Beyond Gender特別編

#KuToo運動を展開。ブログで性被害を綴った俳優・アクティビストの石川優実さん「私にしか私を救えない」

米ハリウッドに端を発した#MeToo運動から、今年で5年。大物映画プロデューサーの長年にわたる性暴力を告発した記事が、2017年10月に報道されたことがきっかけでした。#MeTooの波は、ほどなく日本にも届き、俳優・アクティビストの石川優実さんも辛い経験を明かしました。19年には職場でのヒール靴などの強要されることに抗議する#KuToo運動を展開。大きな注目を集めた石川さんは今年2月、ブログで映画界で性被害を受けたことを綴りました。一連の動きについて石川さんに振り返ってもらいました。
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――米国で#MeToo運動が始まった17年、石川さんはグラビアで過激な露出で撮影を強いられたことや性行為をともなう接待などを強いられたとブログに書かれました

石川優美(以下、石川): 当時は「同意のない性行為は性暴力」ということすら知りませんでした。最初の#MeTooやその後の#KuTooを経て、フェミニズム関係の知り合いがたくさん増えて、ジェンダー不平等や性暴力をめぐる司法制度の不備など様々な問題を知り、フェミニズムについて深く学びました。そこで7年前に映画界で受けたことが、性被害だったと徐々に認識するようになったのです。

――#MeToo後で、日本の映画界で性被害を告発する動きはありましたが、欧米や韓国のように連帯は広がりませんでした。

石川: 私は映画界に失望して、2017年に#MeTooが盛り上がった当時は離れていました。だけど日本でも、ジャーナリストの伊藤詩織さんが性被害について裁判で闘う姿が大きく報じられていましたし、性被害の撲滅を訴えるフラワーデモも始まりました。性暴力や女性への差別に声を上げて反対する人たちがいる一方で、日本の映画界や芸能界には「役者が政治的な発言がするべきでない」という風潮が根強くありました。

写真は石川優実さん提供、以下同

自分の声だけでは、映画界は動かなかった

――22年2月、「日本の映画界には地位関係性を利用した性行為の要求が当たり前にあった」と、監督の名前は伏せたうえで、ブログに投稿しました

石川: #MeToo直後に、グラビア界で受けた被害について書きましたが、映画界での経験については考えを整理できていませんでした。ですが、その監督が性暴力をテーマにした新作映画を作ったり、ドラマ出演が決まったりするなどのニュースが流れてきて、とても苦しくなったのです。
その監督にまつわる悪い評判はあったのに、誰も声を上げなかった。「自分が声を上げるしかない」と決意しました。その時期に、フェミニズムをテーマにした映画を作ろうと友人と企画していまして。友人に相談するなどして、「自分が受けた行為は暴力だった」と改めて認識できたので、ブログに書きました。

――週刊誌が複数の被害者の声と共に、実名で監督の行為について報じました。その監督は「強要はなかった」と否定しましたが、新作映画は公開中止になりました。この出来事を機に、他の有名監督や俳優などへの#MeTooが一気に広がり、映画界でも「性暴力は許されない」と表明する人が増えました。

石川: 実際に告発をしてみると、自分が思っていた以上に映画界のハラスメントの問題を考えている人が多かったことに気づきました。映画界でジェンダー問題の勉強していた男性たちからも、私に対して賛同の声があがりました。自分の声だけでは、ここまで映画界は動かなかったと思います。業界内部の男性たち、脚本家や撮影監督などから「これはおかしい」と声が上がったから、ここまで大きく広がったのだと思います。

――石川さんのもとには、同じ監督からの被害を訴える約30人の女性から連絡がきたそうですね。

石川: その人数に驚きはなかったです。予想通りでした。自分と同じような体験をした方々の声を聞くのは精神衛生上、とても辛かったです。「誰にも言えずにいた」「訴えるなどは考えていない。ただ話を聞いてほしい」という声が多かったです。
私には、この5年のあいだでフェミニズム関係で頼れる友人たちができたので、性暴力の告発に関して必要な情報も持っていたので、ある程度準備して発言することができました。でもそうでない人が、顔を出して実名で、というのはとても難しいです。

