カレー沢薫さん「30代のうちに『終活』を考えてもいいんじゃないか」(前編)

バリキャリの伯母の孤独死……結婚していてもしていなくても、結局死ぬときは一人だと気づいたミレニアル女子の終活ストーリーを描いた『ひとりでしにたい』が話題です。終活より婚活が先!と思っているミレニアル世代にカツを入れる一冊を描いたカレー沢薫さんに、いま、telling,読者に伝えたいことをうかがいました。

憧れだった伯母が風呂場で「汁」になって、まさかの孤独死。そして、残された遺品はなんとバイブ……。衝撃の出だしが話題を呼んだ、カレー沢薫さんの最新コミック『ひとりでしにたい』①(講談社)は、35歳・独身の山口鳴海が「婚活」ではなく「終活」を始めるストーリーです。

両親の介護、貧困、近づいてくる怪しげな男たち……。老後への不安と焦りが募る中、私たちが孤独死を避けるためにしなければいけないこととは何でしょうか? 歯に衣着せぬカレー沢薫先生にお話をうかがいました。

老後のことは早めに考えておいたほうがいい

――『ひとりでしにたい』、大変興味深く読ませていただきました。どのようなきっかけで本作を描こうと思われたのでしょうか?

カレー沢薫(以下、カレー沢): 今、私は30代後半で、結婚はしていますが、子どもはいません。たぶん、もう子どもはつくらないだろうな、という状況で、けっこう先のことが見えてきまして。

結婚していても、旦那が先に死んだら、結局はひとりで老後を迎えることになる。「順当にいけば、ひとりだな……」と思うようになったとき、老後、ひとりになったときにどうすればいいのか、ぜんぜんわからないことに気がついたんです。

そのときに思ったのは、老後、ひとりになってから考えても困るだろうな、ということでした。30代のうちに先のことを考えても遅くはない。30代のうちに「終活」を始めてもいいんじゃないか、と思うようになったんです。

――「終活」は30代から始めても早すぎることはない、と?

カレー沢: はい。最近、「孤独死」とか「老後破産」とか「老後資金に2000万円必要」とか、老後に関して人を不安にさせるようなニュースがたくさんありますが、「じゃ、どうすればいいの?」という答えはまったく見えてきませんよね。私自身がどうしたらいいのか知りたかったので、ならば自分で調べてわかったことをマンガにすればいいんじゃないかと思ったのがきっかけです。

――『ひとりでしにたい』には親の介護の問題も登場しますが、主人公の鳴海と同じで自分も知らないことだらけだと痛感しました。カレー沢先生はイチから勉強していったのでしょうか?

カレー沢: そうですね。介護や終活についての本は、実はたくさんあるのですが、そこまでたどりつかない人が多いのだと思います。不安になったとき、「不安だから考えないようにしよう」と考えが止まってしまう。そこへいきなり、「老後に2000万円必要」と言われると、「そんなの無理!」と思ってしまうのでしょう。あとは「なるようになる」と思ったり(笑)。

――「なるようになる」とか「潔く死のう」とか。

カレー沢: でも、潔く死ねませんからね。「70歳ぐらいで死ぬ」という考え方は大間違いです。いつかは死ぬことはわかっていますが、ちょうどいいところで死ねないこともわかっている。年をとってから考えるのも難しいじゃないですか、頭もぼんやりするかもしれませんし。だから、老後のことは早めに考えておいたほうがいいですよ、と。

――女性だけでなく、男性も読むべきですよね。むしろ、男性のほうが孤独死する割合は圧倒的に高いわけですし(東京都監察医務院によると、孤独死は男性8割に対して女性2割)。

カレー沢: 『ひとりでしにたい』の主人公はたまたま女性ですが、男性でもぜんぜんあり得る話だと思います。

「結婚すれば勝ち」という発想は危険

――どうすれば孤独死しないかと考えたとき、婚活や親の介護など、人生のさまざまな要素が全部絡み合っているという指摘が大変興味深かったです。

カレー沢: 調べていくと全部つながってくるんです。たとえば、終活と親の介護の問題は切っても切り離せません。親の介護に直面したとき、どうしていいかわからなくて自分の老後のためのお金を使ってしまい、老後資産がなくなってしまうというケースはけっこうあるようです。自分の老後のために、まず親の老後のことを考えなければいけないんです。

――焦って婚活アプリを使って相手を探そうとすると、変な男にひっかかってしまいがち、というエピソードもリアルでした。

カレー沢: そもそも「結婚すれば老後は安泰」という考え自体が間違っています。結婚すること自体はいいのですが、「結婚すれば安心」「結婚すれば勝ち」という発想は危険だと思います。

――子どもができたら、またお金がかかりますし……。

カレー沢: 育児にお金がかかって老後資金が貯められないというケースも多いですね。

――いろいろな問題が山積していますが、『ひとりでしにたい』には老後を生きるためのヒントがしっかり提示されているのがありがたいです。個人的には、「孤独と不安は人間を『馬鹿』にしてしまう」というフレーズが突き刺さりました。

カレー沢: 孤独と不安は焦りから生まれます。やっぱり焦るのはよくありません。「明日にでも老後資金2000万円貯めなきゃ!」と焦ってしまうと、リスクの高いおかしな投資に手を出してしまい、大損して、自暴自棄になってしまう。自暴自棄になると、健康も人付き合いも何もかもどうでもよくなって、死んでしまったのに誰にも気が付かれないという状態に陥ってしまうのです。

――孤独死への一本道……!

カレー沢: 自暴自棄になってしまう原因は、不安と焦りから生じるおかしな行動です。おかしな行動がマイナスの結果を引き起こして、「どうでもいいや」という気持ちにさせてしまうのです。

――孤独死してしまった光子伯母さんが、遺品としてバイブを残していたという強烈なエピソードがありますが、これは実話なのでしょうか?

カレー沢: 孤独死した人や独居老人の部屋を片付けると、アダルトグッズやエロ本がどさっと出てきて家族がブルーになるということはよくあるようです。男性のほうが多いと思いますが、女性も皆無ではありません。自暴自棄になっても性欲は最後まで残るものなんでしょうね。

――人間は業が深い生き物ですね……。

***

『ひとりでしにたい』を読んでいると、大笑いしながら胸が痛くなり、自分の無知に気づきつつも大切な教えを得ることができます。そこには作者のカレー沢さんの真摯なメッセージが込められていました。シビアな話題が続きますが、後編では「生きる意欲」の源についてうかがいます。

後編はこちら:カレー沢薫さん「楽しみを捨ててお金を貯めたって、『死ぬか……』と思うだけ」(後編)

ライター。「エキレビ!」などでドラマ評を執筆。名古屋出身の中日ドラゴンズファン。「文春野球ペナントレース」の中日ドラゴンズ監督を務める。

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