まだまだ語りたい『マイファミリー』考察。悲しき父、東堂「心春が1番すきな食べ物は? 答え パパが作ったハンバーグ」
『あなたの番です』(日テレ系 2019)の大ヒットを機に、考察で視聴者を巻き込むタイプのミステリードラマが増えた印象だが、『マイファミリー』(TBS系)は、そこから一段階進んだドラマだった。登場人物の心情を重視して構成され、その上でサプライズを用意する。そうしたバランス感覚が秀逸だった。
最終回放送後のSNSに、黒幕の正体やトリックへの驚きや予想の当たり外れよりも、登場人物の心情に寄り添う声が多く上がっていたこともその証左だろう。
家族と家族が連鎖する
未知留(多部未華子)を誘拐した犯人は、鳴沢温人(二宮和也)に、東堂樹生(濱田岳)との交換を要求。温人は、三輪碧(賀来賢人)に助けを求めた。
「困っている人を助けるパパがかっこいい」
家族を巻き込むことを恐れて躊躇する三輪の背中を押したのは、一度誘拐されて怖い思いをした娘の優月(山崎莉里那)だった。子どもの成長と強さが親を支え、親がさらに強くなって家族を守る。三輪がたびたび温人に言う「成功報酬はたんまりもらうからな」は、冗談めかしているけど超本気だろう。優月に新しい服も買いたいし、妻の沙月(蓮佛美沙子)にもお礼をしたいのだ。
自分が容疑者になってしまった温人は、ハルカナ・オンライン・ゲームズ副社長の立脇香菜子(高橋メアリージュン)に自分を社長の座から下ろすように伝える。しかし、香菜子はすでにその準備を整えていた。それを聞いてホッとする温人と涙ぐむ香菜子。2人にとっては会社も家族同然なのだ。香菜子の「親が子どもを守るのは当然でしょ?」は、会社を守るという比喩であり、誘拐犯と戦う温人を応援するメッセージでもあった。
一方で、容疑者の母になってしまった温人の母・麻由美(神野三鈴)が営むスナックの扉には、嫌がらせが書き殴られている。それでも麻由美は気丈に振る舞い、息子を激励する。さまざまな家族の思いと形が連鎖して、大きな力になっていくのだ。
事件の真相は…
温人の機転と葛城圭史警部(玉木宏)の協力で、未知留は無事に保護される。
真犯人は、捜査一課長の吉乃栄太郎(富澤たけし)だった。
事件の真相はこうだ。
5年前、仕事で忙しい部下の家族の心のケアをしているうちに吉乃は、東堂の妻・亜希(珠城りょう)と不倫関係になってしまう。2人の密会を偶然見かけた東堂の娘・心春(野澤しおり)は、写真をスマホで撮影し、親友の阿久津実咲(凛美)とだけ秘密を共有していた。
両親に相談すれば家族が崩壊すると判断した心春は、吉乃に2つの要求を突きつける。もう母と不倫しないこと、そして、自分を狂言誘拐すること。狙いは両親の仲を深めることだった。その要求を飲めない吉乃は、心春から不倫の証拠写真を奪い取ろうとするが、誤って階段から突き落として死なせてしまう(心春の遺体は隠したようだ)。亜希は心春の死を知らされていない。
焦った吉乃は心春の誘拐プランを実行する。そして交渉をわざと失敗させることで、心春の行方をうやむやにした。吉乃との不倫関係を隠そうとしていた亜希は狂言誘拐を疑われて失踪。吉乃は亜希が死んだと思い込み、事件を風化させようとしたのだった。
小心者がモンスター犯罪者に
この各話レビューでは、かなり初期から吉乃を黒幕だと予想していた。動機として、吉乃にも家族に関する重要な事実があって、それを守ろうとしているのではないかと考察してきた。
結果、黒幕予想は的中、家族がキーになっていたのも間違いなかったが、内容はまるで逆だった。吉乃の動機は「不倫が家族にバレるのが怖かった」。守るのが目的ではなく、自分が悪者になることを恐れただけだったのだ。
人を死なせ、誘拐を実行した吉乃はとんでもない凶悪犯だ。しかしその内実は、魔が差した不倫をきっかけに、嘘を上塗りし続けた小心者だ。どこかで後戻りする勇気があれば、こんな事態にはならなかっただろう。凶行の根源が「弱さ」なのが恐ろしい。保身や見栄を理由に人を傷つけてしまうことは、誰にでも経験のあることなのではないだろうか。
心春ちゃんのメモに見えた東堂の過去
娘を失い、逮捕までされてしまった東堂。ほかの家族が再生に向かったなか、彼の運命は悲しい。きっかけは、仕事にかまけて家族を蔑ろにしたことだ。ドラマでは描かれていないが、東堂は望んでそうなったのではなかったのではないか。
ほんの一瞬映し出された心春が吉乃に持ちかけた誘拐プランノートには、東堂に出題するクイズの候補が「遠足の行き先」以外にも書かれていた。そのひとつが「心春が1番すきな食べ物は? 答え パパが作ったハンバーグ」というものだった。
東堂がどれだけ家に帰らなかったのかはわからない。ただ、少なくとも心春にハンバーグを作ったことがあるわけで、亜希の家事の負担を減らそうという意識もゼロではなかった。しかし不器用な東堂は、上手な言い訳もできないまま仕事に没頭し、いつしか家族を顧みない存在になっていった。
さすがにドラマのように誘拐・殺人までを引き起こしてしまうことは稀だろうが、規模を小さくしたような出来事は珍しくはないだろう。というか、ほとんどの家族トラブルはこんなことがきっかけなのかもしれない。
考察の答え合わせをする気マンマンだったのに、自分の行いをものすごく顧みる最終回だった。
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