時事YouTuberたかまつななさん「悩みながら生きていることを発信したい。SOSを求めることも、生きていくためには大事な力」(後編)
SOSを発信することが誰かに寄り添うことになる
――たかまつさんは、中学生のときに芸人活動を始めたそうですね。ご家族からは反対されませんでしたか?
たかまつななさん(以下、たかまつ): それはもう、猛反対されました。お夕食のときに「芸人になる」と言ったら、父がワインをテーブルにガーンって置いて……「遺憾である」と言われましたね(笑)。今の活動についても、ほとんど相談してないんです。NHKに入ることも、文春の報道で知ったと思います。両親の願いは、今もただひとつ。表舞台から引退して、専業主婦をしながら子育てするような生活なんです。でも、私には絶対にできない。分かり合えないことは確かだし、一緒にいることで迷惑をかけることもあるだろうと思うと、少し距離を置いたほうがいいのかなって。両親に心配かけたりもしたくないので。
――そうなんですね……。たかまつさんはどんなことにもきちんと主張されて、表向きには強い女性に見えます。でもnoteでは、「死にたいと思ったことがある」とか「何時間も泣いた」とか、弱い部分もさらけ出していますよね。人間らしくて素敵だなと思いますが、そのギャップに苦しんだり悩んだりすることはありますか?
たかまつ: それはもう、ずっとあります。多分、表に出ている人は全員あると思います。「お嬢様芸人」としてデビューしたときは、どんな些細なことでも、すべてに気をつけていました。いつ記者がいても問題がないように、もちろん信号無視なんてしませんし、庶民的なお店には入りませんでした。だって、お嬢様芸人が立ち食いをしていたらイヤじゃないですか(笑)。かなり徹底していたので、とても疲れていましたね。
――ご自身のキャラクターを維持するのも大変ですね。
たかまつ: あと、私はいつも怒っているイメージがあるかもしれません。番組では怒っているシーンの方がおもしろいし、実際によく使われます。だから、何かを発言するときは、あえて怒るようにしていたんです。あるとき、共演した方とトイレですれ違ったので、会釈しただけで「本当はいい人なんですね」と言われて……。いやいや、どれだけ怖い人だと思われてるの(笑)。何を言われても動じない女と世間から思われているみたいで、「繊細でガラスのハートですから」と言ってもボケとしてとらえられてしまうんです。つらいこともたくさんあるんだけどなあ……。
――人間らしいたかまつさんの姿に、共感している人も多いと思います。
たかまつ: 「私もこんなふうに悩みながら生きてます」と発信する方が誰かに寄り添うことになるんじゃないか、と思うんです。なので、内面はあえて出すようにしているかもしれないです。そうすることで、仲間が増えていく実感もあります。自分を強く見せること、キラキラした部分を見せることって芸能人のブランディングという意味では大切なのかもしれない。でもSOSを求めることも、生きるためには大事な力かなと思うんです。
手応えを感じたり、落ち込んだり……仕事で挽回していくしかない
――表に立つ活動をしていると、傷付くことも増えますよね。それでもブレずに立ち上がり続ける原動力はどこにあるのですか?
たかまつ: どうなんでしょう……立ち上がれているのか、分からないです。そのくらいギリギリでやってます。でも、私は仕事をすることで生きられていると思いますね。仕事で挽回していくしかない。心はいつ折れるか分からないから、今日心が折れたとしても、明日も来週も仕事がある。その中で手応えを感じることもあるので、そういうところでなんとか保っています。
NHKを辞めたことは、私の中では志半ばという気持ちが強いんです。やりたいことがたくさんあったので。同僚や先輩から「残念です」と言われるとそれがすごく苦しくて……もっとこの人たちと一緒に仕事をしたかった、という気持ちの方が強くて、後悔することもあります。でも辞めて1カ月ほど経って、NHKの先輩に「仕事で相談したいことがある」とお電話をいただいたり、「YouTube、素晴らしいから、私も手伝うよ」と言ってくださる方がいたり。届いてる人には届いてるんだとすごく感じます。動画が観られたり、記事が読まれることで、「(テレビじゃなくても)できてる」という手応えを感じたり。日々、そういうことの積み重ねです。最近、私がつくった「#先生死ぬかも」というハッシュタグがTwitterでトレンド入りしたことで、ニュース番組に取り上げていただいたんです。報道は何か動きがないと取り上げられないので、「動き」自体を作り、想いものせられたのはすごく大きな出来事でした。とはいえ、手応えがあっても、また誹謗中傷のコメントで落ち込んだり。それの繰り返しです。
――若い世代に向けて伝えることを大事にされていますが、たかまつさんと同世代や上の世代に対してはどのように考えていますか?
たかまつ: そこは区別していません。同世代にも上の世代の方にも、伝えていきたいと思ってまいす。でも、人の固定概念を崩すのは難しいので、若い人たちに新しく考えてもらう方がはるかに早いと感じています。
私が社会問題を発信しはじめたのは20歳の頃。今27歳ですが、この7年で相当情勢が変わりました。特にLGBTQについて。以前は、私が「恋愛したことがない」というとテレビでも「レズビアンなの?」と言われました。でも、今ならそのシーンはカットされますよね。ブスいじりも極端になくなりました。童貞はまだネタにされていますが、そろそろネタにされなくなるでしょう。これは、炎上という外圧もあるかもしれませんが、単に世代交代だと思うんです。生きてきた時代が違うと、考え方や価値観も相当違います。世代が変わるって、すごく大事なこと。
世代交代すれば社会問題はある程度解決されますが、世代で分断して終わりでは意味がないので、私より上の世代の方にもYouTubeを見てもらいたいです。
まずは「自分が幸せである」ことが大事
――たかまつさんもこれから、結婚や妊娠・出産など、ライフステージの変化を経験するかもしれません。今後のことで、意識していることはありますか?
たかまつ: 先日どなたかがTwitterで「たかまつななは生涯独身を決めてそう」ってつぶやいていたんですよ。いやいや、待って! 私、生涯独身なんて全然考えていないです。この誤解は解いておきたい(笑)。「いい人がいたら紹介してください」といろいろな方に言うんですけど、本気だと思われてないみたいで。結婚もしたいし、子どもも欲しい。社会問題を訴える活動をする上で、子育ても経験してみたい。当事者になって分かることもあると思うので。とはいえ、結婚といっても、これまで恋愛経験が皆無だったので、どうしたらいいのか本当に分からないんです。
――たかまつさんが出会いたいと思っている「いい人」とは、どんな方ですか?
たかまつ: 政治や社会問題の話をしっかりできる方がいいですね。あと、私の背中を押してくれる人。私は気持ちの浮き沈みがすごく激しいので、それに対して正論を言うんじゃなく「気にしなくていいんだよ」とぎゅっとしてくれるような大人が理想です。
■たかまつななさんのプロフィール
フェリス女学院出身のお嬢様芸人として、テレビ・舞台で活動する傍ら、 お笑いジャーナリストとして、お笑いを通して社会問題を発信している。18歳選挙権を機に、若者と政治の距離を縮めるために、株式会社笑下村塾を設立。東京大学大学院情報学環教育部、慶應義塾大学大学院政策メディア研究科を卒業。現在はお笑い界の池上彰目指し、「笑える!政治教育ショー」を行う株式会社笑下村塾の取締役として主権者教育の普及・啓発や講演会・シンポジウム・ワークショップ・イベント企画など手がける。SDGsの普及活動にも従事。
お笑い芸人と学ぶ13歳からのSDGs
著者:たかまつなな
発行:くもん出版
価格:1,650円(税込)