「女性が風俗を利用してもいい。自分と向き合う時間を提供したくて、風俗の看板を掲げた」レズ風俗店オーナー橘みつさん(後編)

一流大学を卒業し、エリートとして新卒入社を果たしたにもかかわらず、双極性障害を理由に3カ月でクビになってしまった、橘みつさん(27)。銀座でホステスとして働いたのちに「女性向け風俗」の世界へ。現在は対話型レズ風俗店『Relive(リリーヴ)』を経営しています。今もオーナー兼キャストとして働く橘さん。後編では、レズ風俗という仕事で出会う女性たちがどんな人々なのかを聞きました。

風俗を利用する女性も、どこにでもいる普遍的な女性たち

――これまで「男性のもの」でしかなかった風俗業界の中で、レズ風俗は今どんな立ち位置なのでしょうか?

橘みつさん(以下、橘): 数年前に永田カビさんのエッセイマンガ『さびしすぎてレズ風俗行きましたレポ』が流行った時に、ブームが来た時もあったようですが……。基本的には“成功するのが難しい業界”と見られています。そもそも男性に比べたら、女性で風俗を使いたいと思う人が利用しづらい雰囲気も未だにある中、ここ数年で女性向け風俗店の数が増えたので、少ないパイを取り合っている状態です。

また、男性向け風俗の働き手を増やす目的で看板だけのレズ風俗を姉妹店として経営している場合もあり、レズ風俗の方でお客様がつかないことを理由に男性向け風俗店に在籍を変更させる店舗もあります。

――そんな業界でやっていくことに、不安はありませんでしたか?

橘: 自分がやりたかったコミュニケーションや接客を実現させるために、どんな業態がいいのか模索していました。それに適しているのが「レズ風俗」という業態だっただけ。私が重視していたのは自分がやりたいこととのマッチング率だったので、対価さえきちんと得られるのなら大儲けできなくてもいいと思っていました。

――橘さんがこの仕事に感じるやりがいはなんですか?

橘: 多くのお客様が「リリーヴに出会えてよかった」と言ってくれることでしょうか。そう言ってもらえる時、本当にこの仕事をやっててよかったなと思います。 

お客様の中には、レズ風俗を探していたわけではなく、どこかじっくりと話せる場がほしかったという理由で来てくれる人も多いんです。自分のこれまでの日常や選択してきたものに迷いが出たときに、リリーヴをめがけてきてくれる人が多いということがとてもうれしいです。

――そういうお客様でも、身体的接触も楽しんで帰られることが多いんですか?

橘: 結果的に必要とする人が多い、という実感ですね。
パートナーとのことだったり、性経験の少なさとか、悩み自体が性的な内容であることが多いので。もっと他者とのコミュニケーションに自信をつけたい、単純に人肌に触れることで安心したいという人もいます。

――男性キャストを派遣する女性向け風俗もあるなかで、あえて女性たちが女性キャストを選ぶ理由はなんだと思いますか。

橘: 男性から暴力を振るわれたなどのトラウマを持っていたり、男性身体に恐怖を感じていたりする人たちもいらっしゃいます。そもそも女性の身体だと、暴力による望まない妊娠のリスク・骨格や筋肉量の差による危機回避の難しさを含め、あらゆる被害がより容易に想像できます。
そういう恐怖心を感じないですむのが、同性キャストが接する一番のメリットでしょうか。女性であることが大事なのではなく、男性でないことが大事だと考える層がいるのは事実です。

――実際にリリーヴを利用される方たちは、風俗を必要としない女性たちと比べると、何か特殊な事情を抱えていることが多いですか?

橘: いえ、当店を利用してくれるお客様たちも、風俗利用を考えたことがない女性と同じ、どこにでもいるような女性たちです。何かを深く考えなければいけないタイミングに差し掛かっていて、自分に向き合いたいと思ったのではないでしょうか。ただその時、お店を利用することで何かつかめるかもと思いついた……というだけ。

自分で解決していける人もいれば、誰かに相談したいという人もいて、適切な相手を身近で見つけられなかったという人たちにより多く利用していただいているんじゃないかというのが実感です。

 

何をしても許される時間を与えられるのが「風俗」の便利さ

――悩みや生きづらさを感じる女性たちに、何か特徴や共通点はありますか?

橘: 「人生を諦めきれない」人が多いと思います。自分の毎日にもがいて、人生こんなもんかと思いながら飲み込んできた過去を、きちんと引き戻して考えたいと思っている人たち。

だから、大きな分岐点で来てくれる人も多いんですよね。結婚や離婚、転職や年齢の節目とか。人生の分岐点に立った時、誰かに相談したかったり、背中を押してほしいと思う女性たちの駆け込み寺的な役割を担っているんじゃないかなと。

――結果的に身体接触があっても、リリーヴに来る女性たちが求めているのは、風俗的要素ではないということですか。

橘: 風俗店として期待される興奮を伴う快楽から、人肌に安心するようなスキンシップまで、当店でも要望は多岐にわたります。とはいえ、行為が自分と向き合うために必要になってくる要素のひとつでしかなかった……というケースが多いのは確かです。
また、ランキングで競わせるようなお店では、お気に入りのキャストを指名し続けて応援する楽しさもあり、いわゆる“推し産業”的な要素も含まれています。一方、リリーヴに来てくれる女性たちは、キャストを推してきてくれているというよりは、あくまで自分の普段の生活を中心に目が向けられていて。しんどい毎日を乗り越える糧やごほうびのように私たちを求めている人が多いです。

――今年は新型コロナで、誰もが思いもよらぬ生活を強いられていますが……女性たちの悩みなどに変化はありましたか。

橘: お客様のお悩みに関しては、外出自粛から家族や近所の目などをストレスに感じている人が多いなという印象です。

5月ごろの自粛期間はオンラインで営業していて、性的なことをせずお話しだけするコースしか利用できなくなっていたのですが、それでも一定数の需要があることが分かったのは大きかったですね。風俗店なのに身体接触も性的なこともナシ。いよいよ何屋なのかよくわからなくなってきたけれど(笑)。

――最後に、リリーヴを利用してみたいと思った読者に向けて、メッセージをお願いします。

橘: 私は今「レズ風俗」の看板を掲げているけれど、私がお客様に提供したかったのは、お客様が好きに使える時間なんです。触れ合ってもいいし、食事に行ってもいいし、話をしているだけでもいい。そういう自由な選択ができる業態が、たまたまレズ風俗だったというだけ。

でも風俗店だからこそ、気軽に選択してもらえたらいいなと思います。悩みがまとまっていなくてもいいし、答えは出なくてもいいんです。ただ、もやもやしている何かをそのままにしたくないと思ったら、私たちに会いに来てください。

 

●橘みつさんのプロフィール
1993年生。対話型レズ風俗「Relieve」オーナー兼キャスト。新卒で就職するも3ヶ月で職を失う。銀座のクラブ、百貨店販売員など転々とした後、レズ風俗店で働き始める。18年2月独立し現店舗を開業。

1992年生まれ・フリーライター。広告業界で絵に書いたような体育会系営業を経験後、2017年からライター・編集として独立。週刊誌やWEBメディアに恋愛考察記事を寄稿。Twitterでは恋愛相談にも回答しています。
熊本県出身。カメラマン土井武のアシスタントを経て2008年フリーランスに。 カタログ、雑誌、webなど様々な媒体で活動中。二児の母でお酒が大好き。