溝端淳平さん、「モヤモヤをはがしてくれた蜷川幸雄さん、希望をくれた小栗旬くん」

ドラマや舞台を中心に活動する溝端淳平さん(33)。8月20日から東京で上演される二人芝居「毛皮のヴィーナス」では、高慢で自信家の演出家を演じます。デビューからずっと俳優として活躍してきた印象ですが、デビュー後は「このままでいいのか」と俳優としての将来に悩んだこともあったという溝端さんにお話を伺いました。
溝端淳平さん、「舞台は僕にとって『生きている!』と実感できる場所」 【画像】溝端淳平さんの撮り下ろし写真

「“叱る優しさ”も大事だと思う」

――2006年に「ジュノン・スーパーボーイ・コンテスト」のグランプリ受賞をきっかけにデビューされました。

溝端淳平さん(以下、溝端): グランプリを契機にアイドルのようにデビューをしたので、他の同世代の俳優さんたちと比べると世間の人に知っていただくのが割と早かったんです。それゆえに、仕事を始めて間もない頃は、芝居の難しさや意味みたいなものを分からないまま、監督に「OK」と言われるがままに芝居をしていました。

――今年で俳優歴15年。ここまでの道のりは順風満帆のようにも見えますが、悩んだことや辛かった時期もあったのですか。

溝端: アイドルとしてテレビに出始めたころは「キャーキャー」言っていただくことが多かったんです。そのうちドラマや映画で役をいただいけるようになって、自分では「これでいいのかな?」と思うようになりました。だけど、周りの人たちは気を遣ってなのか「もっとこうした方がいい」と正直に意見を言われることや、指導をされることが少なかったんです。そんなとき、舞台「ムサシ」で蜷川(幸雄)さんから「下手くそ」とか「辞めちまえ!」と言われたんです。

今の時代は“言わない優しさ”の方がスタンダードになりつつありますが、僕は“叱る優しさ”も大事だと思います。確かに蜷川さんから厳しいことを言われたときは辛かったけど、その通りだったからすごくスッキリもしたんですよ。「0から始めよう」と吹っ切れたというか「才能がないんだから、やれるだけやろう!」と思えるようになった。これが25から26歳くらいのときでした。自分の中のモヤモヤを全部、引きはがしてくれたのが蜷川さんでした。

役者としては「色々な感情を持たないと」

――蜷川さんの言葉で、特に印象に残っているのは?

溝端: 「もっと自分を疑え、信用するな」とか「世の中を恨め」といった、今、世間で言われていることとは真逆の事。「そんな人間になれ」ということではないはずですが……。蜷川さんの言葉で、色々な感情を持たないと役者としては魅力が増していかないんだなと思いました。

――telling,読者の女性の中には特に仕事面で「やりたいことが見つからない」「やりたい事があっても一歩が踏み出せない」という人もいます。

溝端: 僕は今、たまたまやりたい職につけているけど、やりたいことを仕事にできる人の方が少ないですよね。みんながみんな、やりたい仕事に就けるわけでもないし、やりがいを持って仕事ができているわけではない現実があります。仕事にやりがいをもつことだけが幸せではないと思うし、趣味に幸せを見出すことができるなら、それでいいと思います。

そもそも「自分は何が好きで、どんなことに興味があるのか」ということについては、一度触れてみないと見つからないことが多いと思うんですよね。人との出会いや恋愛もそうですけど、失わずに得ることはできない。なので、ダメで元々だと考えて、とりあえず何でも一回挑戦してみたらいいんじゃないかな。「自分の人生、少しくらい何かを失ってもいいや!」っていう開き直りは結構、大事だと思いますね。

次第に変わった自分、コロナ禍も転機に

――溝端さんは役者としてのやりがいを、どういったときに感じますか。

溝端: 出演した作品を見て喜んでくれる方がいることが一番うれしいですね。僕は変に小器用なところがあるので、20代後半のころは「役者としての自分って何?」と考えることがよくあったんです。監督に言われたことは、それなりにできてしまう。一方で不器用な人は、その段階で悩んで考えるじゃないですか。苦しいかもしれないけど、不器用な人の場合は、殻を破る瞬間が本人も周りにも、はっきり分かると思うんですよ。

