こだまさん「うつも、特殊な夫婦関係も、書くことで救われる。損したままでは終われません」
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この不調が、うつだとわかってよかった
――今回のエッセイ集では、日々こだまさんが日常から切り取ったさまざまな出来事に加え、持病からくるうつについても告白されています。エッセイで綴ろうと思った理由を教えてください。
こだま: 「うつ体験記」というようなかしこまったものを書くつもりは全然なくて、なんだかわからない不調が「うつだった」とわかって、病院に通っていることを、日常の出来事として書きました。
もともとうつの自覚はありませんでした。ただ、毎日の生活の中で電話をかけたり、人と接することがどんどんダメになってしまって……。ネットで知り合った方の助言で、まずは不安障害の相談でもしに行こうかしらと病院を予約しました。そうしたら、結果うつの診断がくだりまして。
でも、落ち込むこともなく前向きに「あぁ、これ、病気だってことは、治していけるんだぁ」と思いましたね。
「うつは怠け」という言葉の誤認について近年よく指摘されるようになりましたが、私は自分のことを本当にただの怠け者なんだと思っていたので。ずっと1日中パジャマのまま着替えもせず顔も洗わない毎日が続いていたのが、自己免疫の病からくるうつだとはっきりと原因がわかったことで、先が明るくなったような心持ちになりました。
――エッセイ内でも「うつ病に背中を押された」と書いていらっしゃいます。同じ病気でなくても、悩み苦しんだりもがいている人に、どのような言葉をかけますか?
こだま: 私、誰かに打ち明けたり相談することができないタイプで。
つい最近、悩みを持っている中学生に向けて文章を書く仕事をいただいて、自分の中学生の頃を振り返っていたんです。子どもの頃って周りから「なんでも相談しろ」と言われますよね。でも、それができない時点で「はじかれちゃった」気分になっていました。悩みを抱えながらも誰にも相談できない、そのこと自体にまた悩んでしまう、そういう人もいると思うんです。
だから、相談も打ち明けもしない自分を過度に責めなくてもいいんじゃない?と言いたいです。
――こだまさんの場合は「書く」ことがひとつの活路になっていますよね。
こだま: そうですね。家族にも周囲にも相談できない、そういう人はネットに吐き出してみてもいいのかもしれません。エッセイのように形にならなくても、ブログやちょっとしたSNSに書き出してみる。
反応が来なくても、書くだけで少しはすっきりして、自分の考えが整理されたりすることもあるかも。私はそんなふうにしてきましたね。
抜け出せない悩みでおかしくなってる時は、おかしくなっている「今」の心理状態を書いてみたら、その時にしか書けないものができるんじゃないかと思います。
身寄りのない者同士が一緒にいるような結婚生活
――依然として家族や身の回りの方には内緒で執筆活動を続けているこだまさん。ご自身の夫婦関係について「最初からうまくいかないことが重なって繋がった」と綴っています。それでも、どんな形であれ、ひとりではない。それは心強いことのようにも感じます。こだまさんは結婚をするということについてどう捉えていますか?
こだま: 子どもの頃から結婚願望のようなものはありませんでした。夫は大学時代に実家から離れて最初に出会って交際した相手で、内気な私がなぜだか緊張もせず、自然でいられた。その延長で結婚という運びになりました。
「仲良し夫婦」っていう感じでもないんですよ。お互い干渉し合わないですし。作家活動を始める前にもいろいろと仕事はしていたのですが、夫はきっと、私が何をしているのか知らなかったと思います。「夫婦」というよりも同じ家に住んでいるふたり暮らし、という感覚がしっくりきます。
――そうはいっても、別れることを選ばず一緒にいる理由はあるのでしょうか?
こだま: うーん。私も夫も、知り合いや友達が全然いないから、「身寄りのない者同士」って、感じなのかもしれないですね。結婚していなかったらお互い孤立して年老いていたんじゃないかと思います。そういう意味では性格的にふたりとも似たところがあって、「かろうじてひとりになっていない」ぐらいの結婚生活が続いているんじゃないですかね。
……と言いながら、私は夫のことを観察してエッセイに書いているんですけどね(笑)。自分でもそこはずるいと思っています。
――実は横目で見て、形にしているよ、と。
こだま: 夫は私がこういった活動をしていることをもしかしたら気づいているのかもしれない。気づいていて、何も言わないでいるかもしれないのに、私は夫を観察してあれこれ書いているから……。フェアじゃないなとはずっと思っているんです。夫が特殊な人で助かっているなぁという感じです。
不幸な目に遭っても、損をしたまま終わりたくない
――デビュー作の「夫のちんぽが入らない」が大ヒット、今回のエッセイ本は3作目になります。ご自身では「それでも家族は私の活動を知らない山奥の主婦」とおっしゃっていますが、執筆への向き合い方については変わりましたか?
こだま: 前作の『ここは、おしまいの地』で講談社エッセイ賞をいただいて、今後は奇抜なことだけじゃなくて自分の身の回りをもう少し深く書いていこうと思うようになりました。
ずっとチャレンジしようと思いながらつまずいているのが、小説の執筆です。
かれこれ2年ぐらい書けていなくて悩んでいます。構想は決まっているのですが、その世界に入っていけなくて。入り口で止まっちゃってる感じです。
――うつ症状を自覚しながら、それでも新しい作品を制作することについて、体力的、精神的な負担はありませんか?
こだま: よく考えたらそうなのかもしれないのですが、「この落ち込んだ気持ちをどうにか挽回したい」と思っているんですよね。こういう状況だからこそ動き出せているというか。
今回の書籍の中で、祖母が認知症を機に変わった行動をたくさんとるようになったことを「“確変”に入った」とエッセイで書いているのですが、それと似ているのかもしれません。私の場合は、うつがきっかけで、普段しないようなことに手を出しているのかなと思いますね。
――それが「書くこと」なんですね。
こだま: 元来内気な性格ではあるんですけど、内気な割に勝気で頑固なんでしょうね。
ピンチになったら、それ以上のものを得なければ気が済まないというか、酷い目に遭っても泣いて終わるのは嫌だなっていうか。性格自体は暗いには暗いんですけど、そこで何かを得たい、損したまま終わりたくないんです。意地汚いと言えるかもしれないですが(笑)。
――ピンチに直面した時に、そこの頑固さが出てくるという?
こだま: この性格は大人になってから顕著になっていきました。昔は人間関係にしてもなんにしても本当に狭い範囲で生きていたけれど、ネットやSNSを通していろいろな考え方の人に出会って触発されたんです。引っ込んで大人しく、耐えてるだけじゃなくていいんだって思えるようになったんですよね。周りの人から影響を受けてかなり変わっていったのだと思います。
「夫のちんぽが入らない」を出した時、タイトルの派手さから、本を読んでいないような人からもきつい言葉を投げかけられることはたくさんありました。はじめはひとつひとつに傷ついたり反省することもあったけれど、今は「うるさいっ!」ってはねのけられています。
活動についても、以前は誰にも知られたくないと思っていましたが、最近は気が緩んで「もう、これだけ本を出せたのだからどうなってもいいや」という甘い気持ちが沸いていますしね(笑)。
そのあたりはふっきれて、変われた部分かもしれないです。