「普通の家庭を持ちたい」性行為にトラウマを持つ29歳女性が結婚を焦るワケ

大手IT企業で営業として働いている、市川真由子さん(仮名)。仕事も順調、プライベートも華やかだという市川さんの悩みは、29歳を迎えたその日から始めた婚活。結婚よりもとにかく子どもが欲しい、そう話す理由とは……。

仕事は楽しいけれど、恋愛だけはうまくいかない

 「私、どうしても性行為が好きになれないんです」そう話すのは、市川真由子さん(仮名・29歳)。現在大手IT企業で営業として働くキャリアウーマンです。仕事も順調だという彼女の悩みは、最近はじめた婚活のことなのだとか。

 「中堅大を卒業し、営業として働いています。ある程度数字をキープしてきたこともあり、ステップアップして今の大手企業に就職しました。仕事は楽しいし、プライベートも友達に恵まれて充実しています。うまくいっていないのは、恋愛だけ……」

そう話す市川さんは、営業だけあって、コミュニケーション力も高く、親しみやすい人柄です。

 「恋人を作れない、というわけではありません。できても長続きしないことが多くて、元カレの数ばかりが増えてしまいます。すぐに恋人が変わるので、友人にも話しづらくなってしまい、今では相談もなかなかできません。

 破局の理由はたいてい、性生活における価値観のズレです。私は正直言って、性行為にトラウマがあります。好きになれないんです。恋人関係で性行為がないことは、なかなか受け入れてもらえないこともわかっています。努力はしているけれど、どうしても好きになれない。交際する相手とも、最初から我慢できなかったり、最初はできてもどんどん我慢できなくなって、結局行為ができず破局してしまうことが多くなりました。アセクシャル(無性愛)なのでは、と聞かれたこともあるけれど、そうではありません。私の場合、精神的には恋愛対象が必要だと思っています。でも、行為だけができないんです。

20歳の時、卵巣囊腫が見つかり、卵巣をひとつ摘出しました。手術のあとから、性行為が怖くなってしまったんです。囊腫があった頃から長い間、下腹部の痛みに悩まされていて、お腹の違和感にトラウマができてしまいました。今でも行為をしようと思うと痛くて無理だったり、運良く痛くなくても気持ちよさはありません」

とにかく子どもがほしい。29歳で始めた婚活

市川さんは、精神的には恋愛がしたいと思うものの、性の価値観の不一致で恋愛がうまくいかなくなってしまうことを、気に病んでいます。

「男性は好きだし、甘えたい、頼りたいなって思う。でも、行為はしたくないんです。キスまではうれしいけれど、それ以上はしなくて済むならしたくない。付き合う前に、性行為が得意ではないことを納得してもらってから付き合っても、結局長続きしません。嫌だと言っても無理やり行為を進めようとされて、私から無理になることもあれば、いつまで経っても進展しない関係に愛想をつかされることもあります。

でも私、結婚はしたいんです。卵巣をひとつ摘出してから、若さへの執着が強くなった自覚があります。人より子どもが生みづらいかもしれない、私には時間がないんです。30代になってからでは子どもが産めないかもしれない。シングルになったっていいから、子どもだけはほしいんです。家族がほしい。性的な結びつきがなくても強く結ばれる存在がほしいのです」

市川さんは29歳を迎えたその日から、婚活を始めました。なるべく早く子どもを生みたい。その強い意思で積極的に前に進んでいます。 

「子どもはほしいので、そのためならなんでも努力したいとは思っています。私が作るべきは彼氏ではなく、同じ目的を持った人との結婚なのではないか。29歳になってすぐ、婚活系のマッチングアプリを複数使いはじめました。

結婚してしまえば簡単には別れられないし、子作りもできる。そのためなら性行為にも向き合えるんじゃないかなと思って。だから、婚活で出会う人には、自分の事情を包み隠さず話すことにしています。もちろん引かれてしまうことも多いけれど、そんな人と話している時間すらもったいない」

願いは「ただ、普通の家庭を持ちたい」

子どもを作るための結婚なら頑張れるのかもしれないと話す市川さん。不安はないのでしょうか。

「たしかに、子作りという目的があっても、性行為ができるかどうかはわかりません。結局痛くて無理かもしれない。そうなったら、体外受精でもいい。お金は私が負担する前提です。婚活で出会う男性には、最初にそういう話をします。とにかく、トライする場を設けてくれる人を見つけたいんです」

矛盾に苦しみながらも、精神的な絆で結ばれる「家族」を作りたい。市川さんの気持ちは痛いほど伝わります。

「結婚という形を諦めて、子どもだけ持てばいいのかなと考えたこともありました。でも、やっぱり私はできる限り一般的な家庭を持ちたいと思っています。卵巣を摘出した日から、どこか私自身が普通ではなくなってしまったという思いがあって。形だけでも、普通の家庭を持ちたい。一人の女性として子どもを産んでみたいんです」

1992年生まれ・フリーライター。広告業界で絵に書いたような体育会系営業を経験後、2017年からライター・編集として独立。週刊誌やWEBメディアに恋愛考察記事を寄稿。Twitterでは恋愛相談にも回答しています。
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