「作りたい」と「食べたい」の対等な交換、上下関係なし ドラマ『つくたべ』考察
上下関係のない“対等”な2人
ドライブデートでファーマーズマーケットに出かけた、野本さんと春日さん。着ていく服を選んだり、大きなカボチャに目を輝かせて喜んだりする野本さんの様子が、ほほ笑ましい。これだけはしゃいでくれると、春日さんも連れてきたかいがあるだろう。
4〜7話では、週末にドライブデートをし、その後クリスマスや年末年始の予定を合わせる2人の様子が描かれる。そのなかで目立ったのは、やはり「互いを思いやる対等な関係性」の貴重さではないだろうか。
あなたは、人とコミュニケーションをとるときに、上下関係を気にするタイプだろうか?
たとえば、野本さんと春日さんのように、週末の予定を合わせて出かける場合を例に挙げよう。交通手段はどうするか、目的地までのルートはどう確認するか、現地ではどのように過ごすか、飲食店での支払いはどうするか……。選ぶことはたくさんある。
このとき、どちらが主導権を握り、一つひとつを選択するか。ささいなことかもしれないが、ここが対等な関係性を築けるかどうかの、分かれ目でもあるのではないだろうか。あえてストレートな表現をするなら、より多くの決定権を持った側が、2人の関係性の主導権を握る。
その点、野本さんと春日さんには、上下関係がない。驚くほど、対等なのである。その理由は、互いに互いを思いやる「等価交換」とも言える姿勢が共通しているからだろう。
春日さんが「一緒に週末を過ごしましょう」と提案したおかげで、野本さんは「自分だけが先走っているのでは……」と悩んでいた気持ちを払拭(ふっしょく)できたはず。それが、クリスマスや年末を一緒に過ごそうと春日さんを誘う勇気に繫がった。
春日さんの側からも、お弁当を作りたがる野本さんの体調を心配したり、高価なはらこ飯をごちそうになる代わりに、野本さんの好きなお酒を持参したり、お菓子を届けに来てくれる野本さんのために空調を調整したりしている。料理をするときは、かならず2人一緒にキッチンに立っている姿も良い。お互いを尊重し、大切にしているのが伝わってくる。
ランチョンマットから感じる慈しみ
毎回、野本さんの作る料理に食欲がそそられる点も、このドラマの醍醐味(だいごみ)だ。食器やランチョンマットなど、一つひとつのアイテムにまでこまやかな気が配られているのも、野本さんの人柄や、ドラマ制作陣のこだわりが見える。
とくに注目してしまうのは「ランチョンマット」である。
オムライスを食べるときには目玉焼き型のランチョンマットを使うなど、野本さんのセンスは可愛らしい。そのほかにも、赤と青のチェック柄のようなマット、ブラウンっぽいマットなど、種類も多彩だ。
2話において、春日さんがミートボールパスタを食べるシーンがある。このときに使われているのは、茶と紺チェック柄のようなマット。1話で野本さんが使っていたマットの色違いだと思われる。
それ以降、2人はさまざまなランチョンマットを敷いて食事をともにするのだが、この茶/紺のマットは、春日さん専用のように思えてならない。
ドラマ内で明確に描かれてはいないが、野本さんは春日さんのためにテーブルウェアを少しずつ用意しているのではないだろうか。ギョーザを焼くためにホットプレートを購入した野本さんなら、不自然ではない行動に思える。そんな風に想像できる余白が、このドラマにさらなる深みを与えている。
ただ「作りたい」だけ、ただ「食べたい」だけ
食事を媒介に、少しずつ交流を深める2人。6話では、春日さんの家庭事情に触れるシーンがある。彼女いわく「保守的な家庭」の春日家では、男性と女性で食事の質に差をつけられるなど、家族内なのに序列があった。
SNSでも、このシーンへの言及が多く見受けられた。「男だから」「女だから」というだけで、不当な扱いを受けてきた記憶は、色濃く残る。
野本さんは「作りたい」だけ。春日さんは「食べたい」だけ。女だからといって、男や家庭のために料理をするわけではないし、食べる量を減らされるのも理不尽だ。ほかの趣味と同じように「作りたい」「食べたい」を受け入れ合うことのできた2人は、動機がシンプルだからこそ、対等な関係でいられるのかもしれない。
しかし、ただお互いのことを知りたいと感じ、大切に思うだけの気持ちが、第三者にはそのまま素直に受け取られない場合もある。同性同士というだけで。
7話では、野本さんが同僚に、春日さんのことを話すシーンがある。お隣のお隣さんと、自宅でご飯を食べている……と伝えるだけなのだが、「なんか、恋してるって感じですね」と返される。この時点で、野本さんと春日さんが同性だとは捉えられていないだろう。
野本さんの母親も、休日に自宅で食事をともにする相手が女性だと知るや、「なんだ、友達か」と言っていた。異性なら恋愛関係になっても違和感はないのに、同性だと途端にその可能性が薄まるのは、考えてみれば不思議である。
「恋愛感情 定義」と検索した野本さんの心情を想像すると、いまだ同性婚が認められていない日本の“息苦しさ”と、根底で繫がっている気がしてならない。
月~木曜よる10時45分〜
出演:比嘉愛未、西野恵未、森田望智、中野周平(蛙亭)、野添義弘 他原作:ゆざきさかおみ脚本:山田由梨音楽:伊藤ゴロー制作統括:坂部康二(NHKエンタープライズ)、大塚安希(MMJ)、勝田夏子(NHK)
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