空手・清水希容さん「競技者としての引退はあっても、空手家としての引退は、生涯ない」将来は指導者として魅力を発信!
——改めて日本(沖縄)発祥の空手という武道の魅力を教えてください。
清水希容さん(以下、清水): 一番は、どこででもできるということ。それから、年齢を問わない。下は3歳ぐらいから、上は90歳くらいの方もたくさんいらっしゃいます。全身運動で、左右対称の動きが基本なので、効率的な身体の使い方を学ぶことができると思います。
——空手というと、対人競技で相手を突いたり、蹴ったりする「組手」をイメージする人も多いでしょう。清水選手が出場する「形」競技は、単独で行う演武で、審判による採点で勝敗が決します。
清水: ただ技を披露しているわけではなく、一つひとつの動きに意味があり、相手がいることを想定しながら攻防を繰り広げているのが形です。また、様々な種類がある形はいずれも、長い歴史を通じて受け継がれてきたもので、技には思想が込められている。それを理解した上で演武するところも、すごく好きです。
一瞬でも隙をみせたら倒される…自然と険しい表情に
——直接、相手とコンタクトする近代の空手(極真会館などのフルコンタクト空手)ではなく、伝統派と呼ばれる空手の形競技に取り組んだそもそものきっかけは何だったのでしょうか。
清水: たまたま入った道場が伝統派で、先輩がやっていた形がものすごくかっこいいと思ったからですね(笑)。日本にはいくつもの空手がありますが、出所はひとつ。私の中では区分はしていなく、大きく「空手」だと理解しています。
——ところで競技中の眉間に皺が寄った険しい表情と、普段の表情にはギャップがあり、まるで別人のようです。
清水: ハハハハ。それはよく言われますね。「スイッチが切り替わる瞬間は?」 と質問されることも多いんですけど、私自身は切り換えようと思って表情を作っているわけではない。先ほども言いましたが、演武中は相手がいることを想定して戦っているので、一瞬でも隙をみせたら倒される。だから自然と険しい表情になるんじゃないかと思います。
——演武は演舞ではない、ということですね。
清水: 空手は「舞(まい)」ではありませんし、試合は演技する場ではない。自分の「ぶさい」をいかに表現するか、だと思っています。突きや蹴りといった技の順番は、演武する形によって決まっていますが、表現の仕方はひとそれぞれ異なります。
——「ぶさい」というのは「武才」という漢字を充てればいいのでしょうか。
清水: はい、そうです。武の才能ですね。私自身も組手の稽古に取り組んでみて、相手との間合いを計りながら実際に相手に突いたり、蹴ったりすることで、ひらめきも増えますし、武才が拡がっていくと思っています。
空手の世界ではまだまだ若手 円熟味はこれから!
——競技者としてのピークをどう考えていますか。
清水: まだまだ私は若手で、20代後半から30代半ばでピークを迎えるような気がしています。空手を世界のアスリートと競うスポーツとすると、やはり肉体には限界があるでしょう。ただ、空手を「武道」として考えると、年齢を重ねれば重ねるほど技術や表現が円熟味を帯びると思っています。空手は年齢を重ねれば重ねるほど、味が出てくる。競技者としての引退はあっても、空手家としての引退は、生涯ないと思います。
——来年の東京五輪では、金メダルを当然のように期待される立場です。
清水: 空手界で、五輪に出られるのは、男女の全8種目をあわせても世界で80人だけです。空手界を代表して出場する覚悟を持ち、かつ日本発祥の競技なので、絶対に負けられないという気持ちもある。金メダルは当然として、自分が納得できる良い演武をする。このふたつは必須ですね。
——五輪後の空手界のために、取り組んでいることはありますか。
清水: 五輪を機にいかに人の目に触れてもらうか。空手の魅力をひとりでも多くの人に知ってもらうために今、頑張ることこそが、五輪後の空手界にかなり大きく影響するんじゃないかと思います。
ただ、五輪の有無によって、私自身の空手に対する熱量が変わることはないし、今やるべきことも変わらない。空手はもともと五輪競技じゃなかったので、そう思えるのかもしれませんね。もし中止となったとしても、すべてが終わるわけじゃない。
軽い気持ちでのチャレンジ、人生には大事!
——やりたいことが見つけられない女性は多いように思います。見つけられたとしても、なかなか一歩を踏み出せない人もいる。どんなアドバイスを贈りますか。
清水: 空手家の目線から言わせてもらうならば、空手は立てるスペースさえあれば、できる。「武道」というと、ちょっと堅苦しいと思われるかもしれませんが、最近だと「美空手」といって、エクササイズとして取り組む空手だってあります。要するに、〝これをやらないといけない〟と思ってしまうと、ストレスになるので、やりたいという気持ちがあるならまずは軽い気持ちでチャレンジしてみることが人生では大事なような気がします。
——五輪以外の夢はありますか。
清水: 私の中で空手は、人生において絶対に外せないもの。空手はずっと続けますし、引退後は指導者になりたい。どうしてもこの世界は、男性の指導者が多く、女性は少ない。しっかり指導ができて、自分で動くこともでき、空手の魅力を世界に発信していけるような指導者を目指していきたいですね。
●清水希容(しみず・きよう)さんのプロフィール
1993年生まれ。大阪府出身。兄の影響で小学3年から空手を始める。東大阪大敬愛高、関西大学文学部卒。現在はミキハウス所属。2013年の全日本選手権で史上最年少の20歳で優勝し、昨年まで7連覇。14年と16年の世界選手権女子形では優勝し、18年は2位。五輪での世界王者奪還を目指す。
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