溝端淳平さん、「舞台は僕にとって『生きている!』と実感できる場所」

溝端淳平さん演じる高慢で自信家の演出家・トーマスが、オーディションで無名の女優ヴァンダと出会い、彼女の魅力に溺れ、次第に支配されていく様子をスリリングに描いた舞台「毛皮のヴィーナス」が、8月20日から東京で上演されます。舞台への意気込みや見どころについて溝端さんに聞きました。
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――本作は、オーストリアの小説家・レオポルド・フォン・ザッヘル=マゾッホの自伝的小説「毛皮を着たヴィーナス」をもとにした戯曲です。オーディションを受けに来た女優のヴァンダ(高岡早紀さん)と演出家・トーマス(溝端さん)のストーリーですが、その芝居を演じていくうちに2人が登場人物になりきっていくという構造にもなっているそうですね。

溝端淳平さん(以下、溝端): 「マゾヒズム」みたいなものが話の中心にあります。「支配していると感じていた方が、実は支配されている立場なのでは?」と思えるようにもなっています。それに演出家と女優が、その関係性を超えていきそうでいかない。トーマスとヴァンダ、お互いの立場や感情が常に揺れ動いて、息つく間もないくらい早く展開が進んでいくので、それを僕と高岡さん2人のお芝居だけで魅せる技術が必要になると思っています。

――「毛皮のヴィーナス」は2010年にオフ・ブロードウェイで初演後、ブロードウェイでも上演され、13年にはロマン・ポランスキー監督によって映画化もされています。

溝端: 僕は映画を観たのですが、フランス語のセリフでの感情の出し方って日本とは違う。支配されれば支配されるほど恍惚とした表情になっていくという、トーマス役の俳優が解放されて喜びに満ちていく様子が強く印象に残っています。そのトーマスを自分が演じることにプレッシャーも感じていますが、今は「どう演じようか」とワクワクする気持ちのほうが勝ちますね。「日本一観客の目が肥えている劇場」とも言われるシアタートラムで高岡さんと二人芝居をやらせていただけることも楽しみです。

うれしい“実年齢以上の役へのチャレンジ”

――稽古が始まるのはこれからとのことですが、戯曲を読んだ感想を教えてください。

溝端: 読み物として、すごくおもしろかったです。次の展開が全く読めないし、演劇の中に演劇があるという話なので、演じているのが役なのか本人なのかも判然としないんです。正体が曖昧なヴァンダをうねりとして、全体的にとてもすてきに描かれている作品だなと思いました。

――今の段階で、トーマスをどんな人物と捉えていますか?

溝端: 漠とした印象ですけど、きっとトーマスは、自分や演劇界、世の中に対して鬱屈していて、不満もたくさんある。そして、その感情をうまく表現しきれない自分にも鬱憤がたまっていて、自分の中にある思いをどう伝えていいか分からない、あまり人や世間に期待していない人物だとも思います。そんな中で、意図せず次第に「何かに征服されていくことこそが、自分の喜びなんだ」と目覚めていく様子を、芝居で見せられればと思います。

トーマスという役は、40歳を越えてもできると思うんです。彼は精神的に若い部分もあるけれど、ある程度成熟した男性感がないと物語として進まないところがあるので。今回、実年齢以上の役どころにチャレンジをさせていただけるのはうれしいです。

共演の高岡早紀さんとは「波長が合う」

――先ほどもありましたが、登場人物は、溝端さん演じる演出家のトーマスと、高岡早紀さん演じる女優・ヴァンダの2人。その今作は濃密なシーンもあるとうかがっています。

溝端: 二人芝居というのは信頼関係が重要だし、お互いの呼吸を合わせることが大切だと思っています。高岡さんとは過去に2度舞台でご一緒させていただきました。物事をシンプルに捉える方で自分とは波長が合うな、と感じていたので、今回もいい意味で気を遣わずにぶつかっていきたいです。

――蜷川幸雄さん演出の「ムサシ」(2013・14年)をはじめ、舞台の出演経験も多いですが、舞台の楽しさやおもしろさをどんなところに感じますか。

溝端: やはり、お客さんの目の前で演じられるライブ感ですかね。通常、舞台は約一ヶ月間を稽古に費やすのですが、その間はずっと芝居のことだけを考えられる。そういう時間って舞台でしかないし、今日できたからといって明日もうまくいくわけでもない。ですが千穐楽までやり切ったときの達成感は、ほかでは味わえません。それに何より僕自身が「生きている!」って実感できる場所が舞台なんです。

僕ら役者を「がんばりたい」と思わせるのは…

――公演期間中は緊張やプレッシャーも相当あると思います。

溝端: 僕も毎回、緊張で足が震えています(笑)。今は仕事だってリモートでできる時代。エンターテインメントも「テレビで見ればいいじゃん」と思う方も多いかもしれません。だけど、わざわざ劇場に足を運んで「生のお芝居を観に行きたい」という人たちがいてくださることに僕ら役者は希望を持てるし、「がんばりたい」と思えるんです。

――最後に、舞台の見どころを教えてください。

溝端: 僕が演じるトーマスは、とてもわがままでエゴイストなので女性からは嫌われるタイプだと思いますが(笑)、次第にヴァンダにのめり込んでいく。2人の関係がどうなるのか――最後までハラハラする展開になっています。2人のやり取りは理性と欲望の戦いのようなものなので、一つ一つのセンテンスも見逃さずに観ていただけたらと思います。本作は、小劇場ならではの緊密な雰囲気のシアタートラムで上演されます。そこでの生のお芝居をぜひ体感しに来てください。

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●溝端淳平(みぞばた・じゅんぺい)さんのプロフィール

1989年、和歌山県生まれ。2006年に「第19回ジュノン・スーパーボーイ・コンテスト」でグランプリを受賞し、翌年のドラマ『生徒諸君!』で俳優デビュー。08年にはドラマ『ハチワンダイバー』や映画『DIVE!!』で主演を務め、10年に映画『赤い糸』で第33回日本アカデミー賞新人俳優賞。近年ではNHK朝の連続テレビ小説「スカーレット」(19年)や「ゴシップ」(22年、フジテレビ系)など。7月放送開始のNHKBS時代劇「善人長屋」に出演。

ヘアメイク:菅野綾香 スタイリング:黒田領
衣裳:シャツパンツともにシャリーフ(シアン PR)、他スタイリスト私物

●舞台「毛皮のヴィーナス」

オーストリアの小説家、レオポルド・フォン・ザッヘル=マゾッホの自伝的小説「毛皮を着たヴィーナス」をもとに、演出家と女優という登場人物2人だけの芝居に仕立てられた作品。8月20日~9月4日、東京のシアタートラムで上演される。

作:デヴィッド・アイヴス 翻訳:徐賀世子 /演出:五戸真理枝/出演:高岡早紀、溝端淳平

ライター。雑誌編集部のアシスタントや新聞記事の編集・執筆を経て、フリーランスに。学生時代、入院中に読んだインタビュー記事に胸が震え、ライターを志す。幼いころから美味しそうな食べものの本を読んでは「これはどんな味がするんだろう?」と想像するのが好き。
1989年東京生まれ、神奈川育ち。写真学校卒業後、出版社カメラマンとして勤務。現在フリーランス。
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