古川雄輝さん、「誤魔化しがきかない分、舞台は役者の技量が問われる」
「ズレ」が生じるのがおもしろい
――「室温」はケラリーノ・サンドロヴィッチが2001年に作・演出を手がけた舞台で、今回は河原雅彦さんの演出での再演です。人間の善と悪、正気と狂気の相反する感情を、恐怖と笑いに織り込んだホラーコメディだそうですね。
古川雄輝さん(以下、古川): そこは難しい部分でもあるんですけど、自分は「ズレ」が生じるのがおもしろいと考えています。例えば怖い話をしているときに、場にそぐわないものがテーブルの上にある、みたいな。この作品もホラーとコメディの「ズレ」があることが、観る人におもしろいと思っていただけるのかなと思います。
――先日、稽古が始まったと聞きました。手応えや稽古場の雰囲気はいかがですか?
古川: 稽古が始まって10日ほど経ちますが、今はそれぞれの役柄をひもとく時間。河原さんが台本から読み取ったり、感じたりしたことを元に、みんなで話し合いながら、役の共通認識をみんなで持つ、といったことをやっている段階です。
今回の舞台の音楽は「在日ファンク」のみなさんが、生でバンド演奏してくださるのですが、自分は、生のバンドと舞台をするのは初めてで。今は音源を少し流して稽古をしている段階なので、生の音楽と組み合わさったときどうなるのか――。これからが、すごく楽しみです。
「普通」に読めてしまうけど、奥深い
――古川さんは河原さんの演出について、どのように感じますか?
古川: 映像作品だとキャラクターについて考える時間があまりないんですが、河原さんは一人ひとりのキャラクターを奥深くまで考えています。稽古で河原さんがこの作品を読んだ感想を聞くと非常に新鮮。勉強になります。
例えば、普通だったら自分が演じる間宮から深掘りしていきそうなものですけど、河原さんは舞台のキャストにはいない、殺された妹のサオリからしていくんですよ。舞台には出てこない人物を深掘りすることで、他のキャラクターがどのように見えるのか――。稽古では河原さんからキャラクターに対して説明を受けたり、みんなで「この人はこの時どう思っているんだ」と話し合ったりすることが多いです。
――とある事件で殺害された少女の命日に、バラバラと集まってくる青年や警察官、謎めいた女性。そんな彼らが偶発的に絡み合い、やがて事件の真相が浮かびあがってくる。河原さんは「文学的で深淵であり、得体の知れない気味の悪さや違和感がベースになっていて絶妙なバランス」と評していましたね。
古川: ケラリーノ・サンドロヴィッチさんの脚本は、普通に読むと「普通」に読めてしまって、自分もそういう読み方をして稽古に入ってしまったんです。だけど、実際はかなり奥が深い。河原さんじゃないと多分、あそこまで読み込めないだろうなと、日々、発見ばかりです。
この作品では「あぁ」とか「へ~」といったセリフが多いのですが、それぞれに意味があって「あっ、これはそういうことだったんだ」と一つずつ確認していくので、なかなか前に進まないのですが(苦笑)。河原さんレベルで読むと非常に奥が深くて、稽古に入ってからはより難しい内容だなと思いました。
主人公の行動の理由は?
――古川さんは先日、演じる「間宮」について「脚本に書かれていない部分も見えてきて、稽古に入る前は『こうなんじゃないか』と思っていた人物像とは変わってきている」と話していました。今はいかがですか?
