●本という贅沢#171『結局、「手ぶらで生きる女」がうまくいく モナコの大富豪に学んだ、自由に生きる57のヒント』

さとゆみ#171 私でもまだ間に合う感が半端ない!『結局、「手ぶらで生きる女」がうまくいく』

コラム「本という贅沢」。今年も終わりに近づく中、新型コロナウイルスの感染は「第8波に入り始めている」という指摘もあり、気持ちが落ち着きません。そんな今だからこそ、元気になる1冊を書籍ライターの佐藤友美(さとゆみ)さんが紹介します。
さとゆみ#170 許してくれてありがとう。『ぼくらは嘘でつながっている。』

 本という贅沢#171 『結局、「手ぶらで生きる女」がうまくいく モナコの大富豪に学んだ、自由に生きる57のヒント』(エミチカ/PHP研究所)

人間って、なまけもので自堕落な生き物だと思うんです。
もとい、主語が大きすぎた。
私は、なまけもので自堕落な生き物です。

学生時代、村上春樹さんの小説家デビューが30歳だと知って、ずいぶん遅いデビューだなあって思ってた。
そんなもんだから、自分が30歳になった時、あれ? ヤバイ。もう30歳になっちゃったと思って「30歳から始める○○」って本を読み漁った。なんだ、まだ全然いろいろ間に合うじゃんって思ったよね。

35歳になった時、「あれ、思ったより人生あっという間じゃん」と焦ったけれど、森博嗣さんは38歳でデビューしたと思い出してちょっと落ち着いた。

40歳になったときは、さすがにもういろいろ手遅れのような気がしたけれど、いやでも松本清張さんがデビューしたのは42歳だし、シドニィ・シェルダン氏は50歳だし……と、もはや何をエクスキューズしたいんだ、私。

いや、これ、小説家になりたいとかそういう話(だけ)ではなく、
「何か新しいことにチャレンジする」とか「ここから人生を賭けて何かに取り組もう」とか思うことは、年齢を重ねるほどに無理め感漂っていくよね。

たとえば私の場合は、ずっと海外を転々としながら原稿を書く生活をしたいと思っているのだけれど、
いやでも、もういい歳だし、英語できないし、お金足りないし、体弱いし、子どもの学校あるし……etc.

と、いつでもできない理由を探している。なかでも、年齢に関しては「できない理由」にしやすいよね。そうこうしているうちにあっという間に歳をとって、「ああ、もっといろいろやっておけばよかったなー」って思って死ぬのかなあとか、最近思ったばかりだったのです。

が!

そんな私のもとに、こんな本が飛び込んできました。
帯がつおい!つおすぎる!

ツテなし、語学力なし、キャリアなし 50歳で夫を亡くし負債2億円を抱えた主婦が、モナコに移住できたわけ。

ああもうこれ、「私もまだ間に合う感」半端ない。
年齢、借金、病気、困難、あれもこれも……。三重苦、四重苦を軽々と超えてくるエミチカさんの無理め感からのジャンピング。

この本の素晴らしいところは、「成功の法則」が書かれていると思いきや(いやもちろん、それも書かれているのだけれど)、それ以上に、「失敗とそのリカバリー」が惜しみなく書かれているところ。
こんなに赤裸々に失敗談のあれこれを告白してくれたマダム、今までにいた? って思っちゃった。

私、実はエミチカさんに何度かお目にかかったことがあるのです。

キャリアゼロの専業主婦、50歳を超えて起業して中国やシンガポールで成功し、今はモナコの王宮前に住んでいるというと、シンデレラストーリーのように感じる。それはそれは優雅な人生を想像します、よ、ね。

けれど、エミチカさんの場合、そこに至るまでの水面下のバタ足が、すさまじい。美しく泳ぐ白鳥の足元にカメラを向けたら、バタ足のすさまじさで湖に津波が起きてるみたいな。

「私、何もしなくても、太らないタイプでぇ」とか「お化粧とか全然しないんですぅ」とか言う人、たまにいるよね。でも、エミチカさんはそういうんじゃない。「ちゃんと努力して」「ちゃんと考えて」、今の自分になることを選び取っている。見た目や所作はエレガントなのだけれど、それはちゃんと「自分の意志で」手に入れたものであることが、はっきりわかる。

そして、エミチカさんのすごいところは、何不自由ないように見える現在も、常に新しいことにトライしているところ!
私が最後にエミチカさんに会ったのは、ちょうど1年くらい前だけれど、そこから1年の間だけでも、TEDで全世界に向かってスピーチをされていたり、こうやって書籍を出されたりと、むしろバタ足が高速化してる!!! 

こうでありたい。
もう、ほんと、こうでありたいと、心の底から思いました。

エミチカさんは50歳で人生を強制リセットされたわけだけれど、だから私も50歳まで大丈夫と思わず、今からだよね。いつかじゃなくて、今日だよね。などと思って元気になりました。
そう、圧倒的に心が元気になる本です。
こういう人生の先輩がいて、本当にありがたい。

 

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さとゆみ#170 許してくれてありがとう。『ぼくらは嘘でつながっている。』
ライター・コラムニストとして活動。ファッション、ビューティからビジネスまで幅広いジャンルを担当する。自著に『女の運命は髪で変わる』『髪のこと、これで、ぜんぶ。』『書く仕事がしたい』など。