だけど僕はその殻が薄いから……。30歳を過ぎたころに、役者としての自分に関する悩みが、やっと溶けてきました。

――何かきっかけがあったのでしょうか。

溝端: 特に「これ」といったことはなく、徐々にですね。ただ、コロナ禍は大きかったです。朝の連続テレビ小説「カムカムエブリデイ」を毎朝見ていたのですが、そのときに気づいたのが「こうやりたい!と思う気持ちより、見ている人が楽しんでもらえる作品を作ることが、自分には第一だ」ということ。

以前は、同世代の俳優が出ているドラマや映画を見ていても「悔しいな」とか「自分がやりたかったな」という気持ちだったんです。でも今は「カムカムエブリデイ」は素直に作品が素晴らしいと感じたし、「最愛」に出ていた松下(洸平)くん本人には「よかったです!」って言えるようになったんですよ。ドラマや映画が素直に好きだった頃の自分に戻った感じ。見る側の楽しさをもう一度思い出せたんです。コロナを経て変なプライドが無くなったことで視野も広がって、気持ちが楽になりました。

――溝端さんは今33歳ですが、年齢を重ねていくことは楽しみですか?

溝端: 役者としてはとても楽しみです。年を重ねていけばいくほど色々な役もくるだろうし、幅広いお芝居ができるんじゃないかと思っています。その分、背負うものも責任も大きくなる。だから、怖さがないと言えばウソになりますが、僕は先輩方からたくさん希望も貰っているんです。

――最近あったエピソードを教えてください。

溝端: 大河ドラマの主演をやって、ハリウッドにも進出するなど俳優としてトップにいる先輩の小栗旬くんとは仲良くさせてもらっています。

この先どういうモチベーションで臨めばいいのかを悩んでいたとき。たまたまスタジオで会った小栗くんに「旬くんが役者を続けるモチベーションって何ですか?」と聞いたら、「役者人生長いからね」ってボソッと言われたんです。それが僕にとっては救いになりました。
「長く続けていることでできること、いただけるお仕事があるんだな」と希望を持つことができるようになりました。

溝端淳平さん、「舞台は僕にとって『生きている!』と実感できる場所」 【画像】溝端淳平さんの撮り下ろし写真

●溝端淳平(みぞばた・じゅんぺい)さんのプロフィール

1989年、和歌山県生まれ。2006年に「第19回ジュノン・スーパーボーイ・コンテスト」でグランプリを受賞し、翌年のドラマ『生徒諸君!』で俳優デビュー。08年にはドラマ『ハチワンダイバー』や映画『DIVE!!』で主演を務め、10年に映画『赤い糸』で第33回日本アカデミー賞新人俳優賞。近年ではNHK朝の連続テレビ小説「スカーレット」(19年)や「ゴシップ」(22年、フジテレビ系)など。7月放送開始のNHKBS時代劇「善人長屋」に出演。

ヘアメイク:菅野綾香 スタイリング:黒田領
衣裳:シャツパンツともにシャリーフ(シアン PR)、他スタイリスト私物

●舞台「毛皮のヴィーナス」

オーストリアの小説家、レオポルド・フォン・ザッヘル=マゾッホの自伝的小説「毛皮を着たヴィーナス」をもとに、演出家と女優という登場人物2人だけの芝居に仕立てられた作品。8月20日~9月4日、東京のシアタートラムで上演される。

作:デヴィッド・アイヴス 翻訳:徐賀世子 /演出:五戸真理枝/出演:高岡早紀、溝端淳平

ライター。雑誌編集部のアシスタントや新聞記事の編集・執筆を経て、フリーランスに。学生時代、入院中に読んだインタビュー記事に胸が震え、ライターを志す。幼いころから美味しそうな食べものの本を読んでは「これはどんな味がするんだろう?」と想像するのが好き。
1989年東京生まれ、神奈川育ち。写真学校卒業後、出版社カメラマンとして勤務。現在フリーランス。
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