岩井勇気さん、『どうやら僕の日常生活はまちがっている』を刊行 「言いたいことをしっかり伝えるために書いている」

初のエッセイ集『僕の人生には事件が起きない』が10万部超のベストセラーになった、お笑いコンビ・ハライチの岩井勇気さん。新潮社より先日、刊行された2作目『どうやら僕の日常生活はまちがっている』では、小説にも挑戦しています。執筆を始めた理由などについて、お話を聞きました。

ラジオの経験で身に付いた“造語力”

――前作の初エッセイ集の反響はいかがでしたか。

岩井: 身近な人からの反応が意外と無くて、相方の澤部(佑)も、母親も読んでないんですよ。

――お母さんは本を15冊、買ったそうですが……。

岩井: 15冊くらい買ってたんですけど、「読んでない」って言っていて。意外な人からの感想はもらいましたけどね。島崎和歌子さんと磯野貴理子さんからは共演したときに、「エッセイ読んだよ、面白かったよ」って言われて。ターゲット層はその世代なんだって思いましたね(笑)。

――前作に続いて今回も独特のワーディングが楽しめました。たとえば今回のエッセイでは、積極的に通うイメージのヨガ教室に渋々行くことを“消去法のヨガ”と表現されていました。

岩井: 普段から造語をつくるのが好きなこともあって、“消去法のヨガ”といった表現が自然と出てきたんだと思うんですよね。言葉を合わせてつくった造語は、今作でも割と使っています。
こういうのが身に付いたのは、「ハライチのターン!」(TBSラジオ)といったラジオの経験からですかね。エッセイ自体のエピソードを組み立てるといった構成力についても、ラジオや漫才のネタづくりをする中で自然と培われたのかもしれない。

「あえて“変を装っている”と見られがち」だけど…

――エッセイでは、小学生の夏休みに行ったイベントや、団地暮らしの幼少期の思い出など様々な出来事のディテールが書き込まれています。よく詳細を覚えておられますね。

岩井: 一旦、思い出し始めると、蘇ってくるんですよね。こういう風に言ってたし、思ってたし、とか――。普段は全然思い出さないし、覚えてないんですけれど、書いていて“そういえば”ってどんどん広がっていくのは、楽しいですね。

――記憶が蘇ってくる感じなのですね。エッセイのエピソード自体は岩井さん固有の体験ですが、誰しもが経験したことであったり、共感できる思いだったりで、普遍性があると感じました。

岩井: あえて“変を装っている”と見られがちなんですけど、実際自分では「変」だとは思っていなくて、自分が感じたり考えたりしたことをエッセイではストレートに書こうとしました。起こったことに対して、人より深く考えている所はあるかもしれないですけれどね。それに“あるある”は好きなので、結構入れています。

――「地球最後の日に食べたいもの」では、空想的になりがちな話題を、現実に引き戻しています。

岩井: 地球最後の日に何を食べるかという話って、どこかみんな絵空事なんですよね。最後の日の心の持ちようや、気分が沈んだ状態での胃の状態を考慮して、“最後の日に食べたいもの”を話している人ってあんまりいない。だから、ちゃんと考えてみようと思ったんです。

――今回のエッセイ集には初の小説「僕の人生には事件が起きない」も。作家の羽田圭介さんからも小説を書くことを薦められたそうですが、小説ならではの難しさや楽しさはありましたか。

岩井: エッセイみたいに書きましたね。エッセイと小説の違いは結構、聞かれるんですけど、同じ風に見ています。エピソードをどのように書くかという点が異なるだけなので。
羽田さんから「パッケージだけ変えて小説にしたらいい」と言われたときに、「確かにそうだな」と思いましたし、ピースの又吉(直樹)さんも「小説もエッセイもやってること、同じやねん」って。しかも、小説を書いている作家の方がエッセイストより、丁重に扱われる気がするので。小説の方がいいかな。

伝わらない“ニュアンスや言いたいこと”

――もともと文章を書くことに興味は無く、幼なじみでもある澤部さんの方が読書感想文は上手だったそうですね。

岩井: そもそも文章が上手くなりたいと思って、エッセイを書き始めました。だから楽しさを見出すというよりは、自分の言いたいことをしっかり伝えるために書いている側面が強いですね。最近はテレビやラジオで話したことが、“書き起こし”されてネット上に出回って、ねじ曲がって伝わるじゃないですか。インタビューを受けてもこちらの意図とは違うように書かれることも多いですし。だから、文章が上手くなって、自分の言いたいことやニュアンスを正確に伝えられるようにしたいと思ったんです。自分でしっかり発信できるようになったら、間違いないですから。

――前作の『僕の人生には事件が起きない』を書いていた頃と比べて、文章力はいかがですか。

岩井: 1冊目の時点で大体、わかりました。1冊目は最初のエッセイと最後のエッセイでだいぶ力量が違うな、と感じるんですけど、2冊目はどれもよく書けたんじゃないかな。原稿はパソコンで書いています。時間は1冊目の半分くらいになりました。今は、3千字を2時間くらいで書いています。

――エッセイ執筆当初から編集者に文章を修正されなかったとか。

岩井: 編集の人に粗い感じでパッと出すんですが、誤字や句読点の位置、改行を直されるくらいだったんです。「すごいです」って編集の人から言われるんですが……。機嫌を損ねたら書かなくなるから、そう言っているんだろって疑っています(笑)。

――全編、平易な言葉での表現を貫いておられます。

岩井: 表現することに酔っている感じは、読んでいて気持ち悪いので。だからスルスルと読めるようにリズムよく書いていて、難しい言葉をこねくり回さないようにしていますね。

●岩井勇気(いわい・ゆうき)さんのプロフィール

1986年、埼玉県生まれ。幼馴染みの澤部佑さんとお笑いコンビ・ハライチを結成し、2006年にデビュー。ネタづくりを担当。2017年の「M-1グランプリ」で準決勝進出。芸能界きってのアニメ好きとしても知られている。現在は、「ハライチのターン!」(TBSラジオ)、「おはスタ」(テレビ東京系)などに出演。

『どうやら僕の日常生活はまちがっている』

著者:岩井勇気
発行:新潮社
価格:1375円(税込)

ハイボールと阪神タイガースを愛するアラフォーおひとりさま。神戸で生まれ育ち、学生時代は高知、千葉、名古屋と国内を転々……。雑誌で週刊朝日とAERA、新聞では文化部と社会部などを経験し、現在telling,編集部。20年以上の1人暮らしを経て、そろそろ限界を感じています。
カメラマン。1981年新潟生まれ。大学で社会学を学んだのち、写真の道へ。出版社の写真部勤務を経て2009年からフリーランス活動開始。
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