『星降る夜に』7話 現れた真犯人(ムロツヨシ)の苦しみと、鈴(吉高由里子)の温かな涙の意味
望まない再会……嫌がらせの真犯人が姿を現す
物語上、避けては通れない展開ではあるが、ついにこの時がきてしまった。鈴(吉高)が大学病院を去るきっかけとなった事件に、深く関わっている男性・伴(ムロツヨシ)がマロニエ産婦人科にやってくる。あまりの不気味さ、まさしく“怪演”といえる佇まいだ。
伴は、鈴が命を救えなかった妊婦の夫だ。鈴が施した医療に過失はなく、裁判を起こすも敗訴している。だが、彼の鈴に対する恨みは、5年の時を経て風化しているどころか、さらに濃く煮えたぎっているようにも感じられる。とっさに助けに入った佐々木深夜(ディーン・フジオカ)に対しても「悪いのは僕じゃないですからね」「人殺しは、あっち」と悪びれる様子はない。
伴を演じるムロツヨシを見ていると、2022年6月に公開された映画『神は見返りを求める』を思い出す。この映画でも、彼は田母神という一風変わった役を演じていた。名前に「神」とつくように、何をしても怒らない神や仏のような人間が、とある事件をきっかけに様変わりする物語である。
ムロツヨシといえば、ドラマ「勇者ヨシヒコ」(2011〜)シリーズのメレブ、映画『新解釈・三國志』(2020)の諸葛亮孔明など、福田雄一監督の作品でお馴染みの“コメディ担当”といった印象が強かった。しかし、そのイメージを根底から覆す演技に、驚いた方も多いのではないだろうか。
「人殺し」「人殺し」……鈴の両耳を塞いでくれる一星の優しさ
過去に苦しめられる鈴だが、日常は続いていく。俺も大人の男だから、と珍しくスーツでキメてやってきた一星(北村)と鈴は、豪華なディナーで乾杯。鈴の身を案じた深夜が、一星に連絡してくれたのだ。
久々に伴と対面してしまった鈴の脳内では、裁判のときに聞いた「人殺し」「人殺し」の言葉がリフレインして離れない。あれだけショックな出来事のあとで、恋人との食事に集中できるものだろうか、と心配になる。
しかし、そんな鈴のことを思いやってか、一星は「嫌なことが聞こえないように」と鈴の両耳を塞いでくれた。ろう者である一星には、感謝や賛辞など“良い言葉”が聞こえない代わりに、呪詛や中傷など“悪い言葉”も入ってこない。目に見えないものを抱えて生きる方が大変だ、と一星は手話でそう語る。
伴の登場で、一気に物語の深刻さが増してしまったところ、鈴と一星の胸キュンシーンが上手い具合に中和してくれる。そして、深夜役、ディーン・フジオカのかわいらしい無邪気な演技と、「遺品整理のポラリス」社長・北斗千明(水野美紀)のコミカルさも、その助けとなっている。
殺人事件の現場となったアパートを清掃することになった一星と佐藤春(千葉雄大)に、労いのためデリバリーを頼んだ北斗。チャーリーこと犬山正憲(駒木根葵汰)が持ってきたのは、なんとキムチチゲラーメンだった。ここぞとばかりに「血の色だあ!」と囃し立てる北斗の様子に、思わずクスッとしてしまう。
深夜の佇まいや静かな語り口も、見ている私たちを安心させてくれる要素だろう。7話終盤では、鈴・一星・深夜の3人で仲良くキャンプするシーンもあった。
ディーン・フジオカの可愛らしいダンスにほっこり
キャンプでは、一緒に(主に一星と深夜が)料理をしたり、花火をしたり、音楽に合わせて踊ったりと仲睦まじい。とくに、両腕を振り上げて無邪気に踊る深夜の姿は、伴の登場で様変わりした空気感を緩和してくれた。
3人での時間を味わいながら涙を流す鈴。「あの人も、ここにいたらよかったのかな」のモノローグは、なんとも切なさを喚起させる。
深夜が鈴に思いを寄せているのは確かなようだが、誰に何を指摘されても「そういうんじゃないんです」の一点張り。あくまで鈴は「尊敬する先輩」なのだろうか。鈴の自宅にブロック石が投げ込まれる嫌がらせがあってから、有事のときは一星に連絡するようになった深夜を見るに、一言で「恋愛感情」と片付けられる心理ではないのだろう。
鈴には、マロニエ産婦人科のスタッフたち、一星や深夜、たくさんの支えとなってくれる人たちがついている。その対比として伴の孤独さが際立つが、彼にだって残された娘がいるのだ。妻も子も一気に亡くした深夜よりも傷は浅いはず、と思わず考えてしまうが、そんな比較さえ稚拙に感じられる。
痛みや苦しみは、決して数値ではかれるものではない。目にも見えない。目に見えないものを抱えて生きる方が大変だと言った、一星の言葉が静かに響く。
テレ朝系火曜21時〜
出演:吉高由里子、北村匠海、千葉雄大、水野美紀、光石研、ディーン・フジオカほか
脚本:大石静
音楽:得田真裕
主題歌:由薫『星月夜』
挿入歌:NCT ドヨン『Cry』
ゼネラルプロデューサー:服部宣之(テレビ朝日)
プロデューサー:貴島彩理(テレビ朝日)、本郷達也(MMJ)
監督:深川栄洋、山本大輔
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