宝島社カリスマ女性編集長が語る「さくらももこさんと私と仕事」

 宝島社と言えば、豪華な付録つきの雑誌や書籍で近年、存在感を増している出版社。その中で、ヒット作を連発しているミレニアル世代の女性がいます。同社マルチメディア局第2編集部の皆川祐実編集長(32)。子どものころは『ちびまる子ちゃん』の作者である「さくらももこさんになりたかった」そうで、さくらさんから自身宛ての直筆原稿が贈られたことも。皆川さんに、ヒットを生みだす仕事術をうかがいました。

 皆川さんが所属するマルチメディア局では、美容グッズや調理器具、玩具や健康・ダイエットグッズなどの付録を軸に、その使い方などを説明する小冊子をつけた「マルチメディア商品」を開発しています。

 最近では、スウェーデン発の人気雑貨ブランド「moz」と連携した「moz BIG BACKPACK BOOK」が累計31万部、「a-jolie(アジョリー) サングラスかごバッグBOOK」が累計6万部を突破するなどのヒットを飛ばしました。

 「moz」については、コンパクトで、中のバッグがどんなものかが見やすい透明なパッケージにした商品を開発しました。透明にしたのは、買う人にとってはバッグの生地が分かった方が親切だろうという考えから。Tシャツを透明な袋に包む「パックT」という販売形態を参考に、「透明化しつつ、ちょっとオシャレにできたら良いな、と思い、これに至りました」と話します。

透明パッケージに入った「moz」のバッグについて説明する皆川さん

地下鉄のエスカレーターで、「流行」をじっと観察

 皆川さんが編集方針として大事にしているのは、「コラボするブランドにとって良いものかどうか」と、「絶対に売る」ということ。そのためには、企画会議を通じて「これは売れそうだ」という感覚をつかんだら、提携先となるブランドには自ら乗り込み、「うちとやらせていただけませんか」とプレゼンテーションをします。

 世間の流行を把握するためのリサーチも欠かせません。プレゼンのために外回りも多い皆川さんですが、その合間の時間帯には、表参道や新宿に足を運びます。「表参道と新宿あたりにいる女の子はとにかく流行りもの、新しいものが好きなので、その子たちの服装とかを見ていると、『これをすごくよく見るから、こういう商品を今作ったらウケるんじゃないか』などと、ヒントをもらうことができます」

 地下鉄で長いエスカレーターに乗っている時も、反対側のエスカレーターに乗る女性がどこのブランドの商品を持っているかを数えるそうです。

 税別1850円で販売した「a-jolie(アジョリー) サングラスかごバッグBOOK」も、街での観察からヒントを得て作りました。一昨年あたりから、サングラスをかけた人の顔をモチーフにした「かごバック」をショーウィンドーでなぜかよく見る。ネットで調べてみたら、常に品切れ。

 直接ブランドに会いに行ったら、皆川さんの予想をはるかに超えて売れている上、フィリピンの職人が一つひとつ手作りしているということもあり、出荷したらすぐに売り切れになる状態が何年も続いていることが分かりました。

6万部を超えるヒットとなった「a―jolie(アジョリー) サングラスかごバッグBOOK」(宝島社)

 普段、a-jolieで売っているバッグは、この商品の10倍程度の値段。この商品は、「興味はあるけれど……」という層にとっての入り口的な役割を果たしたようで、その後、a-jolieのバッグを求める新規の客が増え、ブランド側も喜んでくれたそう。 

 宝島社の雑誌やマルチメディア商品は数万~数十万部単位で発行されるため、独自に開拓した海外の工場で大量生産することで、高品質の付録を安価につくることが可能となっているそうです。

「アイディアはセンスではなく、積み重ねで湧いてくる」

 そんな皆川さんですが、「常にギリギリ人生」と苦笑して話します。

 物心ついたころから絵を描くのが好きで、本が好き。「本を作りたい。装丁をしたい」と、多摩美術大学美術学部の情報デザイン学科に進みましたが、そこで周囲の画力、センス、知識に圧倒されたといいます。

 「たぶん私はギリギリで入学したので、大学4年間、プライドとかケチョンケチョンにされました」。

 就職活動ではデザイン会社をたくさん受けましたが、不合格続き。「全然受からなくてどうしようかなと思って、ぼんやりしていた時にたまたま宝島社を見つけた」。同社のアルバイトとして社会人生活をはじめ、契約社員時代を含め計6年ほどを経て正社員になりました。だから、どんなにヒット作を飛ばそうと、「大学時代の友達のあの子がやった方が絶対すごいよな」という思いが常にあるそうです。

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 日々思ったことや、新しくキャッチした情報の中で共有したいことを短文で送る「ほぼ日刊皆川新聞」というメールをスタッフに送っています。

 ある日、「アイデアはセンスではありません」と書いて送信しました。

 それは、「センスよりも積み重ね」で実績を生んできた自分自身の経験に根ざした思いでした。「自分にはセンスがないのではないか」と悩んでいるように見えたスタッフに何かヒントをつかんでもらえれば、という気持ちを込めたメッセージでもあったそう。

皆川さんが手がけたマルチメディア商品の数々

「邪道」と思われても、新しいことをしていきたい

 皆川さんに将来の目標を聞くと、「1年以内くらいに50万部発行の商品を作ってみたい」という答えが返ってきました。 

 出版業界は厳しい状況が続きますが、宝島社は2010年に2度、雑誌「sweet」で100万部以上を発行した記録があります。「その半分くらい、50とかでも、目指してみたいなあと思っています」。自分が就職活動をしていた頃の、出版業界が輝いていた時代を取り戻したい、という思いがあるそうです。 

 「私の会社は大手ではないですし、超有名作家の版権のようなコンテンツがあるわけでもなく、1個1個商品についてどうやったら売れるかを研究して作っている。これが本か、と言われたら、本ではない、という人もいっぱいいるでしょうから、王道というよりは邪道だと思うんです。なので、邪道なりの戦い方というのを胸に、新しいことを色々できたら良いかな、と思っています」

  • ●皆川さんのプロフィールはこちら
  • みなかわ・ゆうみ 1986年、栃木県生まれ。多摩美術大学美術学部情報デザイン学科卒業。2008年に宝島社に入社し、マルチメディア編集部に配属。17年2月から現職。子どものころは『ちびまる子ちゃん』の作者である「さくらももこさんになりたかった」とのこと。さくらさんの作品の「コジコジ」との提携商品を手がけた際は、さくらさんから自身宛ての直筆原稿が贈られ、「その時は、泣きました」。
未婚、既婚、子どもの有無、転職や独立の経験者。恋好き、旅好き、おいしいもの好き(缶チューハイ含む)。さまざまなstoryを持つ「telling,」編集部メンバー。