8年に渡る『アラサーちゃん』(週刊『SPA!』)の連載を終えたばかりの作家・峰なゆかさん。

峰なゆかさん「アラサーちゃんで”結婚=ハッピーエンド”のストーリーは描きたくなかった」

週刊『SPA!』(扶桑社)で2011年から8年間にわたり連載された「アラサーちゃん」。2019年10月に最終回を迎え、11月20日に最終刊となる『アラサーちゃん 無修正 7巻』が発売されました。連載を終えた時の気持ち、新連載への意気込みを、作者の峰なゆかさんにうかがいました。

「結婚は幸せ、離婚は不幸」というストーリーは描きたくなかった

――「アラサーちゃん」 連載をやめると決めた瞬間はいつだったのですか。

峰なゆかさん(以下、峰): いつ終わらせようか、みたいな話は3年くらい前から話していた気がします。決断したのは1年前。あと1巻で終わらせようと決めました。私がアラサーじゃなくなるというのもいい節目だなっていう感じで。

――連載を始める時から終わりのことを考えていましたか。

峰: 「アラサーちゃん」は4コマ漫画なので、終わらせない方向性でいくんだったら、それぞれのキャラの関係性は絶対変わらない方がいいんですよ。サザエさんみたいに。でも、描いていくうちに、キャラの関係がどんどん変化していきました。だから、いつか終わらせるというイメージは最初からあったのかもしれません。もうこれ以上、キャラの関係性を動かしようがなくなってしまったタイミングが今だったというのもありますね。

取材に笑顔で答える作家・峰なゆかさん。

――描くのをやめると決めた時は寂しかったですか、それともうれしかったですか。

峰: それは、寂しかったですね。最後の1、2話を描いていて「あっ、もうこれ描かないんだ」と実感したときは特に。あとは、普段の生活で今までのようにアラサーちゃんで描くのにいいネタを思いついちゃったら、私はどうすればいいんだ!?と思ったりしますね(笑)。

――アラサーちゃんが結婚して離婚して最終回を迎えましたが、その想いは?

峰: とりあえずアラサーちゃんを結婚させたのはいいものの、最終回どうしようみたいな焦りはありました。
個人的には、結婚にあまり意味をもたせたくないという気持ちがあって。私自身、絶対結婚したくないというわけじゃないけれど、なんとなく結婚するのは嫌なんですよね。面倒くさいし。相手がすごくお金をくれるとか、何らかのメリットが私にあるならするみたいな(笑)。
アラサーちゃん自身も、収入が減ったタイミングで「養ってもらおうかな」というノリで結婚している。私、「結婚する」って意味で「幸せになる」って表現を使われるのがめちゃくちゃ嫌なんです。籍を入れるか入れないかで、幸せの度合いって変わんなくない?と思うんです。
離婚ももめなければあっさりいくんですよね。もめたら大変ですけど。結婚が幸せ、離婚が不幸とも思わないし、そういうストーリーは描きたくなかったです。

8年に渡る連載を終えた、峰なゆかさんの手。

この10年は「アラサー」女性が元気だった時代

――アラサーちゃんを描いてきた約8年間、どういう時代だったと総括しますか。

峰: その時々でパワーを持っている世代がいますが、この10年はアラサー女性が力を持っていた時代なんじゃないかと思います。
私がアラサーちゃんを描き始めた25歳の頃のちょっと前に、アラサーという言葉が生まれて、アラサー世代が注目され始めた。アラサー世代に対しては、一筋縄ではいかなさそうなところが、楽しそうというか、興味深いという印象を持っていました。

――次の連載は「アラフォーちゃん」という案もあったのでは。

峰: 「アラフォーちゃん」って聞いて、あんまり読みたいと思えなかったんですよね(笑)。テーマ自体はありだと思うのですが、タイトルはきっとアラフォーちゃんではないですよね。
アラサー世代が一番、生きていくなかで迷いやすくて、キャラクターがずれたり変わったりする時期。それがが描き手も読み手もおもしろい。この世代だからこそ、ヤリマンちゃんがフェミニストになったり、ゆるふわちゃんが病んでしまったり、変化があったんです。
ところが、アラフォー世代になると、すでにキャラが確立してぶれないし、友達との会話も親の介護とか更年期とか尿もれとか......あんまり明るい話題がない(笑)。
私がこれから45まで過ごすなかで、アラフォーっていろいろあって、描くこともたくさんあるんじゃんって思う可能性もゼロではないけれど......。.今はまだアラフォーの面白さに気づけてないんだと思います。

時折、真剣な表情を見せる峰なゆかさん。

新しい連載では「正しいAV業界」を伝えたい

――「アラサーちゃん」が終わって、新連載「AV女優ちゃん」が始まりましたね。

峰: この連載では、正しいAV業界像を伝えたいと思っています。というのも、世の中に出回ってるAV業界情報はフィクションなんですよ。現実と全然違うんです。
世の中のAV女優に対するイメージって、両極端な2つでしかない。「セックスが大好きで、誇りをもって仕事をしています!」みたいなすっごく明るい感じか、「義理の父親にレイプされたトラウマで……」みたいにめちゃくちゃ暗い感じか。実際に働いてみると、どっちでもないんです。明るいAV物語も暗いAV物語も、AV女優にとって都合がいいから、「そういうこと」にしておく傾向はあります。

――都合がいいとはどういう意味ですか?

峰: AV女優って、周りの人に「なんでこの仕事してるの?」ってものすごく質問されるんですよ。みんなAV女優を選んだ理由に納得したくて聞いてくる。でも、それって「なんでこの世に生まれてきたのか?」みたいな質問で、考えるほどしんどくなっていくんですよね。だから、相手が納得する理由をでっち上げてる。私はそういう話を描きたいです。

――ちなみに、峰さんはなぜAV女優になったんですか?

峰: 2文字で言うと「ノリ」ですね。学生時代のバイトってそんなものなんじゃないかなって。

●次回予告
「アラサーちゃん」連載終了の寂しさと新連載「AV女優ちゃん」への意気込みを語ってくださった峰さん。後編では、峰さんご自身の結婚観や仕事観を伺いました。

●峰なゆかさんのプロフィール
漫画家・ライター。2011年から週刊SPA!(扶桑社)にて連載していた「アラサーちゃん」が2019年10月に完結。現在は同誌にて「AV女優ちゃん」を連載中。著書に「女くどき飯(扶桑社)」や、イラストエッセイ「オシャレな人って思われたい!(扶桑社)」など。

週刊『SPA!』(扶桑社)で2011年から8年間にわたり連載された「アラサーちゃん」。

アラサーちゃん 無修正 7巻

峰なゆか

2019年11月20日発売
発行:扶桑社
価格:990円(税込)

1983年生まれ。社会人13年で転職4回。バツイチ。恋愛・結婚・女性性・人間関係・生き辛さなどの話題に興味があります。お笑い・現代アート・バームロールが好きです。
フォトグラファー。北海道中標津出身。自身の作品を制作しながら映画スチール、雑誌、書籍、ブランドルックブック、オウンドメディア、広告など幅広く活動中。

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