日本の女性映画人
「日本の女性映画人(2)――1970-1980年代」

Beyond Gender#23

男性名を名乗りピンク映画の監督に 上映企画「日本の女性映画人」から考える「女はつらいよ」 

東京・国立映画アーカイブで上映企画「日本の女性映画人」の第二弾が開催されています。今回は1970年代から80年代に公開された映画の中から、監督や脚本家、プロデューサーなどとして女性が関わった映画が上映されています。ドキュメンタリーからロマンポルノまで様々です。「女性たちにぜひ見てほしい」と語るのは、南カリフォルニア大学映画芸術学部の博士課程で、映画とジェンダーについて研究をする中根若恵さん(33)。「いまの時代に生きる私たちがパワーをもらえる」と話します。日本映画研究のため日本に一時帰国中の中根さんに、みどころを聞きました。
「母のようにはなりたくない」。母娘の深き関係。ニカラグア映画「マリア 怒りの娘」 女性だからか?実力の問題なのか? 女性の働きづらさを映画界から考えた

撮影現場に女性は存在していたが……

上映企画「日本の女性映画人」の第一弾は以前、この連載で紹介しました。そのときは、米国にいた中根さん。「この企画について知ったとき、とても嬉しく思った」と振り返ります。

「一般的に、映画の歴史自体が男性を中心に編纂されてきた。その歴史のバイアスを考え直そうとした企画として、画期的なものだなと思いました。従来の日本の映画史の中でも、女性の活躍は無視されがちでした。監督だけではなく、様々なプロが集まった集団で作られてきた映画芸術の中で、いままで光が当たらなかった女性の活躍にもフォーカスを当てることになると思います」

中根若恵さん
中根若恵さん、1991年生まれ。名古屋市で育ち、名古屋大大学院を経て南カリフォルニア大学映画芸術学部 博士課程在籍。専門は映画学とジェンダー論。論文に「作者としての出演女性——ドキュメンタリー映画『極私的エロス・恋歌1974』とウーマン・リブ」(『JunCture 超域的日本文化研究』7号、2016年)など。

映画が生まれた時代から、スクリプター(記録係)やメイク係などとして、女性は撮影現場にいました。ですが、映画という芸術を構成する重要な要員としてはみなされていなかったそう。一般の映画ファンが手にとる映画誌や映画批評、映画の研究者の間でも、伝統的に「作家」として特権的な地位を与えられてきたのが、監督でした。そして映画監督という主導的な立場にいる人たちの大半は、長らく男性が占めてきました。

しかし、この近年、「作家とは何なのか」を見直そうという考えが、アカデミアで広まっています。「映画の創造性に貢献するのは、映画監督だけではありません。脚本や美術、衣装デザインをはじめ様々な分野に視野を広げることで、これまで見落とされてきた『映画芸術を構成するクリエイティブな要素』を拾い出す動きが勢いをつけています。その流れに位置付けられるものとして、『日本の女性映画人』特集は意義のある素晴らしい企画です」と中根さんは力を込めます。

今回の特集では、「ピンク映画」も上映されます。いわゆる成人向け映画です。たとえば、佐藤啓子という女性が、「朝倉大介」名でプロデューサーとして参加した、「人妻の悶え ザ・不倫」(1981年)や、「変態家族 兄貴の嫁さん」(1984年)が上映されます。ちなみに「変態家族 兄貴の嫁さん」は、「シコふんじゃった」や「Shall We ダンス?」で知られる周防正行監督の長編デビュー作で、巨匠・小津安二郎監督にオマージュを捧げた映画として、国内外で高く評価されています。

中根さんは「佐藤啓子さんは、国映という映画会社にいた朝倉大介という男性の名義を引き継ぎ、50年以上にわたり千本以上の映画を製作し、多くの映画監督を育ててきました。そういう意味でも、今、日本映画を研究する国内外の学者たちから注目を集めている存在です」。

浜野佐知監督(75)の映画「ダブルEカップ 完熟」や「(生)性体験 世にもみだらな女たち」も上映されます。浜野監督は、男性中心の旧態依然とした映画界ではなく、ピンク映画に活路を見出し、300本以上作ってきました。女性が率先して脱ぐなど、男の妄想を一蹴するような映画を世に送り出してきました。

浜野佐知さん
大手映画会社の撮影所の演出部の採用条件は「大卒男子」だったため、ピンク映画の世界でキャリアを積んだ浜野佐知さん。「第七官界彷徨 尾崎翠を探して」や「百合子、ダスヴィダーニヤ」などの一般映画も手がけている。『女になれない職業 いかにして300本超の映画を監督・制作したか。』という自伝も出版した。

「ピンク映画といえば、今回は『グレープフルーツのような女 性乱の日々』の監督・沖山秀子さんや、珠瑠美(たま・るみ)さんの『熟女スワップ若妻レズ 乱行恥態』も上映されます。ロマンポルノといえば、鹿水晶子さんが脚本を書いた『団地妻 二人だけの夜』も。ピンク映画やロマンポルノもすごく男社会なので、そこで働く難しさはどれほどだったかと思います……」

