「1人の言葉が、表現者をつぶすこともある」 パントビスコさんが語る、ノイジーマイノリティーの怖さ(後編)

新刊「パントビスコ ここだけの話だよ。」を6月27日(土)に発売したばかりのマルチクリエイター・パントビスコさん。SNSで多くのフォロワーに支持される一方、なかには心ないコメントを送ってくる人も……。SNSの使い方・付き合い方に対し、パントビスコさんからお話を聞きました。

本当に伝えたいことは、「パントビスコ」として発言する

――パントビスコさんの作品を見ていると、日常生活でなんとなく感じていたことが言語化されていることも多く、驚きます。情報のインプットはどのようにしていますか?

パントビスコさん(以下、パントビスコ): インプットはほぼしていないです。おもしろい人はいっぱいいるので、それに影響されて同じようなことを描いたら、模倣になってしまいます。深層心理でオリジナルと思ってしまう危険性があるので、イラストレーターさんはなるべくフォローしないようにしています。あえてインプットはせず、なるべく他業種の方をフォローしていますね。作品は僕が考えたり体験したりしたことが元になっています。まったくゆかりのないことを付け焼刃で描いても、誰にも響かないですからね。

――確かにマネしようと思わなくても、いいなと思ったものに影響されてしまうことってありますね。

パントビスコ: 年間1000本以上の作品を描いているので、たまに似たような作品が先に出ていることもあるんです。イラストに限らず、歌詞の一部だったり、芸人さんのネタだったり。すると、「どこどこの誰が言っていたやつですね」と伝えてくる方もいます。僕も負い目があればその通りだと思いますが、まったく知らない人の作品を出されると穏やかではない気持ちになるんです。
僕からすると、切り口や言葉が似ていても自分がゼロから考えたまったく違う作品です。どうしても、年間1000本以上作っているとどこかでそういうことがある。私の作家としての悩みのひとつです。

――最近、SNSの使い方に関することをよく発信されています。キャラクターの言葉ではなく、ご自身の言葉として投稿されているのが印象的でした。

パントビスコ: これまでは、自分の意見を表に出さないようにしていたんです。ただ最近は人前に出ることも増えましたし、本人名義で責任を持って発信したほうが伝わるなと思うように考え方が変わりました。
自分の思いをキャラクターに託すと、制限が出てきてしまいます。短い言葉で端的に、ちょっと遠回しで伝えないといけない。そうすると違う伝わり方をしたり、伝えたい人に伝わらなかったりします。矢面に立つことは大変な部分もありますが、自分の言葉で伝えたいことはパントビスコとして発信することにしました。

――自分の思いを発信することは怖いと思いませんでしたか?

パントビスコ: もちろんそう思いますが、SNSのもっと怖いところは、フォロワーから表現者にダイレクトに言葉が届くことです。平気でタレントさんや表現者に、「死ね」とか「むかつく」などとDMを送る方がいます。昔だったら、テレビの前で野次を言っていたのが、今は本人に直接言えるようになってしまった。これは本当に怖いことです。

9999人に愛されていても、1人の言葉で命を絶つ人もいる

――そうやって、ネガティブな言葉を不用意に投げつける方もいるんですね。

パントビスコ: 僕は少ない方だと思います。でも、たった1人に「全然おもしろくない」「やめてしまえ」と言われると、それが全てだと思ってしまうんです。仮に1万人フォロワーがいて9999人が楽しんでくれていても、1人にそう言われると「みんなからそう思われているの?」と。
人って不思議なことに、なにも言わない9999人より、めちゃくちゃなことを言ってくる1人の声をすべてだと思ってしまうことがあります。そう言う人をノイジーマイノリティー(声高な少数派)と呼びます。
日本でもノイジーマイノリティーによって、悲しい事件が増えてきていると感じます。だからこそ、「好き」ということは、もっと伝えたほうがいいと思っています。

――なるほど。「好きです」「ファンです」というのも迷惑なのかと思っていました。

パントビスコ: 例えば、スーパーでも「お客様の声」がよく貼ってありますよね。その多くが「対応がよくない」とか「ガッカリした」という苦情が多いですよね。ポジティブなことは、わざわざ言わないんですね。いいことはちゃんと伝えて、悪いことは相手のためになることであれば、信頼関係がある前提で言う。信頼関係がないのに言うのは、お節介を通り越したただの嫌がらせといっても過言ではありません。

――苦情は言わせておけばいいと言う人もいます。

パントビスコ: 確かに、事情を知らない方は、放っとけばいい、言わせておけばいいんだよ、と言いますね。それが理想だとは思うのですが、そうすると彼らは図に乗るんですね。「怒られない=許されるもの」という認識を持ってしまうんです。限度を超えると最悪の結果になることもあるし、彼ら自身が捕まることもあります。ごくごく一部の方たちが、表現者をつぶしている。その事実も知ってほしいです。

――私たちもSNSの使い方をもう一度見直すべき時ですね。とはいえ、SNSでお仕事を依頼されることも多いそうですね。

パントビスコ: はい、おかげ様で手が回らないぐらいオファーを頂いております、感謝しかありません。本当は時間があったら無限にお仕事をやりたいんです。ただ時間は有限ですし、僕の手も一本しかないので、いろいろ考えて選ばせていただいています。お互いにとって得になる仕事かどうかという目線は常に持っています。愛があるか、歩み寄りができるか、ということも見ます。

――SNSの先に生身の人間がいると思っていない方も多いんですね。

パントビスコ: そうなんです。私よりも女性の方がきつそうです。女性タレントさんに卑猥な写真や言葉を送りつけてくるような方もいると聞きます。怒られないから許されていると思っているんでしょう。こうなったら、今後はSNSの刑務所を作ってほしいですね。アルカトラズ島みたいなところに、1年間収監とか。(刑務所をつくるための)クラウドファンディングをやろうかな……。もしくは、悪口チケット制もいいですね。すべてのユーザーが引き落とし口座を登録して、悪口を言ったらどんどんそこから引き落とされて、被害者に振り込まれるとか。

私は打たれ弱いんです。打たれ強すぎたら、調子に乗って何回か炎上しているかもしれません。だから、神経質で、臆病でよかったなと思いますね。今でも投稿するときは、誰か傷つけてないかと何度もチェックします。実際、後で気付いて作品を削除したこともあります。ただ、やり過ぎるとクリエイティブの幅がめちゃくちゃ狭くなって、超薄味クリエイティブになる。そこはなんとか抗ってやっています。
私のフォロワーにはタレントさんも多く、ものすごく困っているのにイメージ的にも大々的に発信できないという方も多いと思います。お節介ながら、SNSに関する気付きはパントビスコとして伝えていきたいです。

『パントビスコ ここだけの話だよ。』

SNS 総いいね!数 ナント1億回を誇る、マルチクリエイター・パントビスコによる最新刊。数ある作品群のなかから、ファンから絶大な支持を得ている「LINEシリーズ」が待望の書籍化!

著者:パントビスコ
発行:扶桑社
価格:1,430円(税込)

フリーランス。メインの仕事は、ライター&広告ディレクション。ひとり旅とラジオとお笑いが好き。元・観光広告代理店の営業。宮城県出身、東京都在住。
フォトグラファー。北海道中標津出身。自身の作品を制作しながら映画スチール、雑誌、書籍、ブランドルックブック、オウンドメディア、広告など幅広く活動中。
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