カレー沢薫さん「楽しみを捨ててお金を貯めたって、『死ぬか……』と思うだけ」(後編)

ミレニアル女子の終活ストーリーを描いた『ひとりでしにたい』。結局人間はいつか一人で死ぬものわかっているからこそ、将来への不安はつのるばかり……。後編では、カレー沢薫さんに、孤独死をおそれないための心がけをうかがいました。

「ひとりで腐って死なないために、ひとりで潔く生きよう」――。35歳・独身の山口鳴海が「婚活」ではなく「終活」を始めるカレー沢薫先生の最新コミック『ひとりでしにたい』①(講談社)。

老後への不安と焦りが募る中、私たちが孤独死を避けるためにしなければいけないこととは何でしょうか? 孤独死と「推し」の関係について、カレー沢薫先生にお話をうかがいました。

友達にはなかなか「助けて」と言えない

――カレー沢先生は、老後の不安について同年代のお友達と話し合ったりすることはありますか?

カレー沢薫(以下、カレー沢): 「これから先、どうしよう……」という話題になることはありますね(笑)。家族がいる友人も独身の友人もいますが、同じように老後の話題になります。本気かどうかはわかりませんが、最終的には「独り身の女性同士でシェアハウスして、みんなで暮らそう」という結論に落ち着くことが多いですね。

――カレー沢先生ご自身は、老後をシェアハウスで過ごしたいとお考えになりますか?

カレー沢: 今はひとりでも大丈夫ですが、老人になってからひとりで生活するのは大変になると思います。ただ、私はコミュニケーション能力が低いほうなので、シェアハウスと言われると「イヤだなぁ……」と思ってしまいます。シェアハウスとまではいかなくても、お互いに生存確認できるようなシステムを作ってもらって、家族じゃなくても毎日生きていることだけは確認できるようにしておきたいですね。早くそういうシステムを作ってもらいたいです(笑)。

――たしかに、親しい友達と助け合いながら老後を過ごすことができれば安心だと思います。

カレー沢: ただ、友達には「助けてほしい」ってなかなか言えなかったりするんですよね。そういうときは、行政の人に「助けて」と言うべきでしょう。彼らは仕事なので、ちゃんと助けてくれるはず。困ったことがあったら、行政のどこに行けばいいのか、元気なうちに調べておくことが大事だと思います。体調が悪くなったり、生活に余裕がなくなったりしたら、調べる気力もなくなってしまうかもしれませんからね。

大切なのは知識です。「この窓口に行けばいい」と知っておけば、安心につながります。焦りや不安を少しでもなくしておけば、バカな行動を防ぐことができるようになると思うんです。

――無知が焦りを呼んで自暴自棄になり、孤立して孤独死してしまうわけですね。

カレー沢: そうなんです。全部つながっているのですね。

なぜ結婚がペットより上だと言い切れるのか

――『ひとりでしにたい』の主人公の鳴海は、男性アイドルの大ファンで追っかけもしています。また、ペットの猫を「神」と崇めて非常に大切にしています。このような「推し」の存在はどのような影響を及ぼすと思いますか?

カレー沢: 私もオタクなのですが、オタクにとって推しは「生きる理由」なんです。働くのも正直イヤなのですが、得たお金で推しのコンサートに行くことができると思えば、やる気が出てきます。何かイベントなどが行われる日がわかれば、「この日までは死ねない!」と思いますね(笑)。

ペットも飼い主あってのものなので、「もし自分の身に何かあったら」と思うと、おいそれと死ぬわけにはいかん! と思うようになります。推しやペットのような大切な存在があれば、自暴自棄にはなりにくくなりますよね。

「独身女性がペットを飼うと婚期が遅れる」という物言いもありますが、それも結婚至上主義の一つの表れに過ぎません。なぜ結婚がペットより上だと言い切れるのか。どう考えても猫のほうがいいじゃないか、って。

――推しもペットも生きる活力になるわけですね。猫のためにしっかりしようと思えば、自暴自棄になることもない、と。カレー沢先生は「刀剣乱舞」のオタクとしても知られています。

カレー沢: いろいろ渡り歩きましたが、やっぱりゲームやマンガがなくなってしまったら、きっと今頃、もっと悲惨なことになっていたと思います……。「刀剣乱舞」も好きですが、今は「FGO」というソシャゲもハマってやっています。時間もお金もけっこうかけていますね。やればやるほど応えてくれますし、イベントなどがあれば「この日までは生きよう!」と思いますからね。

――「孤独死したくないなら 担当という『希望』への『投資』一番ケチっちゃダメですよ」というセリフもありました。生身のアイドルに限らず、ゲームでもマンガでも何かハマれるものがあればいい、ということですね。

カレー沢: 楽しみって本当に大事だな、と思います。推しに会いに行くから洋服を買ったり、おしゃれをしたりしますからね。身なりに気をつけたり、ダイエットをしたりする人もいます。楽しみは生きる意欲と働く意欲につながります。すべてのやる気につながるんですね。

すべての楽しみを捨てて老後資金の2000万円を貯めたとしても、何も楽しみが残っていなければ「死ぬか……」と思うんじゃないでしょうか(笑)。

――最後にあらためて30代、40代の人が孤独死を恐れないようにするには、どういうことを心がけていればいいのでしょう?

カレー沢: まず、焦りと不安にかられないことだと思います。老後は明日来るわけではありません。「2000万円、明日用意しろ」と言われているわけではないので、焦りと不安にかられておかしな行動をとってしまわないように注意するべきだと思います。

不安や焦りは知識を得ることで解消できるので、あとは自分の楽しみを見つけてください。楽しみと生きる意欲さえあれば、孤独死は避けられるはずですからね。


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「楽しみ」とは、ある人にとっては趣味であり、ある人にとっては推しであり、ある人にとっては仕事であり、ある人にとっては家族であり……。
正解があるわけではないし、答えはひとつじゃない。
その人にとって、生きる意欲につながる「楽しみ」を見つければ、(あと、ちゃんと知識を身につけておけば)老後も孤独死も怖くはない。そんなことがわかったカレー沢先生のお話でした。
『ひとりでしにたい』、今後の展開からも目が離せません。

ライター。「エキレビ!」などでドラマ評を執筆。名古屋出身の中日ドラゴンズファン。「文春野球ペナントレース」の中日ドラゴンズ監督を務める。