【高尾美穂医師に聞く#18】痛みで性交渉がつらい……。なかなか人には言えない悩み、どうすれば?
Q. 「挿入するときに痛みがあって性交渉がつらいです。婦人科検診も苦痛です。パートナーが変わっても同じ状況で悩んでいますが、人には言いづらいです」(30代女性)
高尾美穂医師(以下、高尾): 挿入時の痛みに悩む人は、年齢に関わらずたくさんいらっしゃいます。婦人科の内診でも、痛みで叫ばずにはいられないような人もいますし、そういう姿を見ると、性交時も苦労されているのかなと心配に思うのも確かです。
――性交痛(挿入の痛み)について、どんな原因が考えられるでしょうか? また、対処法はありますか?
高尾: このご相談者の場合、まず考えられるのは、緊張感が強いのかもしれないということ。それにより、骨盤底筋が収縮するような姿勢になり、自分で腟を締めてしまうことで、よりつらい痛みにつながります。また、緊張が強い状態だと腟が濡れにくく、摩擦による痛みも起こりやすくなります。
この方には、まず性交渉を持ちたいのかどうかを聞いてみたいですね。もししたくないなら、しないという選択肢もあるわけです。ただ、お相手のことが好きで、性交渉をしたいという気持ちはあっても、緊張感が強くて痛みにつながっている場合もあります。
――痛みには、精神的な部分も大きく関係しているのですね。
高尾: 必要以上に緊張してしまうというのは、「怖い」という思いが先に立っているのではないかと思います。思い出すのはつらいかもしれませんが、自分の人生を遡ってみたとき、例えば最初の性交渉がつらかったとか、痴漢にあった経験があるとか、何かしらトラウマとなりうる出来事があったりしませんか? それを振り返ってみることは必要かもしれません。
40代以降の更年期障害なら効果的な治療も
――年齢を重ね、以前はなかった挿入時の痛みを感じるという人も多いようですが、そのような場合とは対処法などは異なるのでしょうか。
高尾: 40代半ば以降、女性ホルモンの一つであるエストロゲンが減少することで、挿入に限らず性交時の痛みが起こりやすくなります。これは更年期障害の一つで、エストロゲンを補うホルモン補充療法がかなり効果的です。ただ、ご相談者さんのように30代でエストロゲンが十分にある世代だと、ホルモン補充療法が有効とは言えません。そうすると、やはりご本人がリラックスすることが大切で、お相手と信頼関係を含めたコミュニケーションを深めることが必要になってくると思います。
――「痛み」について、パートナーに伝えることが難しい、という人も多いと思います。良いコミュニケーションの取り方はありますか?
高尾: 「言ったら嫌われてしまうのではないか」「相手に対して申し訳ない」といった思いから、パートナーに本音が話せないという人が多いようですが、それって、十分なパートナーシップが築けていると言えるでしょうか。そもそも性交渉を持つこと自体、二人の合意の上に成り立つもの。どちらか一方の気持ちだけを優先する必要はありません。
このご相談では、パートナーが望んでいるから自分が応えたいという気持ちが強いように感じます。性交渉の悩みには、男性側が勃たない・挿入できない、オーガズムに達しないなど、いろんなものがありますが、その中では「痛み」はとてもわかりやすい悩みだとも言えます。素直に「痛くて性交渉がつらい」と伝えてみてもいいのではないでしょうか? 案外、ちゃんと伝わっていなかったりもするものです。
女性も心地良さを追求するのは当然
――そう思うと少し気が楽になりますね。他にもパートナーとのコミュニケーションで大切にしたいことはあるでしょうか?
高尾: やはり二人でより良い状態になろうと努力できるといいですよね。例えば、性交渉の際、細い指から入れてみて段階を踏むとか、お尻の下に枕を置くなど痛みの出ない体勢を探ってみるとか、そういう工夫を一緒に楽しんでくれるパートナーだと、性交渉へのネガティブな印象や緊張も和らいでくるのではないでしょうか。なんとなく「相手に申し訳ない」と我慢していると、どんどんつらくなってしまうように思います。
そもそも挿入だけが性交渉ではありません。「挿入をすべき」と思い込む必要はないんですよ。二人でゴロゴロ寝ているだけだって、十分幸せを感じられると思います。男性主体の性交渉という時代ではありませんから、女性も自分の心地良さや快適さを追求するのは当然のこと。そのためには自分の心や体の仕組みについて知るのはもちろんのこと、パートナーとのコミュニケーションを深めて、二人にとって一番いいパートナーシップの形が見つけられるといいですね。
――ご相談者のように、痛みから診察が苦痛になってしまうと、婦人科から足が遠のいてしまい、病気の発見が遅れるといった危険も考えられますよね。
高尾: 婦人科の診察を苦手だと言う人はたくさんいます。そもそも得意な人なんて、まずいません。特に、最初に受診したときにつらい経験をされた場合、リカバリーはなかなか難しくなってしまいます。だから、私も初めて内診を受ける人には、「日常生活で感じない違和感はあると思うけど、飛び上がるほど痛いものではありません」と、あらかじめ説明するようにしています。
太い針を刺したり手術をしたりなど、体を傷つけないと診ることができないような場所が多いなかで、婦人科の診察で腟という元々準備されている通り道を通して子宮をかなり間近に診ることができるのは、とても貴重なことです。診察の機会をぜひ大事にしてほしいと思います。
著者:高尾美穂
発行:朝日新聞出版
価格:1760円(税込)
高尾美穂さん初の「性教育本」。母と娘が性のことや心身の悩みについて話ができるように、知識から話し方までフルサポート。女性が人生の中で経験する心身の揺らぎについて俯瞰して知ることができるので、母に限らず、パートナーや娘、職場の同僚への理解のために、男性にも手に取ってほしい一冊です。