被害者が声を上げないと変わらない状況を変えてほしいし、被害を相談できる窓口など被害者を支える仕組みをつくっていかないといけないと思っています。もし被害者本人が声を上げられなくても、周りで被害に気づいていた人はいたはずです。第三者も含めて、被害者を支えていく仕組みが必要だと思います。

――大きく報道された後、その監督は「強要はなかった」として否定しました。

石川: その監督が「同意がある性行為だった」と考えるなら、公の場でどのように同意をとったかを説明すればいい。悪いことをしたつもりがないのなら、表に出て堂々とそう主張すればいいと思います。

第三者機関設置など「仕組みを普及させてほしい」

――「勇気ある告発と言われることに、違和感がある」という石川さんの言葉が心に刺さりました。私も安易にこの表現を使ってきたと反省しています。

石川: 「勇気がある」「応援している」と称賛していただくのではなく、「一緒に業界を変えていきましょう」という気持ちであってほしいなと思います。私だって告発なんて本当はしたくはなかった。でも日本社会で#MeTooが起きても、映画界がほぼ何も変わらなかったのは事実です。

――韓国や米国では、撮影前のハラスメント研修や相談窓口の設置などをして、ハラスメントや性暴力の問題を個人の問題ではなく、業界の問題ととらえて動いています。被害が発生した場合、第三者機関による調査の仕組みもあります。

石川: 「性暴力とはなにか」「何がハラスメントなのか」について共通の認識が必要ですね。日本でも撮影前のハラスメント研修などの防止策や、被害がおきた際に第三者機関で調査するなどの仕組みを普及させてほしい。私と同じ思いをする人は、二度と出てほしくないのです。

空気を読んできた自分と、空気を読みたくない自分

――「#KuToo 靴から考える本気のフェミニズム」(現代書館)に続き、昨年11月に「もう空気なんて読まない」(河出書房新社)を上梓されました。「セクハラされたらむしろ楽しいふりをして、権力のある人にセックスするように求められたら当然応え、下ネタには積極的に乗って、『ノリのいい女』と認識させる」と過去の“空気”を振り返ります。そして「空気を読むことに必死になっていたら、私は自分に起こった性暴力にも気がつかずに生きてしまった」と振り返っています。
様々な経験や心境の変化を経て、「フェミニストになって男が好きになった」「怒るのってかっこいい」という心境に達したそうですね。

石川: 自分の気持ちと向き合うのはとても大変。今でも毎日、空気を読んできた自分と、もう空気を読みたくない自分との間で闘っています。自分らしく生きるのはとても勇気がいるし、嫌われるかもと考えると怖くなります。でも、これから先をどう生きるのかは、自分で決めるしかない。私にしか私を救えないのです。どんなことがあっても、私は自分を受け入れたいと今は思います。

――自分自身と徹底的に向き合ったからこその決意ですよね。そういえば、フェミニズムの視点からB’zを分析したくだりが、とても面白かったです。

石川: 母親がファンクラブに入るくらい好きで、私も一緒に聴きながら育ちました。B’zは女性を男社会に適応した飾りもののように扱うのではなく、女性の苦しさや生きづらさを語っていると私は思います。男同士の連帯を歌った「ブラザーフッド」という曲もとても素敵。男同士だってこうやって協力しあえばいいのに、と思います。マッチョな空気に疲れている人こそ、B’zを聴いて欲しいですね(笑)。

韓国人俳優・ジン・デヨンさん。苦難を経て「ドライブマイカー」に出演 “お遍路さんのおかげ” #KuTooへのバッシング、石川優実さん「怒らず冷静に」ではダメな理由【怒り08】

●石川優実(いしかわ・ゆみ)さんのプロフィール

1987年生まれ。俳優、フェミニスト、アクティビスト。高校時代にスカウトされ、芸能活動を開始。2017年にグラビア活動で受けた性被害をブログに投稿。19年、職場でのヒール靴などの強要は「女性差別」と発信したツイートが#KuToo運動として広がる。著書に「#KuToo 靴から考える本気のフェミニズム」(現代書館)などがある。

■「もう空気なんて読まない」

著者:石川優実
出版社:河出書房新社
定価:1694 円(税込)
朝日新聞記者。#MeToo運動の最中に、各国の映画祭を取材し、映画業界のジェンダー問題への関心を高める。
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