古川: 長井(短)さんが演じる赤井というキャラクターがいるのですが、間宮はその人に対しては素を見せています。その状況や関係の捉え方で、間宮がどういう人物なのかが決まってくる気がしています。
自分は最初、間宮のことを割と普通の青年で、「赤井とは地元が近いから砕けた口調なのかな」くらいの捉え方だったんですけれど、稽古に入ったら意外とそうではなかった。どちらかというと純粋で、かなりヤンキー気質な人物だということが最近になって分かってきました。
この作品は昭和末期の「女子高生コンクリート詰め殺人事件」がモチーフで、間宮はその人を殺すことが「救いになる」という、思想を持っているんですよね。「こうすることが正しいんだ」という感じなので、間宮の行為の理由も、当初考えていたものとは少し違うような気がしています。
――間宮は狂気性を秘めた犯罪者とのことですが、以前、古川さんがドラマ『殺人分析班』シリーズで演じた、冷徹無比な殺人犯・トレミーも印象的でした。
古川: 同じ犯罪者でも、トレミーと今回の間宮は大きく違います。トレミーはどちらかというとダークヒーロー的な感じです。ただ、あえて今回の間宮と似ている部分で言うと、「優しさ」ですかね。トレミーも間宮も、結局は優しいんですよ。だれかを守りたくて殺しているトレミー、間宮は「この人から悪魔を追い出してあげたい、救ってあげたい」と信じこんでいます。
「舞台」はごまかしがきかない
――「舞台では毎回、出来ないところがあって壁にぶつかる」とも言っていましたが、今回は?
古川: 毎回ぶつかる壁は違うんですけど、基本的に悩まずスムーズに行った記憶はないんです。いつも公演の中盤ぐらいから「やっといい感じになってきた」みたいなことが、ほとんどかもしれないです。でも、それは自分の性格上の問題でもあって、映像作品だと「ここは一発で決めないといけない」ということもあり、アクセルをフルに踏めています。一方、舞台では、もちろんきちんとやっているつもりなのですが、フルでギアが入らないことが多いのかなって思います。
今回は、本読みの時点で自分の捉え方が違うんだと気づき「これではだめだ」と、かなり早い段階で思って。すぐに解決できるようなことではなかったので、その後の稽古を通して出てきた、たくさんの疑問点も含めて、河原さんとしっかり話せたので、少し楽にはなってきました。
――舞台に挑戦するのは、あえてご自身に試練を課しているようなところもあるのでしょうか。
古川: それはありますね。やっぱり舞台を経験している役者さんの方が、圧倒的に芝居が上手だし、舞台の経験を積まないと芝居は上手くならないと思います。
今回共演する長井さんとは昨年もご一緒したのですが、稽古初日に長井さんがびっくりするっていう芝居をしたんです。セリフは「わっ!」の一言しかなかったのですが、それを見た時「この人できるな」って一発で分かりましたし、「舞台で相当、鍛えられたんだろうな」と思いました。
映像作品は、ある程度年数を重ねると慣れてしまうところがあって。音楽が流れたり、うまく編集されたりすることで、舞台ほど深掘りしなくても、うまくいってしまう時がある。舞台はごまかしがきかない分、役者の技量が問われるんですよね。だから、芝居が上手な人しか舞台には出ていないと思っていますし、自分も定期的に舞台の仕事はやっていかなければいけないと思っています。
――今、改めて舞台のどんなところに楽しさやおもしろさを感じますか。
古川: 楽しさやおもしろさを感じられるほど、自分は芝居が上手くないので、どちらかというと試練とか大変なことが感情としては大きいです。でも、うまくいかない分、少しでもうまく行った時はうれしいですね。あとは本番を迎えた時にお客さんの反応が良かったら、楽しさやうれしさを感じることができますね。
●古川雄輝(ふるかわ・ゆうき)さんのプロフィール
1987年、東京都生まれ。7歳でカナダへ。11年間を海外で過ごす。慶応大学在学中の2009年に「ミスター慶應コンテスト」でグランプリ受賞。翌年『キャンパスターH★50with メンズノンノ』にて審査員特別賞を受賞し、8月に役者デビュー。主な出演作にドラマ『イタズラなKiss~Love in TOKYO』(13年)、映画「リスタートはただいまのあとで」(20年)など。8月には主演を務める映画「劇場版 ねこ物件」が公開予定。
公演:東京の世田谷パブリックシアターで6月25日から7月10日/兵庫県立芸術文化センター 阪急 中ホールで7月22日から24日
作:ケラリーノ・サンドロヴィッチ
演出:河原雅彦
音楽・演奏:在日ファンク
出演:古川雄輝、平野綾、坪倉由幸(我が家)、浜野謙太、長井短、堀部圭亮 / 伊藤ヨタロウ ジェントル久保田
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