なぜ女性たちがそういうジャンルで活躍したのか。それまで、自社スタジオを構えて監督からスタッフ、俳優まで大人数を抱える大手映画会社が主導で日本の映画は作られてきました。そこではもともと女性に門戸が開かれていなかったのです。

「一方で、1960年ごろからテレビの台頭によって、映画業界が斜陽化していきました。テレビや他のメディアとの差別化をはからなくてはいけなくなったのです。そこで映画業界では、大手映画会社以外の場で、若手の人材を積極的に取り入れたり、新しい実験を行ったりしました。そこにピンク映画などの新しいジャンルが開拓されていったのです。大手映画会社の日活も、男性の欲情に訴える成人映画路線、ロマンポルノに転換しました。そこでは実験的な映像を撮れたので、若手が育つ場になりました。そこに強固なジェンダー分業意識は残りつつも、垂直統合的な従来のスタジオシステムに比べると、監督や製作者として女性が参入する余地が生じてきたと言えるのかもしれません」

女性映画人の特集とはいえ、映画館でピンク映画やロマンポルノをみることに抵抗感や不安を感じる女性は少なくありません。国立映画アーカイブでは、そういった映画の場合は女性専用席を設けています。「私も名古屋で学生だった時、ピンク映画を映画館で見たくても行けませんでした。今回の特集ではそういった配慮がされているのもいいですね」

女性アーティストたちの縦軸を感じて

ほかに中根さんが注目するのは、ドキュメンタリー監督の鷲樹丸(村上靖子)さん。女性の自由と抑圧をテーマに、鎌倉時代の巫女と1970年代の多摩ニュータウンの日常を交錯させた実験的作品だという。とても難解そうですが……。

「多摩ニュータウンの主婦が子供と遊んでいる風景といった日常がリアルに描かれていて、高度経済成長期の日本社会の『幸福』を象徴するような一側面をみせています。自然を破壊してできた団地にある幸せなのですが、それをあえて完全に否定することもしていない。セリフがないので難解に思えますが、ニュータウンが開発される音や笛の演奏など、いろんな効果音が使われていて、観客を飽きさせることはありません。自然破壊を批評しつつも、当時を生きていた女性のリアリティを描きだそうとするニュアンスのある視点が面白いですよ」

鷲樹丸監督の「わらじの片っぽ」
鷲樹丸監督の「わらじの片っぽ」

出光興産の創業者を父にもち、米国を拠点に活躍する実験映画作家の出光真子さんの作品も上映されます。女性がアーティストとして活躍する際に、いかに「女のくせに」というプレッシャーが足かせになるかを描いた「加恵、女の子でしょ!」などが上映される予定です。

「出光さんは、日本と米国を行き来して育まれた独特の感性やユーモアに基づいて映画を作っている方です。当時の米国のフェミニズム運動とどういう関わりがあったのかとかを考えながら見ても興味深いです。くすっと笑える部分があったり、共感できる部分があったりして、女性として生きていくことや、女性のアーティストとして表現することの難しさが彼女の独特のユーモアを通じて表現されています」

『加恵、女の子でしょ!』(c)STUDIO IDEMITSU
『加恵、女の子でしょ!』©STUDIO IDEMITSU

「今の時代の映画を見慣れていると、昔の映画っていうのは、モノクロだったり映像の質がよくなかったりして物足りなさを感じる観客もいるとは思うんです。今の常識からみて、驚くことや首を傾げたくなるような描写もありますが、それが時代の空気を切り取る記録としてすごく興味深いと思います」

現代人は、日々の出来事に追われてしまいがちです。自分の過去を振り返ったり、未来について考えたり、ましてや社会の来し方行く末に思いを巡らせる時間がゆっくりとれない人は少なくありません。中根さんは結びます。

「時代が異なっても女性たちが撮る映画には、女性としての生きづらさだったり、言葉では表現できない葛藤だったり、普遍的な苦しさや困難がにじみでています。そういった問題意識があったからこそ、社会が徐々にジェンダー平等へと向かってきて、私たちが生きる現代につながっていたりする。自分の存在が現代という“点”ではなく、様々な女性たちが生きてきた歴史の“縦軸”に連なるんだなと思い出せてくれるような力をこの作品たちは持っている。この特集は、そうしたつながりを認識させてくれる素晴らしい機会だと思います」

特集上映「日本の女性映画人(2) 1970―1980年代」は、3月24日まで、東京都・京橋にある「国立映画アーカイブ」で開催中です。チケットは一般520円です。公式HPのチケットサイトで上映3日前から発売されます。

「母のようにはなりたくない」。母娘の深き関係。ニカラグア映画「マリア 怒りの娘」 女性だからか?実力の問題なのか? 女性の働きづらさを映画界から考えた
朝日新聞記者。#MeToo運動の最中に、各国の映画祭を取材し、映画業界のジェンダー問題への関心を高める。

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