抑えていた思いが、制御しきれずに溢れ出るようなシーン。8話終盤の伴のシーンと同じように、語り継がれることになるだろう。

帰りの車内で、北斗は言った。鈴、一星、深夜のことを称して、彼らは「太陽・月・地球」のような関係性だ、と。まわり続け、ときには一直線上に並ぶけれども、決して交わることはない。人は男女の関係に恋愛を絡めたがるものだけれど、彼らにおいては、どんな言葉もあてはまらない関係性を保っている。

振り返ってみれば、急転直下のような恋に落ちた鈴と一星を邪魔することは誰にもできなかった。一星に恋心を寄せた北斗の娘・桜(吉柳咲良)も、一時は一星にライバル視されていた深夜だって、二人の恋の障壁にはなっていない。

彼らの出会いは唯一無二。抱き合ってキスをした“美しすぎる”ラストシーンからしても、鈴と一星の愛は今後も育まれていくだろう。それが簡単に想像できるからこそ、約2ケ月のあいだ、安心して彼らの恋模様に夢中になれたのだ。

これからも、彼らの関係性にわかりやすい名前はつかない。そんな生き方でもいいと教えてくれたドラマ『星降る夜に』は、多くの人にとって替えの利かない作品になったに違いない。

『星降る夜に』8話 苦しみを癒す“星”の存在。一星(北村匠海)は伴(ムロツヨシ)を感情ごと抱きしめた

『星降る夜に』

テレ朝系火曜21時〜
出演:吉高由里子、北村匠海、千葉雄大、水野美紀、光石研、ディーン・フジオカほか
脚本:大石静
音楽:得田真裕
主題歌:由薫『星月夜』
挿入歌:NCT ドヨン『Cry』
ゼネラルプロデューサー:服部宣之(テレビ朝日)
プロデューサー:貴島彩理(テレビ朝日)、本郷達也(MMJ)
監督:深川栄洋、山本大輔

ライター。映画、ドラマのレビュー記事を中心に、役者や監督インタビューなども手がける。休日は映画館かお笑いライブ鑑賞に費やす。
福岡県出身。現在は大阪在住のイラストレーター&クリエイター。"変化を起こすトキメキ"をテーマにPOPなイラストを描いています。WEBサイト、ノベルティーグッズ、イベントロゴ、動画などでイラストを提供中。趣味は映画、ドラマ、アニメ、ミュージカルなど鑑賞に偏りがち。
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